投獄
翌朝。ラッセルは飛行機に乗り込んだ。村人達が見守る中、離陸する。皆が手を振ってラッセルを見送った。
「たまには良いこともするもんだ。実に気分が良い」
ラッセルは上機嫌で帰路に着いた。ラジオをつけるが、まだステアナの歌の時間ではなかったようだ。午前中に帰還するのは珍しいのでそうなるだろう。
何も無い平和な空を優雅に飛ぶカーチスp1。
やがてラッセルの飛行機が飛行場に着陸する。そしてそのままドックの中に入った。
しかし、ドックの様子がいつもと違う。
ラッセルがカーチスP1から降りると、外には官警が待っていた。
「お前は光輝なる星輪隊のラッセルだな?」
官警のリーダーがラッセルに尋ねる。
「そうだが、あんたたちは?」
ラッセルが答えると官警達が頷きあってラッセルに槍を突き出した。
「お前は昨日空で決闘を行ったな? みだりに私闘を行ってはならないと言う帝国法に背いた。よって連行する!」
官警達は有無を言わせなかった。縛りあげられるラッセル。
「待ってくれ! あれは仕方がなかったんだ! 俺は先を急いでいたし、やつを振り切ることもできなかった! 降りかかる火の粉を振り払ったまでだ!」
ラッセルが必死に言い訳をした。しかし、官警達は聞く耳を持たなかった。乱暴にラッセルを引き立てる。
「ええい、きりきり歩けい! この罪人めが!」
ラッセルは槍で威嚇され、仕方無しに歩き始めた。護送馬車に乗せられ、そのまま城へと向かった。ラッセルは馬車の中で、とんだ事になったものだと思った。それもこれもドゥービーに挑まれて仕方無しに撃墜したに過ぎない。そうしなければ自分がやられていた。
どかっ!
ラッセルは地下牢に蹴り入れられた。
「あいたたたた!」
ラッセルが牢屋の床を転がる。
「お前には追って刑が通達されるだろう。それまでそこでおとなしくしておれ!」
官警達は去って行った。
「くそったれ! なんで俺がこんなところに・・・・・・」
ラッセルは牢屋の中を見渡した。ぼろぼろな敷物が一つあるくらいで、他には何もなかった。部屋の片隅の便所が悪臭を放っている。ラッセルは仕方無しに寝転んだ。
コンコンコン。何か壁を叩くような音が聞こえてくる。
「お若いの。お前さん一体何をやりなさった? ここはコソドロなどが入るような場所ではござらんぞ」
年老いた男の声が聞こえてくる。
「あぁ? 俺かい。飛行機で決闘を行った罪だとさ。俺ぁ売られた喧嘩を買ったに過ぎないんだがな」
ラッセルは敷物に乗って座る。石床にそのまま座ったら体が痛くなりそうだったからだ。
「ほうほう、そうかい。血気盛んで何よりだ。昔は男といえば決闘に生き残った者が大人だといわれていたでなぁ」
「爺さん。そりゃいつの話だい。ところであんたは何をやってこんなところに?」
「ワシかい? 帝王様に平和路線の政策を献上しようとしてこうなったわい」
ラッセルは老人の言葉に驚いた。献策するような身分といえば上級貴族であろう。
「そうかい。聖ハドロネス帝は平和がお嫌いかい。やっぱり戦争を始めるつもりなのだろう」
「東側地帯を開墾すれば少しは穀倉地帯を得られようものだが、あちらも飛翔系の魔物が多いので、誰も国民は行きたがらんのよな。誰もが西海岸沿いの平和な地帯でのんびりと暮らしていたいわけじゃ。漁業以外に発展する物はないがの」
ラッセルは思い出した。先日ハーピー狩りをしたことを。あんな連中がいつ飛んでくるかわからない土地など、住むのはごめんだった。
「選択肢などないさ。北側は国境紛争で危険な地域。南側は泥炭地帯で疫病が蔓延しやすい。誰も彼もが住み心地の良い西側地帯に住みたがる。そんなもんだろうよ。俺だってそうする」
「それが現状の帝国の問題を引き起こしておるがの。北の国に攻め入ろうというくらいなら、東側の地域を開墾したほうがまだ平和になろうて」
ラッセルは北側の国が豊かで恵みの多い場所であることを思い出した。初めからなんでも揃っている場所を欲しがろうとするのが人の性だろう。
「そんな意見は帝王様が欲していなかったってかい。やれやれ」
そうこうやり取りをしているうちに、話のネタがなくなり静かになった。ラッセルは仕方がないので敷物の上で眠った。他にする事がないのだ。