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ジョッシュ登場

 その夜。幸運の白羊亭で派手な宴会が開かれる。所狭しと並ぶ酒と料理達に、次々と手を伸ばす光輝なる星輪隊の面々。


「やっぱり一日の終わりはラムチョップステーキに限るぜ!」


 ラッセルも大好物のステーキにありついて上機嫌だった。


「さて、今日のリザルトはいかがなものでしょうな?」


 ゴドウィンがエールジョッキを片手に舞台を見る。そこには水晶を持ったババアがいた。つらつらとその日の飛行機乗り達の戦果を告げていくのだ。彼らはウオッチャーと呼ばれ、空での飛行機乗り達の戦果を詳細に述べる。水晶に空での出来事が映るのだ。彼らの活躍はこうして保証され、或いは水増し報告できないようになる仕組みであった。

 ババアが水晶に手をかざし、なんたらかんたらと呪文を唱える。


「今日の光輝なる星輪隊の戦果であるが、ハーピー四十四体! ヨヘイザ、コヘイザの二人組みが三体。スティッキーノが八体。ゴドウィンが九体。ロレンスが十一体。隊長のラッセルがなんと十四体!」


 ババアが告げる大戦果に酒場中が驚いた。「やつら、東の空の制空権を完全に奪ってきたみたいだぞ」「聞いたか、ラッセルがハーピーの女王を落としたらしい」と、まことしやかに光輝なる星輪隊の活躍をささやきあう。

 ババアはその役割を終えて舞台を降りていった。続いて演奏者がピアノの前に座る。ぽろりんと鳴り響くピアノの音。そして舞台の袖から現れるステアナ。

 ステアナの舞台が今日も始まった。熱狂する酒場中の男達。いつものように歌われる飛行機乗りの歌。

 男達が歌に聞き入る。魂の慰めを。心の癒しを。体の疲れを酒で労いながら。

 ステアナが一曲歌い終わったタイミングで、ロレンスが舞台間際に立った。


「やぁ、ステアナ。今日もお前は美しい。今日のわたしは魔物を十一体撃墜した。この戦果をお前に捧げる。この分ならいずれはわたしがこの国の頂点に立つであろう!」


 またしてもロレンスが一輪の花をステアナに捧げようとしている。


「ちっ、ロレンスの野郎。まーた調子のいい事を。いずれといわず、この国ナンバーワンのエースはこの俺様よ!」


 ラッセルが不機嫌そうに一気に酒を飲み干した。


「それならアニキもステアナを口説きに行ったらいいのに。へんなの!」


 スティッキーノが後ろ手に頭の後ろで手を組み、おかしな物を見るようにラッセルを見ている。


「はははっ! スティッキーノ。世の中にはわたくしのように見守る愛もあるのですよ!」


 ゴドウィンが軽快に笑った。


「そうであるな。ロレンス殿はいささか直情的過ぎる。相手を想う思慮に欠ける点があるに思えるであるな」

「おっ、ヨヘイザ。言うようになりましたね!」


 ゴドウィンが軽くヨヘイザの肩を小突いた。

 テーブルでわいわいやっていると、にわかに舞台のほうが騒がしくなっていた。


「なんだぁ?」


 ラッセルが舞台を見ると、ロレンスと余所の男が揉めているようであった。野次馬達が集まり始めている。


「我が物顔でいるお前たちがまかりなりませんね。この国一番の飛行機乗りの隊は我々落日の光隊。この国一番の飛行機乗りはその隊長であるこのジョッシュに決まっています。ほかならぬステアナにふさわしい男とはこの私。それを心得置きなさい」


 ロレンスに負けず劣らずの長髪をたなびかせて、一人の男がロレンスの前に立っていた。何かケンカでも始まりそうな雰囲気だったので、ラッセルが立ち上がる。


「おいおいお前ら。立て続けにケンカでステアナの舞台をめちゃくちゃにするわけにはいかん。双方退け」


 ラッセルが両腕を広げてロレンスとジョッシュの間に割って入った。


「お前は光輝なる星輪隊の隊長のラッセルか。噂は聞き及んでいる。この私に負けず劣らずの凄腕パイロットであると。しかし、お前達の進撃もこれまでだ! これからはこの落日の光隊の栄光が巷に鳴り響くことになるだろう! お前達星の光では太陽の威光には敵わないと知れ!」


 ジョッシュがラッセルを挑発する。


「おいおいおいおい。今度は落日かぁ? 陽が落ちるように地に堕ちるようにならねーようにな!」


 ラッセルも負けじと挑発に乗った。ケンカの仲裁に来たのではなかったのか。


「言うではないか、ラッセル。いずれお前とは決着をつけねばならんと思っていたところだ」

「ジョッシュ。お前の名は聞き及んでいる。空の支配者の二つ名を持っていることもな」


 ラッセルはジョッシュの事を知っていた。ドッグファイトでは敵無しと言われるジョッシュ。旋回性能で上回る魔物を相手にもドッグファイトで狩る恐るべき凄腕だという噂だった。


「空とは言わず、地上でケリをつけてやっても構わんのだぞ?」


 ジョッシュがラッセルを睨む。ラッセルも睨み返す。二人の間には火花が散っていた。


「いいぞ、ラッセル! やったれぇ!」


 ロレンスも二人の険悪な雰囲気を後押しし、ケンカをあおる。

 パンパンパン!

 場に鳴り響く甲高い音。ステアナが手を叩いたようだ。


「はいはいはい。ケンカなら余所でやってちょうだいな!」


 ステアナのよく通る声が場に響き渡る。それによって男達は冷静にかえった。野次馬達がそれぞれ自分の席に戻る。


「落日の光のジョッシュか。覚えておこう」


 そういうとラッセルもその場を離れる。その日はそれでお開きとなった。


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