恵みの施し
人通りの殆どなくなった夜の雑踏をしばらく歩くと、比較的小奇麗な建物にたどり着いた。ステアナが暮らしている集合住宅だった。
石階段を上がって二階へ上がる。
「さぁ、あがってちょうだい」
綺麗なタペストリーの掛けられた片付けられた部屋だった。
「あ、あのっ・・・・・・」
少女はどうしたらよいのかわからないようだった。
ステアナは何か調理をしていたようだが、しばらくして戻ってくる。
「はい。今日のお昼の余り物のパンとスープでよかったら食べて」
ステアナはキッチンからパンを乗せた皿とスープ皿を持ってきた。
「こんなガキ相手にそこまでする事もねぇだろうに・・・・・・」
ラッセルは呆れて見ていた。
「あなた、お名前は?」
ステアナがパンの乗った皿を少女に差し出しながら尋ねる。
「・・・・・・ドロシー・・・・・・」
「そう、良いお名前ね! ささ、遠慮しないで食べてもいいのよ」
ステアナがパンを食べるように促すが、少女は一向に食べようとはしなかった。
「・・・・・・妹がおなかを空かせてボクの帰りを待ってるの・・・・・・」
「あら、それは大変だわ! 二人分のパンが必要ね。待ってて」
ステアナがキッチンに向かい戻ってくると、もう一つのパンを持ってきた。そしてドロシーにパンを差し出す。
「これも、もらってもいいの?」
ドロシーは本当に受け取ってよいのだろうかと迷っていた。
「いいのよ。妹さんと分かち合いながら食べなさいな。さぁ、今日はもう帰りなさい。困った事があったらいつでもうちを頼っていいから」
ステアナがドロシーに温めたスープを入れた器も渡した。
ドロシーはこくりと頷くと、たたたたっと駆け出して家を出て行った。
「あーあ、ガキを餌付けして何がやりたいんだよ、お前は」
ラッセルは何かとても不機嫌だった。
「困っている子供は見過ごせないわ。ちょっと待ってて。あなたにも蜂蜜入りの紅茶を淹れるわ」
ステアナが火に掛けていたお湯をティーポットに注ぐ。そして二つのティーカップに注いで蜂蜜を入れる。
「あのガキに今日の餌を与えたところで、明日にはまた飢えているんだぞ。なにも変わりゃあしねえのによ。聖人シュトラウスいわく、ああいう輩に必要なのはパンではなく、パンを得る為の力や技術だ。すべを与えなきゃ何もかわらねえ」
ラッセルが深いため息をついた。そこにステアナがティーカップを差し出した。
聖シュトラウスとは一切の人々を救おうとした救済者の伝説。各地に様々な伝承が残っている。それはあまりにも有名で、ステアナも当然知っていた。
「糧を得るすべなら時間をかけて身につける必要があるわ。誰かが面倒を見てあげなくちゃ。それにあの子らは今日のご飯にも事欠いているのよ。あの子らには今すぐ食べられるパンが大事なの。今日と言うその日を生きるのにも精一杯なんだから。その事は孤児院を出た私達が良く知っている事じゃないの」
ラッセルは無言になった。