お前ちょっと変わったか?
暗闇は人と場の境界線をなくす。暗闇の黒さは、僕の肌を段々侵食すると同時に、僕の肌からなにかが出て行くような気がした。今まで、こんな事は思ったことは無かったが、これも章弘が感じていたことなのだろうか。章弘、何故、死んだ? そんな事を思いながら、眠りに落ちる。
朝、陽の光が僕の顔を差す。熟睡したが、頭はぼんやりしている。僕は、ベッドから抜け出し、階段を降りた。トントンと包丁の音が聞こえる。リビングに入ると、男性が新聞を読んでいる。おそらく、父だろう。
「おはよう」
と男性は老眼鏡をかけたまま、少し俯き加減で言う。
「おはよう」
男性は、じっと僕の顔を見て、新聞に目を戻す。僕は、父の向かいの席に座った。
ふと、思い出したように、父は僕の顔を見る。うん。と一声出して、
「章弘。お前、ちょっと変わったか?」
と言った。僕の心がざわめく。
「ううん」
と言うと、父は、
「前は、おはようと言っても、返事すらしなかったのに、今日はするじゃないか」
と言った。
「そうかな」
と僕が言うと、ひとしきり、僕の顔を見つめ、また新聞に目を戻した。そこで、母が、トーストと目玉焼きを持ってきた。
「ありがとう」
と僕は言う。母も僕の顔をちらりと見て、また台所に戻っていった。ぐつぐつと電気ポットの音がする。エリはまだ降りてこない。寝ているのか。