サチ
どれくらい歩いただろうか? 途中のコンビニエンスストアで傘を買い、僕はあてもなく、歩き続けた。雪がしんしんと降っている。心がその音とともに静かになっていく。少し、落ち着くと、僕はこれからどうしようかと考えていた。新谷元也の家に戻ろうか、もしくは、学生証に書いている清水章弘の家に向かおうか? 大体、清水章弘の家を僕は知らない。とりあえず、新谷の家に電話を掛けよう。僕は、ソフトバンクのスマートフォンをジーンズの左ポケットから取り出して新谷の電話番号に掛けてみる。何回かのコールの後、「ただいま、電話に出ることはできません」との電子音が聞こえる。僕は諦めて、スマートフォンをポケットに直す。ふと、サチのことを思い出す。サチはどうしているだろう。大学の授業は単位を取りおえているから、ないはずだ。アルバイトもない。電話を取り出し、三井佐知の所に電話を掛ける。何回かのコールのあと、サチの声がした。
「もしもし」
なにか、機嫌の悪いような、不思議そうな声が聞こえる。
「あなた、誰?」
僕は、元也だと言う。
「いたずら電話だと切るわよ」
とサチは言った。いたずら電話? 元也だと、もう一度言った。
「元也は死んだのよ」とサチは泣き声で言う。
「死んだ?」
僕が言うと、ガチャと電話は切られた。ツーツーと言う音がして、電話は悲しい音を立てる。僕はやはり死んだのか? サチの声がこだまして、僕は不安を抱いたまま、また歩きだす。僕は何処に行けばいいのか? 雪がちらほらと舞っている。僕は清水の家に行こうと思った。