もう3月だね
目が覚めると、僕の目からは涙が溢れていた。隣にはエリがいる。エリは僕の手を握りながら、泣いている。朝の光が、僕の目を刺す。
「ありがと。元也お兄ちゃん」エリは言う。
「僕は章弘だよ」
エリはにっこりと笑った。
僕とサチは公園を歩いている。公園の池沿いを歩く。冬の厳しさが緩み、梅の花がちらほらと咲き始めている。
「もう3月だね」
とサチは言う。僕はキャメル色のダッフルコートに両手を突っ込んで歩いていたが、右手を出す。サチは青色のコートから左手を出す。僕は手を握る。サチの左手には、元也が渡した、指輪の感触がある。
「結婚してくれないか?」
と僕は徐ろに言う。サチは一瞬、驚き、左手をぴくりとさせたが、僕の右手をもう一度、握り返す。
「何年先でもいい。僕がきちんと君と暮らしていけるようになったら」
サチは微笑む。花が咲いたような笑顔だった。
「ありがとう。勿論、貴方と一緒に生きていきたい」
と言った。僕は空を見上げる。青い空が一面に広がっていた。
夢を見た。
真っ白な部屋。木製の机と椅子がある部屋。青い目をした彼が入ってくる。
彼は僕の向かい側に座り、目は僕の目を捉えている。何処までも澄んだ目だった。
僕は、
「ありがとうございました」
と頭を下げる。青い目をした彼は微笑み、
「では。私は行きます」
と椅子から立ち上がった。そして、部屋から出て行く。
僕は、真っ白な部屋を眺め、もう此処には来ることは無いんだなと確かめて、出て行く。ドアを開けると、光が僕を包み込み、僕は目を閉じた。




