章弘に会うこと(アテナイ人の幻想)
夜、リビングでご飯を食べている時、エリがクラブから帰ってきた。エリは僕の顔を見るなり、にやにや笑い出した。「ただいま」といつもより、明るく言った。「お兄ちゃん、いいことあったんでしょう。顔に出てるよ」と言った。僕は口篭り、テレビの内容に話題を移した。エリは笑った。
夢を見た。
僕とエリは螺旋階段を降りている。僕の手にはしっかりと真鍮でできた、鍵を持っている。今度こそ、章弘に会えると思った。エリは少し、厳しい顔をしている。これから、章弘に会うという緊張からか、口数は少ない。僕の方をみて、にこっと笑う。僕は階段を下りながら、不安を感じていた。松明は煌めき、時折、揺らめく。僕の心を表しているようだ。
やがて、木製のドアに辿り着く。僕は試しに、ガチャガチャと押したり、引いたりするが開かない。僕は真鍮の鍵を鍵穴に差し込む。すっと入った鍵を右に回す。カチャリと音を立て、鍵は開く。僕は観音開きのドアを一気に開ける。ぶわっと中の温かい空気が僕の顔に当たる。僕は一瞬、目を閉じる。
目を開けると、そこは、黄金の世界だった。
黄金色のすすきが風に揺られている。赤い太陽がじりじりと肌を刺す。僕はエリを見る。エリは僕の目を見て、頷いた。僕はそれに勇気付けられ、僕達の背丈程もある、すすきを
掛け分けながら、歩いて行く。すすきの花粉が辺りに舞う。太陽は動いていないのか、天から、僕達を赤く染めている。
やがて、一本の20メートルはあろうかと思われる、広葉樹が大きく聳え立っている。葉は緑で、時折、風に揺られては、またその姿を留める。その根本に金色の玉座があった。そこに座っていたのは、もう今では見慣れた、章弘だった。章弘はじっと、こちらを眺めていた。
「やあ。来たね。アテナイ人よ」
と章弘は、僕と同じ声で言った。気付くと、隣にはサチがいた。僕は驚いて、サチに向かって叫ぶ。「サチ」サチは、頭にはヴェールを被り、白い純白のウエディングドレスを着ていた。サチは虚ろな目で、僕を見る。僕だと、気付いていないかのように無表情だ。
「アテナイ人よ。そこに座りたまえ」と章弘は言った。僕と、エリは顔を見合わせる。えりも、その章弘の異常性に気付いている。
「お前達、頭が高い。我を敬え。我は神なり。我は王なり。そして、全世界を統べる。我の言うことは、全て真実なり」
と言った。章弘の顔は無表情で、目は虚ろで、僕達を見ていない。
「アテナイ人よ。何故、君達は、世界を憂いようとはしない。戦争はあちらこちらでおきている。テロリストは今も、人を殺め続けている。世界はあらゆるイデオロギーで満たされ、隣人が殺されようが、人は何も気づかないまま、明るく遊園地に行っている。何故、何も感じない。世界は悪で満ちている。お金の為なら、なにしてもいいのか? 金、金、金。人は金の為に、人を殺す。人を傷付ける。アテナイ人よ。そこに何も感じないのか?」
章弘は捲し立てた。僕は、それを聞いても、心は動かされなかった。狂っている。章弘は狂っているのだ。




