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未来の彼方へ  作者: 中井田知久
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夏目漱石のこころ

気が付くと、朝だった。見慣れた風景。もう馴染んだ風景。章弘の部屋だった。先に見た夢が輪郭をもって、今でも、またそこの場所に行けそうな気がした。僕の目からは何故か涙が出てきた。溢れる涙を止めようもなく、心が揺さぶられる感じがした。僕はひとしきり泣いた後、ハンカチで涙を拭い、部屋を出て、下のリビングに降りていった。


僕はもう講義には出ないと決めたが、大学には行こうと思った。大学に何を求めているのだろう? 活気のある大学の構内にいれば、何か見つかるのではないか? そう思い、僕は周りの人を観察しながら夏目漱石の「こころ」を読んでいた。僕は、自分で自分がよく分からなかった。大学へ行く道すがら、大学生を観察する。楽しそうに話しながら、歩いている女の子2人組。もう就職活動中なのか、スーツに見を包んだ4年生の男の子。僕は観察しながら、宛もない考えが頭の中を巡っていた。


僕は食堂で、「こころ」を読む。僕は孤独だった。サチが横にいてくれるのを待っていた。サチ。僕は君を求めているんだよと、声を大にして言いたかった。僕はひたすら、「こころ」を読み続けていた。冬の寒さが、僕の肌を刺した。


木曜日に僕はお歳暮のアルバイトに行った。待ち合わせの場所では、何人かの様々な年齢の男性や女性がいた。皆、寒さに震え、コートの袖を何回も摺り合わせていた。バスが到着すると、僕達は、バスに乗り込んだ。

バスの外には、雪が辺りを白く染めていた。僕はしんと静まったバスの中で、目を閉じた。眠りが僕を誘って行った。断片的な夢を見る。エリが出てきたり、元也の母が出てきたりした。僕は、手を伸ばしていた。伸ばせば伸ばす程、遠ざかる彼らを追いかけ、僕は走っていた。

バスが到着すると、皆、ぞろぞろとバスの外へ出て行く。遠くの山には雪が積り、白くなっていた。「春はいつ来るんだろうね」と隣の年配の女性が言った。僕は、ジャンパーのジッパーを首元まで上げた。

お歳暮品が流れてきて、その大きさごとに仕分けしていく。ただ何も考えずに、ただ仕分けに集中した。100人くらいの人が働いているその場所は、なにか海の底を感じさせた。底で、僕は、なにも考えずに、ひたすら仕分けを続けた。



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