体を焼く
僕は派遣会社に行った後に、新谷のマンションに行った。重そうな鉄製の扉があらゆる物を遮っているような気がした。僕はインターホンを押す。ピンポンという音がして、誰かが動く音がした。僕は、少し緊張しながら、扉が開くのを待つ。扉が開くと高校生の元也の弟が出てくる。
「はい」と弟は言う。僕は、急に涙が出そうになった。弟は変わらず、坊主頭で、活発そうな感じがした。
「なんでしょうか?」
と弟は言う。僕は、「和明」と言いそうになった。涙が溢れてくる。和明は、不思議そうな顔をしていた。僕は止めどなく溢れてくる涙を止めることはできなかった。
「どうぞ」と言って、和明はお茶をだしてくれる。ちょっと見ない間に、成長したと感じるのは気のせいだろうか? 僕は、お茶を啜る。和明は目の前のリビングの椅子に座っている。
「兄貴の友達ということですが……」
と和明は切り出す。
「はい」と僕は言う。「兄貴の事とは何のことですか?」
僕は、何を言っていいのか分からず、沈黙する。沈黙が流れる。隣の部屋のトイレを流す音が聞こえる。
「元也君はどうして死んだのでしょう?」僕は沈黙の後、声を出した。和明は不思議そうで、少し困った顔をする。
「兄貴は電車に轢かれて死にました」と和明はその言葉だけを言った。僕は。どうしていいのか分からず、前に置いてあるお茶を飲む。
「兄貴は、ただ事故にあっただけです」
また沈黙が流れる。
「君は悲しくないの?」
と僕は言ったが、変な質問だったと思い返す。和明はなんて言っていいか分からず、質問の意図がよく分からないといった顔だ。
「悲しいですよ。たった一人の兄貴だったから」
と和明は言った。
「ごめん」と僕は謝った。すると、「いえ。兄貴が死んだ時より、段々悲しくなるようです」
と和明は言った。
「突然の事で、死んだ感じがなかったですから、体を焼く時も、現実味を帯びてなくて」
「体を焼く」という言葉にどきりとする。僕の体はもうないのだ。
「そうか」と僕が呟くと、和明はそっと涙を零した。
「兄貴は……いい兄貴でした」と言い、涙を拭った。僕はいたたまれなくなった。隣の部屋で子供が泣く声が聞こえる。僕はまた沈黙する。




