表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来の彼方へ  作者: 中井田知久
15/26

体を焼く

僕は派遣会社に行った後に、新谷のマンションに行った。重そうな鉄製の扉があらゆる物を遮っているような気がした。僕はインターホンを押す。ピンポンという音がして、誰かが動く音がした。僕は、少し緊張しながら、扉が開くのを待つ。扉が開くと高校生の元也の弟が出てくる。

「はい」と弟は言う。僕は、急に涙が出そうになった。弟は変わらず、坊主頭で、活発そうな感じがした。

「なんでしょうか?」

と弟は言う。僕は、「和明」と言いそうになった。涙が溢れてくる。和明は、不思議そうな顔をしていた。僕は止めどなく溢れてくる涙を止めることはできなかった。


「どうぞ」と言って、和明はお茶をだしてくれる。ちょっと見ない間に、成長したと感じるのは気のせいだろうか? 僕は、お茶を啜る。和明は目の前のリビングの椅子に座っている。

「兄貴の友達ということですが……」

と和明は切り出す。

「はい」と僕は言う。「兄貴の事とは何のことですか?」

僕は、何を言っていいのか分からず、沈黙する。沈黙が流れる。隣の部屋のトイレを流す音が聞こえる。

「元也君はどうして死んだのでしょう?」僕は沈黙の後、声を出した。和明は不思議そうで、少し困った顔をする。

「兄貴は電車に轢かれて死にました」と和明はその言葉だけを言った。僕は。どうしていいのか分からず、前に置いてあるお茶を飲む。

「兄貴は、ただ事故にあっただけです」

また沈黙が流れる。

「君は悲しくないの?」

と僕は言ったが、変な質問だったと思い返す。和明はなんて言っていいか分からず、質問の意図がよく分からないといった顔だ。

「悲しいですよ。たった一人の兄貴だったから」

と和明は言った。

「ごめん」と僕は謝った。すると、「いえ。兄貴が死んだ時より、段々悲しくなるようです」

と和明は言った。

「突然の事で、死んだ感じがなかったですから、体を焼く時も、現実味を帯びてなくて」

「体を焼く」という言葉にどきりとする。僕の体はもうないのだ。

「そうか」と僕が呟くと、和明はそっと涙を零した。

「兄貴は……いい兄貴でした」と言い、涙を拭った。僕はいたたまれなくなった。隣の部屋で子供が泣く声が聞こえる。僕はまた沈黙する。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ