螺旋階段の夢
その夜、夢を見た。僕は地下へと続く螺旋階段を下っていた。辺りは暗闇で、僕は左手で、煌々と光る松明を持ち、右手で石の壁を伝いながら、降りていった。此処の地下奥深くに章弘がいるとわかっていた。僕は、章弘に会わなければならない。そして、話を聞くのだ。章弘の隣には、サチがいるのも分かっていた。
僕はゆっくりと階段を下りる。時折、百足や、虫が壁をつたう。ゆっくり、ゆっくりと。突然、サイレンの音がする。ビー。ビー。僕は驚き、上に向かうか、下に向かうか、わからなくなる。重力が逆転した感覚に陥り、僕の五感は麻痺する。か細い声がする。
「お兄ちゃん」
か細い声が段々、輪郭を帯び、現実のものへと変化する。
「お兄ちゃん。こっちよ」
リエの声だ。「そっちはダメ。貴方は帰ってくるのよ」
とリエは叫んでいる。僕は、上で声がしているのか、下で声がしているのか分からななくなる。ビー。ビー。サイレンはけたたましく鳴り響く。松明は次第に火を弱めていくようだ。リエの影を見る。僕はそっちの方へ、駆け寄る。リエの影を追い、僕は走る。そこで、松明の火が消える。
夢を見た後、僕の体は汗で濡れていた。
暗闇が心に忍びこんでくる。僕はがたがたと震えていた。章弘は地下奥深くにいると分かった。サチも一緒にいるとはどういう事だろう? リエは「帰ってくるのよ」と言った。僕は、ベッドから起き上がって、一階のリビングへと向かった。リビングで、グラスで1杯、水を飲む。冬の寒さはパイプ管を冷たくさせているようだった。
僕はぼんやりと、今までの経緯を整理しようと努めたが、考えれば、考える程、複雑になっていくかのようだった。
2階から誰かが降りてくる。そして、リビングのドアを開ける。母だった。母は、
「どうしたの?」
と聞く。僕は、「ちょっと悪い夢を見て」と言った。「そう」と母は労るように僕を見た。そして、リビングの椅子に座る。
「章弘が何歳の頃だったっけ。自転車で転んで、泣いて帰ってきてね」
と母はぼそりと言った。
「私は、章弘が、可愛くて仕方なくて、大丈夫よと何回も言って、章弘はまだぐすぐすと言って、泣いて。私が抱きしめて、痛いのとんでけーと言うと、にっこり笑って」
とくすりと笑った。
「いつからだったかな? 章弘が笑わなくなったのは。喜怒哀楽を心の奥底に押し込んで……」
母は僕の顔を見る。
「でもね。嬉しいのよ。また、章弘が笑うようになったのは」
母はにこりと笑った。僕は嬉しい半面、心苦しさで一杯だった。時計を見ると、朝の4時だった。
「少しの間だけど、寝てくる」
と言って、母は席を立った。
「母さん」
と僕は、母の手を握った。「抱きしめてほしいんだ」と僕は言った。母さんはにこりと笑って、母さんは手を広げ、僕の顔を抱きしめた。母の胸に埋まるように、僕は安心感で満たされた。




