少しの間、連絡をとらないでいてくれる?
僕達は何分、黙ったままでいただろう? 喫茶店の奥のコーヒーメーカーがコポリと音を立てる。
「ちょっと整理したいの」
サチが口火を切った。
「生まれ変わったと言っても、すぐには受け入れられないし、貴方はもう別人のような気がするの」
僕は黙って、サチが言うのを聞いていた。
「元也とは違う貴方の事を……。章弘さんの顔をした貴方を……」
サチは明らかに混乱していた。コーヒーのカップを一口も口を付けなかった。僕も混乱していた。確かに、僕はこれからどうなっていくのか分からなかった。
「少しの間、連絡を取らないでいてくれる?」
とサチは言った。ああ、と僕は言った。サチは着ていたコートを付け、コーヒーの代金をテーブルに置き、立ち上がった。そして、僕の顔を一瞥もくれずに、喫茶店の出口に向かった。彼女は、ショックを受けて、足元が覚束なかった。僕は黙って、その光景を見ていた。僕はこれから、どうすればいいんだろう? 雪が悲しく見えた。
家に帰ってから、僕はぼんやりとしていた。電灯も付けずに、日がとうに沈んだ、薄暗い部屋で、宛もない考えがぐるぐると回る。サチは、貴方は「別人」と言った。僕は、元也の記憶を持った章弘だった。どうして、元也のままでいられなかったんだろう? どうして章弘として生まれ変わったのか? 青い目をした男が、「今は答えられない」と言った。なにか意味があるのだろうか? 僕は疑問で頭の中がいっぱいだった。




