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9 勇者、獣人と友だちになる


盗賊のコックになって何日か過ぎた。盗賊はすっかりぼくの料理のとりこになっていった。


妹のために片っ端から買った料理本で勉強したこの料理の腕を、盗賊なんかに振るうなどありえないことだったが、いまは生きることが第一と考える。それから助手にリエガをつけてもらった。こいつはなかなか働き者で、勘もよかった。すぐにぼくらは仲良くなった。


「痛てっ」

「指を切ったか?見せてみ。まあ深くないな。この薬草で血止めをしておけ。すぐ血が止まる」

「なあ、あんたなにもんなんだ?」


リエガがそう聞いてきた。顔中毛だらけなのでどういう表情してるかわからないけど、不思議そうに、ってことは伝わってきた。


「ただの人間だよ」

「ただの人間が獣人に優しくするか?」

「え?優しくしたらダメなの?」


今度はぼくが驚いた。ジャガイモの皮をむいている手が止まった。


「そうじゃないけど、獣人に優しくする人間なんていないから。人間は人間だけを人間と認め、それ以外は認めない。亜人は人間じゃない。あいつらはそう思っているんだ」


まあ人間ってそういうとこありますよね。まさに弱さの裏返しなんですけどね。


「ぼくにはよくわからない。ただ、いいやつならそいつはぼくの友だちだ。それがたとえ獣人だろうが魔獣だろうが魔族だろうがね」

「魔族はヤバい。そんなことはほかでしゃべるな。誰かに聞かれて教会に密告でもされたらたちまち火あぶりだ」


魔族ってそれほど危ない存在なのか。気をつけよう。


「冗談だよ」

「冗談でも言うな、そんなこと…。でも、友だちって…」

「ああ、リエガはぼくの友だちだ」

「いいのか?」

「いいも悪いもぼくには今まで友だちがいなかったんだ。よかったら友だちになって。ふふ、友だち第一号だ」


リエガは顔を赤らめて…かどうかはわからなかったが、とにかくうれしかったようだ。しきりに目をこすっている。


「さあ、早く食事の支度しちゃおうぜ。みんな腹減らしている」

「わかったよ。だけどほんとおまえ不思議なやつだな。どうしたらこんなにうまい料理が作れるんだ?」

「ああ、妹のおかげだ」

「おまえ、妹がいるのか?」

「いる、というよりいた、と言った方がいいかな…」

「死んだのか?」

「まあ、そうだな」


妹はあのガス爆発事故で一緒に死んだ。一瞬で体が粉々になる瞬間、ぼくはあいつを、あいつはぼくを見ていた。そうしてお互いが粉々になっていった。あいつは泣いていたっけ…。ああなんだかぼくは死にたくなっちゃった。


「大丈夫か?」

「あ、ああ問題ない。なあ、釜を見てくれないか?もう頃あいだ。いい匂いがしている」


釜ではぐつぐつと音をたてていい感じに食材が煮えている。火加減はリエガが上手だった。どういうわけだかぼくは焚火の火の調節がうまくできない。やっぱIHじゃないとね。


「味見していいか?」

「やめとけ、リエガ。この先も、生きてぼくの友だちでいたかったなら」

「な、なんだか知んないけどわかった」


そうさ。もうこんなとこにはいられない。盗賊のコックなんかやってられない。ぼくらはまっとうに生きて行かなけりゃね。盗賊よさらば、だ。


「さあリエガ、皿に盛りつけてくれ。ぼく特製の、キノコのシチューだ」


それはそれはいい香りが、盗賊たちの隠れ家いっぱいに広がった…。



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