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8 魔王の饗宴


目の前の光景が信じられなかった。最初の二百騎が襲って来たのまではよかった。半数を打ち殺せた。だがそれから攻めてこなかった。そのあとすぐに、こうなった。


「これはいったいどうしたことだ…」


眼下にはまるで湖のように水面が広がっている。このティエンヌは完全に水没した。丘に籠っていた兵たちはこの小山の陣地に逃げてきた。森に置いた伏兵たちはみな溺れ死んだ。もう身動きが取れない。


「レーゼル川の氾濫時期ではないだろうに…。雨さえ一滴も降っていないのになぜ…」


ここを守備しているオリエンテ将軍は絶句した。なにか壮大な魔法をみせられたかのようだ。だが魔導反応がない。魔法なんかじゃない。じゃあ何だ?


「レーゼル川の一部をせき止めたんでしょう。氾濫する川を逆手に取った。考えてみれば簡単なことだ。だが誰もそんなことは考えつかない…」


参謀のデリテル男爵が悔しそうにそう言った。


「この小山の陣に備蓄された食料は一年分。だがそれはこの小山の守備軍の分です。七つの丘の守備隊がこの陣に入った今、兵糧は三か月と持ちますまい…」

「水は引かぬのか?」

「ますます増水するでしょう。雨季が近づいていますから」

「飢えて死ぬ図しか見えんのだがね?」

「いまのうち食料の節約をさせましょう」

「それでどのくらい持つ?」

「二か月はのびるかと」

「たったそれだけ…」

「あとは馬を食い、皮で出来た武具を食い、木や土を食い、そして死んだ兵を…」

「やめろ!あ、いや、すまなかった」

「われわれは知らなかったのです。魔王軍に、これほどの知者がいることを…」


魔王軍は進撃を続けている。それぞれの村や町で略奪された物資が魔王軍の腹に収まっていく。


「なかなか美味である!この肉、このワイン!ひとつ惜しむことがあれば、人間にこの技があるということだけだ!」


ゴリエス将軍はノリノリじゃないか。まあ、これまでいくつもの城を落とし、数え切れないほどの町や村を焼いた。さすがは魔族軍屈指の名将と言うべきだ。だがこの料理が美味?舌が腐っているのか?こんなもの、兄が作るポークチョップやハンバーグの足元にも及ばない。つけ合わせにしたって、綿密に切りそろえられたニンジンやジャガイモのシャトー剥き。インゲンやブロッコリーの茹で加減。ああ、天才的だった。あの味が忘れられない…。


「どうですかな?魔王さま。この料理のお味のほどは」

「よくできている、と思う」


あたしがけなしたら料理人の首が飛ぶ。死に方としては最悪だわ。べつに料理人がどう死のうが構わないけど、少なくても兄さんの域に達してから死んでほしいもんだわ。


「なにかお気に召さないことでも?」


うっせえな。いいって言ってんだろ、ポンコツめ。


「いや、ただ料理人には、明日の朝は粥にしてくれと言っておいてくれ」

「かしこまりました」

「あたしには肉の脂と香りがきつすぎる。ブーケガルニの香草の種類を変えろと伝えよ」


これで料理人は明日の朝まで生かされる。あとは本人次第だ。


「わたしはこれでうまいと思うけど」


さすが肉食系女子ファリエンド。そのすっごいプロポーションも肉食だからこその出来栄えって感じね。でも残念ね。あたしの兄さんはそんなエロボディお好みじゃないの。いっつも兄さんが買ってきているエロ雑誌は、みんなスレンダーな子ばっかり。そう、あたしみたいな、ね。


ああ、兄さん…か。



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