7 勇者就職する
よくあることだそうだ。
密猟者が亜人をさらい、人買いに売る。そうして鉱山なり農場に行く途中襲う。またそれをほかの人買いに売る。詐欺みたいなやり方だ。
「親分、こいつデリエンテの森でさらったやつじゃないですか?」
盗賊のひとりがリエガを見てそう言った。
「ほう、まだ生きてやがったか。なかなかしぶといな」
超恐そうな顔のおっさんが言った。これがこの盗賊の親玉だろう。逆らったら殺しちゃうよ的なオーラをプンプンと発散させている。まあ、ただの加齢臭だろうけどね。
「おまえ!兄さんたちをどうした!ぶっ殺してやる!」
リエガが吠えた。少年、凄んでも怖くねー。
「なんだとコラ!」
手下がリエガを殴ろうとした。いや、殴り殺されるぞ。
「待ってください。あやまります」
「はあ?何言った、おまえ」
手下の手が止まった。やっぱりだ。手に石ころを握っている。殺す気満々やないか。
「こいつのかわりにぼくが謝る、と言っている」
「なんだとこの!」
手下がぼくを殴った。もちろん石でだ。その石が砕けるのがぼくに見えた。まったくなんて力でひとを殴るんだよ。ぼくの左頬が、生暖かい血の流れを感じていた。まあこのくらい平気だ。大蛇に噛まれたときの方がもっと痛く苦しかった。あいつらとぐろ巻いて身体を絞めつけやがるからなあ。
「こ、このガキ!」
ぼくがケロッとしてるので逆上したみたいだ。腰の剣を抜こうとしたのだ。
「やめろ、ホセ」
親分が止めた。ホセ?ホセって言った?それってまるでもろ盗賊の手下の名前じゃん。ウケる。
「こ、こいつ笑ってますぜ!気味悪いガキだ。殺しちまいましょう!」
「まあまて。おい、名前を聞こう。お前人間族のガキだな?」
「人の名を聞く前に、まず自分から名乗る。礼儀ですが?」
「このガキ!生意気な!」
ホセはますます激高してる。教養と分別がないと人は獣に近くなる。誰の言葉だったっけかな…。
「よせ、と言っている」
親分の一言でホセはシュンとなった。よっぽど怖いんだろうね。
「さて、失礼したな。俺はヨガンヒルム。見ての通りの盗賊さまだ」
バイトの履歴書の職歴欄に書けそうもない職業だね。
「ぼくはマティム。ソミン村から派遣労働で鉱山に行くところです」
「派遣…てなんだ?」
「売られちゃったということですよ」
「ああそう」
まあこの世界じゃそういうことだろ。
「おまえなかなか知識がありそうだが、魔法とか使えんのか?」
魔法を使える?初めて聞いた。なに、そういうスキルってありなのかな?
「魔法の存在自体知りません。ぼくは何もできない落ちこぼれなんです」
「自分から落ちこぼれっていうヤツも初めて会ったな。獣人も人も、大概虚勢を張るもんだぜ?」
「そう言うのはきっとなにかがあるんでしょうね。その、何か自信があるものが。あいにくぼくにはそういうものありませんし」
「さびしいやつだなー。人として同情するぜ。だが何かできるだろ?狩りが得意とか」
なにか知らないが、ぼくのことを聞いてくる人間に会ったのははじめてだった。なにかくすぐったかった。
「何もできません。まあ、強いて言うならキノコの見分け方くらいです」
「キノコって…おまえ料理ができるのか?」
「まあ一応…」
これでも妹のお墨付きだ。なんせ前世で、いつも部活で腹減らしの妹のために、ぼくは必死で料理の勉強をしたんだ。あいつは「おいしいよ、兄さん」といつも言ってくれたっけ。あいつの笑顔があの世界で最高のものだった。
「ふうん、じゃあおまえは料理人だな。俺たちの。ちょうどジョセフの野郎がおっちんじまってな。そいつは俺たちのコックだったんだ」
勇者、就職しました。