51 エルフ
「えーと、言葉、わかりますか?」
「きさまらはなんだ?くそ、殺すなら殺せ!」
うーむ、典型的な話の分からない人にありがちの言動だね。こういう人には何言っても無駄だよね。
「お兄ちゃん、他のやつら捕まえてきたよ」
「おお、ごくろうさま」
妹がエルフたちを数珠つなぎにして連れてきた。五人いたが、そのうち二人の顔に大きな痣があった。抵抗したのかな?バカなやつらだ。妹は魔王だぞ?まあ知らないからしょうがないけど。
「えーと、話の分かる人はいませんか?」
エルフという亜人の種族はプライドとかが異常に高いと聞いたことがある。だから普通に話を聞いてもろくに答えてくれないだろうし、拷問なんかじゃ余計無理だろう。当然ぼくの問いにはガン無視している。
「お兄ちゃん、こんなの時間の無駄よ。こんなやつら殺しちゃって、ついでにこいつらの村も焼き払っちゃえばせいせいするわよ?」
「そういう乱暴な手段を取りたくないからわざわざ生かして捕らえたっていうのに」
ぼくらの会話を聞いているエルフのやつらは半分バカにした目をしている。恐らくぼくはともかく妹を侮っているんだと思うけど、もう充分実力差を見せつけてもなおこの態度じゃ、知能は大概知れている。敵じゃないね。
「おまえらが誰だかは知らんが、この森からは生きて出られん。見たところ水も食料も持たないようだ。すぐに死ぬ」
エルフのリーダーだろうか?偉そうにしゃべっているが、実のところぼくらが気になって仕方ないというところだね。
「馬鹿ねあんた。お兄ちゃんはね…」
「真希ちゃん、ちょっと黙ろう」
「ふん」
ぼくは物質の組成を変えられる。つまり水も食料も作れるってこと。水は空気中から安全なものをいくらでも生成できるし、食料も植物から無害なものを作り出せる。ただし、味は最低だ。まあこういう情報をこいつらにタダで教えてやる必要はない。異世界だろうと情報は重要なのだ。
「たしかにぼくらは水も食料もない。とても困っている。だが、あんたたちの里には近づきたくないんでこんなところを歩いていた。それをわざわざ襲ってくるなんて、まるで滅ぼしてほしいということだと思わないか?」
「馬鹿を言え。われわれの里を避けて?いい加減なことを…」
「あんたたちの里はここから西へ二日の距離だろ?」
「なっ!なんでそれを」
「そんなことはわかる。空気からも森の木々からも。おまけにあの結界だ。わからない方がどうかしている。だからそれを避けようとして苦労してたんだ」
エルフたちの里は結界に守られている。大規模な範囲魔法だ。外敵を寄せ付けず、存在を隠ぺいする魔法。まあ普通の魔法使い程度だったら絶対に見つけられないだろうが、ぼくや妹には逆に目立って見える。だってそこだけ何もないように見えるんだもん。気がつかない方がおかしい。
「お前らは男爵の手先ではないのか?」
「男爵?なにそれ」
「ポー・シャルル・ポー市の領主の男爵、シャルル・デュボアールだ」
「知らん。それどんなやつなの?そんなこと言うところを見ると、あんたたちに相当ひどいことしてるんじゃないのかな」
エルフのリーダーはじっとぼくを見ている。信じていいのか疑っている。こういう中途半端に強い種族って猜疑心も異常に強い。こうなりゃちょっと手の内を見せちゃった方が話は早い。
「日も暮れてきたし、今日はここらでキャンプするか」
「えーまたー?あたしパンとか食べたいのに―」
「仕方ないだろ。こいつらもいるし、いろいろ聞きたいこともあるからね」
誰がしゃべるか、という目をしたリーダーさん。そんなにぼくを睨まないで。
「じゃ、あれやる?」
「ああ、お願いします、妹さん。あ、食べられそうな生き物いたら消さないでね」
「わかってるわ」
妹はちょこんと片手をあげた。瞬時に視界が広がった。森を半径三百メートルほど消したのだ。十メートルほどの中心円にいたぼくらはそのままに、あとは真っ平らな土地がむき出しになった。
「なっ!きさまらはやっぱりあの悪魔の仲間なんだな!」
「悪魔?またおかしなやつがいるようだね」
まあ今は聞くだけムダだろうから作業を進めよう。とにかく快適空間を作らなくっちゃ。ぼくはむき出しになった地面に手を添えた。地面の組成を変える。雨の心配はないようだけど気分的にここを石畳にしよう。それとこの中心円に残った樹木で小さな城を作る。はい完成。ふふふ、エルフたち、目を丸くしてるね。
「お兄ちゃん、なんか牛みたいのつかまえた」
「おお、でかした」
「料理してくれる?」
「もちろんだよ」
「やったー。今日は何が食べられるのかな?」
「うーん、牛みたいだからビーフストロガノフ的なやつにするかな」
料理はぼく、得意だからね。生成魔法を覚えてからは調味料も作れるし、いやあ、便利な世界だ。
「お前らはやっぱり悪魔なんだな…」
エルフたちは捕獲魔法陣のなかでそうつぶやいていた。