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46 魔王は死にました

「おにいちゃん?」


最初に魔王はそう言った。あとは泣き崩れてなに言ってるかわからなかった。


「わかったからもう泣かないで、真希」

「うっ、うっ、ず、ずっとひとりでね。さびしかったよ」

「そうだね。ぼくもさ」

「もうお兄ちゃんに会えたんならあたしは満足。もう死んでもいいよ」


妹は妹なりにけじめをつけようとしているんだ。この世界でやってきた残虐非道な行いのけじめをね。


「なんで?」

「なんでって、それって許されないことだからよ?」

「こんな、ぼくらに関係ない世界のことに責任取るの?」

「い、いや関係あるでしょ?現にここに転生してきてるんだから」

「ぼくらの世界は前の世界だ。ぼくが高二の男子高校生。お前が中三の女子中学生。オンボロマンションに住む、スポーツ好きなお前と…」

「料理上手なお兄ちゃん」

「だからこの世界はぼくらにはどうなろうと関係ないのです!」


まあ関係はないわけないけど、そういうことにしておかないとこの先平和に妹と暮らせないからね。


「わかったわ…今日ここで魔王は死んだ。勇者と相撃ちで」

「そういうこと。じゃ、エルガさん、いいかな?」


エルガがえ?という顔をしている。


「な、何よ、どういうことよ」

「だから、勇者と魔王が戦ってお互い死んだと人間側に伝えてほしいんだよ」

「え?あたしが?なんでそんな嘘を…」


エルガは焦っている。まあたしかにそうだよね。魔王は実際死んでいない。生きてりゃどうなるかわからない。でも魔王はぼくの妹だったんだ。もう人間を滅ぼそうなんて思わないさ。自暴自棄になってそういうことしてたんだもんね。


「嘘でもいいからよろしく」

「で、できるわけ…」

「ないならぼくと妹で暴れるけど?」

「やってみます」

「ありがとう、大魔導師エルガさん」

「どうもありがとうございます」


真希もペコリと頭を下げた。エルガは青い顔になった。


「さて、そういうことでジェノスさんも頼まれてくれませんか?」

「何をすればいい?」


さすがジェノスさんだ。この状況をいち早く飲み込み、そして理解している。


「魔族に魔王は死んだって伝えてほしいんだけど」

「心得た。だがそう簡単に信じるかな?魔族は疑り深いやつばかりだからな」


珍しく考え込んでいるジェノスさんを見て、ああこの人は信頼できる人だなと思った。人じゃないけどね。


「それならこれ持ってって」


真希は首から下げていた大きなペンダントをジェノスに渡した。


「これは…」

「そう、魔族の王の証。そして魔王の証でもあるわ。これ見たらみんな納得するわね」

「よろしいので?」

「いいのよ、魔王死んじゃったんだし」

「かしこまりました。必ず皆に伝え、魔族領に引き上げさせましょう」

「頼んだわね、ジェノス。それと、あんたのお父さん殺したの、あたしじゃないわ」

「なんですと?」

「その地位を狙っていたゴリエス将軍の仕業よ。あんたのお父さんあいつに暗殺されたわ。まあ、あたしはもう魔族なんてどうでもよかったから放っておいたけど、なんか悪いことしちゃったわね」

「そうだったんですか…一度たりとも魔王さまを怨んだことはありませんが、それを聞いてなぜか胸が熱くなりました」


うわあ、いいはなしやね。


「じゃリエガ、きみにもお願いがあるんだけど」

「あたしに?」

「獣人の国に行って、もう魔王は死んじゃったから、人間襲わなくていいんだって言って」

「あたしに?そんなことできるわけないでしょ!」

「できないこともないだろ、リエガ」


ジェノスが優しくリエガに言った。リエガは半べそをかいている。顔に毛がないからすぐわかった。


「何よジェノス」

「わがままは言うな。お前だってマティムに助けられたんだろう?」

「わがままって…」

「お前は獣人の王の娘だろう?」

「な、なんでそれを!」


みんなが驚いた。獣人族の王の娘って…?


「その額の印だ。毛だらけではわからない。だがいまはハッキリとわかる。獣人族の王族の印、だな?」


しぶしぶ、と言ったふうにリエガはうなずいた。


「そうだよ…あたしは獣人族の王、獣王ガシムの娘。獣王国からさらわれて、マティムに助けられて…」


そう言ってリエガはまた泣いた。


「ならやるべきことはわかるな?恩あるマティムにその責務を果たせ!」

「ああ、わかった。あたしやるよ。マティムのためだったら」

「いい子だ」

「だからマティム、お役目終わったらまた一緒に旅していい?」

「いいけど、きみの立場じゃそれちょっと難しいんじゃないか」

「大丈夫よ。また家出しちゃうから。まあ、家出して密猟者に捕まっちゃったけどね」


バカだ。こいつ本当にバカだ。


「あのね、今度はちゃんとお父さんやお母さんの許しを得て来てね。じゃないと仲間には入れません」

「わかったわよ」


すねたけど、まあそれでいいかな。


「んじゃあ、みんなよろしく!あー、今日は素敵な命日だね、ぼくらの!」

「そうね、お兄ちゃん!」


町の人たちが帰ってこないうちにぼくらは町を出た。みなこれから離ればなれになるけど、まあぼくら兄妹はどこまでも一緒だ。


「ねえ、お兄ちゃん。これからどうするの?」

「そうだなー。冒険者の続きでもやりますか!」

「それっていいのかなー」

「まだ気にしてんの?魔王とかの」

「そうじゃなくて、実質あたしたちこの世界で最強なふたりなわけでしょ?それってチートっていうんじゃない?」

「あー少なくてもお前はそうだけど、ぼくは落ちこぼれの貧乏なもと、勇者だからな。だからいいんじゃない?」

「そうね。落ちこぼれお兄ちゃん」

「いやそうハッキリと言わなくても」

「なーんでよ。うふふふふ」

「腕組むな、兄妹で」

「だからいいんじゃない」

「真希…」

「なあに?」

「胸、ねえな」

「死ね」


ぼくらの物語は…まだまだ続きそうです。



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