表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/75

43 魔王、怒る

敗北は決定的だった。だがこの戦場で、のはなしだ。まだ北と南に百万ずつ、あわせて二百万の戦力がある。ここは一時撤退だ。ひとつの勝利、ひとつの戦場にこだわるほどあたしは愚かではない。


「全軍、退却!のろのろしてると置いてくわよ!」


そう言ってついてくる者はもう少ない。アストレルもファリエンドも討ち死にした。側近はすべて死んだ。もうあたしひとりなんだ。でもまあそれもいいじゃない。もとからみな殺すつもりなんだから。人間を滅ぼして魔族も滅ぼす。誰もいない清々しい世界にしてあたしも死ぬ。そうよ、お兄ちゃんのいない世界なんていらないのよ!


「いやいやそうじゃないわ」


その前にあたしが死んでどうする?すべてを滅ぼす前にあたしが滅んでどうするのよ。そんなのフェアじゃない。正しくない。そんなのインチキだ。嘘っぱちだ!ありえないありえない。くっそー、みんな死んじゃえっ!


「魔王さま!人間の兵が!」

「なんですって?」

「およそ…一千万?なんでこんなところに?」

「一千万の兵?」


それもありえない!なんで?なんで気がつかなかった?そんなにいたのになんで気がつかなかった?ああ、わかった。あいつらね…。あいつらが仕組んでたんだ。はなからこれを…決定的な勝利にするために…あたしを殺して…この魔王のあたしを殺して、そして魔族すべてを殺すために!はかられた!やられたわ。まるっきりの作戦負け。ああ、そうなんだね…あたしは負けたんだ。ふん、すごいやつがいるじゃない。お兄ちゃんにも引けを取らないわ。いえ、まるでお兄ちゃんのようよ。でも許せない。お兄ちゃんのまねなんか、あたし絶対許さない!


「ふふふ、仕方ないわね…まあどうせこうなるんじゃないかと思ったけどね、さっき」


あたしは魔王としてのプライドと、魔族の王としてのプライドをかけて戦うわ。いやそれしかないし。


「道を開けなさい」


あたしは生き残った魔族どもをさがらせた。あたしはあの町に行こう。


「ついてくるな!」


ついている魔族に怒鳴った。それは渾身の怒りを伴った。魔族の誰もが震え上がり、そこで止まった。そう、それでいいのよ。いい子たちね…もうお帰りなさい。あたしは決着をつけに行かなくちゃならないの。それは勝利にこだわるとか、そういうんじゃない。あたしの、魔族としてのプライドよ。でも結局あたしが勝つんだけどね。


ああ、アストレルの死体かな、あれ。青い髪が残ってるわね。さようなら、アストレル。嫌いじゃなかったわ。まあお兄ちゃんほどじゃなかったけどね。そしてファリエンド…さようなら。真っ赤な鎧…真っ赤な髪…。せっかく自慢のプロポーションだったのに、ひき肉になっちゃったなんてまるっきり皮肉ね。クモの糸かあ…ゲームであたしさんざんこれにやられたじゃない。まさかこんなとこで再びこれにやられるなんて、まったく思わなかったわ。


「ディスコネクト…」


魔導で糸は切った。なあに、大したもんじゃないじゃない。なによこれ。腹が立ってきた。こんなもんであたしのかわいい部下を殺したなんて。


あ、サークル(地雷方陣)ふんじゃった。チッ、仕方ないな。


「消えろ」


こんなもの軽く消せるのに…多くの魔族や魔獣をこれで失った。ますます腹が立ってきた。もう町は目の前。いい加減にしろとだけ言ってやる。そして殺す。それから一千万だかの人間たち。あたしひとりで充分じゃない。みんな殺す。ちょっと早いけど世界を消滅させるわ。もういい加減飽きた。殺すのも殺されるのもいい加減嫌になった。もう、自分の心を押し殺すのも嫌…。とっととこの世界を終わらせて、あたしは無になりたい。もうお兄ちゃんのいない世界にいたくない!


「さあ、魔王さまが直々に来てやったぞ!エルガ、いるんだろう?出てきなさいよ」

「メティア・ドーゼスさま!…いいえ、魔王さま…」


町の中から体の大きな若者が出てきた。体の色を変えているが、こいつ魔族だなと一目でわかった。


「あんた魔族ね?名前は?」

「ジェノシウシスコルサイムと申します、魔王さま」

「コルサイム?父の側近だったアザンコルサイムの息子?」

「さようでございます。あなたに殺された父の息子です」

「あきれた。あんたあたしにまさかの敵討ち?笑うわ、ウケる」

「魔王さまには笑いごとでもわたしには笑えないことでございます」

「そうね、ごめんなさい。ただ、あまりにも古臭いので」

「わたしもそう思います。わたしはもとより復讐だの仇だのに興味はありません。あるのは強くなること。ただそれのみを考え戦っていました…ですがあるとき…」

「ねえそれ長くなる?」


魔王は呆れたように言った。まあ普通ならそう言われたら怒りそうなもんだけど、ジェノスはいたって冷静だった。


「失礼しました、では構えていただけますか?」

「あんたあたしと戦うっていうの?ウケる」

「構えろ!魔王!」

「ジョーダン、ポイよ」


あっという間にジェノスは吹き飛ばされた。うわ、けっこう飛ばされるんだ。


「よくもやったな!」

「なにあなた?」

「獣人リエガだっ!ジェノスの仇だ!」

「いやあの魔族死んでないし」

「やかましい!」

「バーカ」

「にゃああああああっ!」


あーあ、リエガも吹き飛ばされてやんの。まあ寸前でエルガが魔導で庇ってやったから、ふたりとも命の心配はないね。


「ねえ、出てきなさいよエルガちゃん。コソコソ隠れてないでさあ」

「久しぶりね、お嬢ちゃん」

「まったくあんたのせいでろくでもないわよ」

「あら、あたしのせいじゃないわ」

「じゃ誰よ?こんなことしでかせるのはあんたしかいないじゃない!なめてんの?」

「怒んないでよ。あたしだってちょっと信じられないんだから」

「どういう意味よ」

「ほら、そこにいる子よ。年はあんたより少し上みたいだけど、ガキはガキね」

「はあ?」


あたしがそこで見たものは何だったんだろう?銀色の髪をし、深い緑色の目をした美しい少年…。いやマジ天使かと思ったわ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ