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38 魔王軍転進

「なに?ゴリエス将軍が死んだ?なんでよ」

「は、報告では捕獲部隊を直接指揮していて、その…」


ファージは魔王軍幹部の情報将校だ。あたしの魔王軍のなかじゃ割と優秀な方だけど、しょせん魔族。もしこれが兄さん程度の頭脳してたら、あたしの副官ぐらいにはしてやったのにね。


「なんであいつが捕獲部隊を指揮していたかはいいわ。どうせ功名にとらわれてたんでしょうからね。それより問題はどうして死んだかよ」

「じつは罠に…」

「何よ罠って!」


信じられない。罠ってなに?そんなものに引っかかる馬鹿っているわけ?仮にうっかりひっかかったとしたって、すんなり破れるくらいできるでしょうに。あたしは相当怖い顔をしたに違いない。ファージは相当ビビっている。


「その罠の魔法陣の写しがこれです」


おそるおそるファージが取り出したのは魔道鏡だった。そこに魔法陣が#トレース__転写__#されている。


「ふん、ただの膠着魔法陣じゃない。こんなものどうってことないでしょ?」

「ところがそうではありません。ご覧ください…」


ファージは小さく合図し、部下を呼んだ。ごつい魔物が引きずられてくる。


「魔王さま、こいつはその部隊にいたものです。恐れをなして逃げ戻ったのを逮捕しました」

「へえ、魔王軍が逃げた…」


その場の空気が凍りついた。傍らにいたファリエンドやアストレルさえあたしの勘気に触れ、震え上がっている。


「これはわが監督の不行き届きであります。魔王さま!お許しを!」

「ファリエンド、黙りなさい。魔王軍に怯弱浮華なものはいない、そう信じていた」

「お許しくださいっ!どうか!」

「よい機会だ。全軍の士気を今一度引き締めよ。連勝におごった心を諫めるのだ」


勝ちいくさが続けば敵が脆弱に、そして矮小に見えてくる。つまりおごり高ぶる心に隙ができるということにつながる。それは兵士だろうと指揮官だろうと同じだ。兄ならそれを巧妙についてくる。勝って兜の緒を締めよ、よね?兄さん。


「早速全軍に通達を」

「まあいいわ。それで、そいつを?」

「この場を汚すことをお許し願えますか?」


言っている意味はわかるが、その魔法陣がどうしたという。


「これに」


ファージは魔道鏡から直接地面に魔法陣を写した。何のへんてつもないただの接地魔法陣に見える。魔族が狩りのとき使う捕獲魔法だ。設置されるとそれは見えなくなった。ふつう、魔族には見えるはずだが、それはまったく見えなくなっている。


「そこへそやつを」


ファージの部下によって魔物がその魔法陣に押しやられ、すぐに魔法陣が発動した。魔物は動けないようだったが、顔に恐怖の色を浮かべている。


「これがどうした?」

「この後でございます、魔王さま」


そう言った矢先、魔法陣から無数の呪文が飛び出したように見えた。


「それは…ファランクス!」


パーン、と魔物ははじけ飛び、そして煙のように消えた。


「何者かがわれわれの魔法に細工をして使っているようです」


もはや細工というレベルではない。高度な魔法が付与されている。これはただの魔導師ができる技じゃない。


「これはあの町に?」

「さようでございます。そこらじゅうに仕掛けられ、一歩たりとも…踏み入れられません」

「あっはははははははは…」

「魔王…さま?」


やるわね!どこのどいつだか知らないけれど、魔王軍にちょっとでもケチをつけるなんて。ますます気になるじゃないの。


「全軍を…向かわせる」

「お待ちください魔王さま!グラーフ王国への攻撃は?」

「あとあと。そんなのどーでもいいわ。いま大事なのはこの町、ね」

「た、たしかにゴリエス将軍が殉死したのは手痛いですし、今後の侵攻作戦にも大きく影響するでしょう。ですが不慮の事故で死んだ将軍の…」

「だまれ!これは…将軍の敵討ち、よ。魔王軍は全軍をもってあの偉大だったゴリエス将軍の仇を討つ!」

「ははっ!」


なーんちゃって。こういう口実つけないと、全軍であーんなちっぽけな町を襲うなんてカッコ悪いもんね。まあ馬鹿な将軍だしにして、あたしは人探しをさせてもらうわ。



それは百万の、魔軍の行進がゆっくりと方向を変える…その先に目指すものがいるのだ。



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