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36 魔王の狂気、いえ狂喜

町に潜入させていた蜘蛛型の偵察使い魔が映像を魔王のところまで送ってきていた。


「ほらほらほら!こいつ、こいつよ!」

「はあ、たしかにこれは暗黒魔法!なんでこやつが?信じられません!」

「そんなことはどうでもいいわ!すぐに捕獲部隊を編成して!」

「かしこまりました」


いやー、こんなに早く見つかるとは思わなかったわ。だがまだわからないわね。ただ暗黒魔法が使えるからって、まだ兄さんだと断定するのは気が早すぎるか。そうじゃなかった時の落胆って半端じゃないもんね。あの勇者殺したときだって、恋人なんかいるからちょっと逆上しちゃったけど、何のことないただの勇者。あの後超落ち込んだわー。


「魔王さま?」

「なんすか」

「いったいこの若者に何があると?」

「そ、それは、魔王軍の脅威よ」

「脅威?こんなガキが?わたしには多少魔法が使えるただの人間の小僧にしか」

「ね、年齢じゃないわよ。まあ、あたしの鋭いインスピ―レーションね」

「インス…なんですか、それ」

「まあいいから。あ、移動するわよ」

ファミーリア(使い魔)をつけさせますね」

「ちょっと早くしてよ」

「そ、操作が結構難しいんです」


映像に、おかしな娘が映った。誰だこれ?あ、こっち見てる。


「あっ!」

「なによ、どうしたのよ!」

「食われました」

「はい?」

「いまの娘に、ファミーリアが食われたようです」

「なにこの子?どんな悪食なの!」

「落ち着きください魔王さま!」

「ゆるせない!せっかく兄…」

「にい?」

「い、いえ、なんでもない。なーんでもないわよっ!」


とりあえず捕獲部隊を。直接あたしが行きたいけど、いまはグラーフ王国に展開されつつある防衛線に向かう部隊を編成しているところ。ふん、人間のわずかばかりの抵抗などなにほどのものか。たとえ何百万集めたってしょせんは烏合の衆…魔王軍の敵じゃないわね。




「それにしたって、なんでゴリエス将軍が直々に捕獲部隊に参加されているんですか?」

「やかましい!こっちゃあ切羽詰まってんだ。なあ知ってっか?魔王さまが俺のこと、あんまり悪く言わないであげて、なーんて言ったそうなんだぞ?どうすんだよ、これ!」


静寂を破るように怒鳴り声がする。ゴリエス将軍は副官の魔族の将校の襟首をつかんで怒鳴っているのだ。


「お、お放し下さい、く、苦しい…」

「いいか、きっと殺される…そ、そうならないうちに、俺は挽回しなくちゃなんねえんだよ!」

「挽回するって言っても、どうやって?」

「だーかーらー、そのお尋ね者ってえ人間をこの手で捕まえて差しだしゃあ、一気に汚名が晴れるってもんだ!」

「そういうもんですかねえ?まともに頭使って軍務に励んだ方がいいんじゃないですか?」

「そんな悠長なこと言ってらんねえんだ!明日にでもこの首と胴がおさらばするかもしれんのに!」

「わかりました!わかりましたから。ほら、もうすぐ町ですよ。この農場を過ぎたらすぐです」

「農場?しけたところだな…あれ?」

「どうしました、将軍?」

「あ、足がな…」

「足がどうされました?」

「う、動かないんだ…」

「動かない?まさか…あれ?あれれれれ?」

「なあ?」

「はい、どうして?」

「こ、こりゃあ魔法陣じゃねえか!」


強力な魔法陣が仕掛けてあった?なんでこんなところに?


「おやあ?また魔族だぜ」

「性懲りもなくしつこいやつらだぜ」

「さあさあ、ちゃっちゃとやっちまおうぜ」

「そうだな…まあこれっぽっちの人数だ。酒代位にしかならないけどな」


何を言っている?この魔将軍ゴリエスが酒代?バカかこいつら!ええい忌々しい人間どもめ!こんな魔法陣など粉々に…。


「あれ?」

「将軍!これはえらいことです!この魔法陣、ふつうじゃないです!」

「そ、そうだな…解除できん」

「それどころじゃないですよ!これ暗黒魔法付与されてますよ!ヤバいやつですよっ」

「な、なんだと!それじゃあ…」


パチン、パチンとそこらじゅうで魔族が弾けていく。人間がかかってもただの足止め。だが魔族や魔獣がかかると、途端に暗黒魔法が発動し、そして弾け飛ぶ。マティムがそう魔法陣を改造していた。町を守るブービートラップはいたるところに仕掛けられているのだ。


「あーあ、酒代…消えちまった」

「仕方ねえだろ。あのあんちゃんが仕掛けたんだからよ。まああいつらの武器が残ってんだ。これもらっちまうか」

「おい、やたらそっち行くな。かかっちまったら厄介だぜ」

「まあ人間は弾けねえとはいえ、こいつはとんでもねえものだよな」

「まったくだ」


冒険者たちの笑い声が聞こえなくなると、またもとの静寂が訪れた…。



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