34 ゲームの世界
考えてみれば至極当たり前のはなしだ。このゲームの世界さながらの場所で、兄が取るべき行動は何かってことを見逃していた。
これまでは手当たり次第に探しまくった。それはひどく効率が悪かった。だから父の遺志を受け継いで人間を滅ぼそうと思った。そうすればきっと兄にことだから、何か面白いことをしてくると思った。この世界に転生している保証も可能性も根拠もない。それはただのあたしの願望。もしそうじゃなかったら、あたしはこの世界ごと滅んでやると思った。
兄さんのいない世界なんて、なくなればいいのよ。
そう一途に考えてきた。でもあたしが前世の記憶をこうして持っていたなら、それはなぜかしら、っていうことよ。魔王に転生したらそれもありでしょう。でもあたしは魔族の王ドーゼスの娘として生まれた。なんの力もなかった。それが魔族の王に育てられ、強力な力を…そして父をも上回る魔導師となり魔王になった。
これの意味するところはなに?これはおそらくあたしと兄さんがこの世界に転生して、そしてきっと違う立場で対峙して…そうして戦わなくっちゃならない運命に、いえ、筋書きなのよ。
これはあたしと兄の、壮絶な戦いなのだ。いやー、胸躍るわ。
「魔王さま、ファミーリアが」
「問題の場所についたか」
「はい、ですがそれが…」
「なによ?なにかあったの」
「じつはゴリエス将軍隷下のものと思われる魔族軍が人間の冒険者と交戦しているところに遭遇いたしまして…」
「ゴリエス将軍の?あいつ異常あったら知らせろとあれほど言っておいたのに」
「おそらく度重なる失策を…」
まあそんなところか。失敗に失敗を重ねたらあたしに殺される。そうならないよう手を打ったわけね。しかし生憎そこにはとんでもないものがいた。またまたゴリエス将軍の失敗、いえ失策ね。まったく力押しだけで頭を使うことのできないおバカさんには、早く退場してもらわなくっちゃね。それに今後の計画の邪魔にもなりそうだし…。
「魔王さま?」
「ああ、ごめんなさいファリエンド。部下の不始末はこのあたしの責任よね。あまりゴリエス将軍を悪く言わないであげて」
「かしこまりました。しかとうけたまわりました」
「それでほかには?」
「ご覧ください」
魔鏡にはその上空からの映像が映し出されていた。
「これらはみな冒険者たちでしょう」
「うーん、なんか弱っちいやつらね」
「これがバルバラ。炎使いです。わたしたちは火遊び坊っちゃん、と呼んでいました」
クスっと魔王が笑った。その可憐さに、ファリエンドは後ろから抱きしめたくなった。もちろんそんなことをすれば五体をバラバラにされ魔獣のエサになるだろう。
「動けないみたいね」
「魔法陣です。これは魔族のものですね」
「魔族がなんで?」
「わかりません。人間に寝返ったとは考えにくいんですが」
それも兄さんならありかも。なんたって兄さん、モテモテだから。だからあたしがどれだけ苦労して兄さんの恋の邪魔をしてきたか。まあ、兄さん超奥手だから、他愛もなかったけどね。小学生のときからラブレターはみな取り上げて燃やしたし、まあ兄さんが高校に入ったときは苦労したけどね。あー思い出すなあ…兄さんの高校の学園祭。まあ、あんときは兄さんに告る女子生徒たちをうまく誘導して大バトル。おかしかったなあ。
「なんか楽しそうですね、魔王さま?」
「あ、ごめん。ちょとむかしのこと思い出して」
「はあ…。問題はこの後です。バルバラがはじけ飛んでいます」
「あら、バルバラがバラバラになったわね」
「お戯れを」
「冗談よ。でもその前…ここ。この黒い影」
「これは!」
「暗黒魔法よ」
「そんな…なんで?魔王さまにしか使えない禁制魔法を?誰が?」
「映像には映ってないけど、ここにその答えがある。ねえそう思わない?」
そうして魔王はまた可憐に笑った。もうファリエンドは心臓を掻きむしりたくなるほどの欲情に陥ってしまった。