33 見つけた!
町に戻ると、すべての状況が変わっていた。ぼくらはけっこう有名になっていた。
「ちょっとちょっとあんたたち、すごいじゃない!魔獣をみんなやっつけちゃって、しかも魔族の軍もなんて。いやあ、冒険者組合に勤めて初めてよ、あんたたちみたいなすごい冒険者は!こんなのがフリー?ありえないわ」
驚いているのか喜んでいるのかわからなかったが、とにかくあのカウンターにいた女の人はすっごく興奮してた。
「と、とにかく正規登録しなさいよ!もう保証金はおまけしちゃう。もちろんランク二位のシルバークラスもつけちゃうわ」
てことはゴールドクラスが一位なんだな。ゲームじゃアダマンタイト級っていうのがあったけど、ここじゃないのね。
「それであの魔法はどうやったの?」
「魔族の足止めですか?それはこのジェノスが」
「いや、仕掛けの魔法陣は俺だが、その内容はこいつが書き換えたんだ」
そう、ジェノスの魔法陣は確かに強力だったが、それを上回る魔法使いなら難なく解除してしまう。そうされないために内容を書き換えたんだ。強制解除される前にその術式を吸い取って無効化する術式を付与しておく。まあゲームじゃ常識だけどね。
「いやあれもすごかったけど、ほら、魔族をバーンと」
「あれは火を消そうと思ってたら、その、偶然に…」
「火を消す?あなたいま火を消すって言った?」
「ああ、そうです。火を消す魔法をぼくは使うんです」
「なんですって!ちょ、ちょっと待ってて!いま支配人呼んでくるから!」
「え?それより報酬を…」
「いいからお願いっ!」
「はあ」
ぼくら三人はお互い顔を見合してしまった。だから何だというんだろう?ドカドカと階段を駆けあがって行った女の人は、またドタドタと降りてきた。今度はごっつい男の人を連れている。
「あんた火を消す魔法を使うって言ったか?」
いきなりその男はそうぼくに聞いた。
「はあ、まあ…」
「もしかしてもしかして…あの山火事を消したのは…まさかあんたが」
「ああ、町がヤバそうだったんで…」
「おいおいおい、こいつはえらいやつがこんなとこにいやがったぞ!みんな!聞いてくれ。ジェフリーじいさんの起こしたあの大山火事を消し止めたのはこいつだ。どこの魔法使いかと思ったが、そうか、あんただったのか!」
「い、いやそんな、大したことはなく」
「大したことあるんだよ!あんたは何千の人を救った。みな探してたんだ。いあや、あんたは英雄だ!」
いいえ、ぼくは落ちこぼれで何のとりえもない貧乏勇者なんですけど。英雄なんてとんでもない。
「おい、メリッサ。このあんちゃんにどのクラスを?」
「シルバークラスを」
「いやいやいや、冗談だろ。そんなもんじゃねえだろ。もう、プラチナ…いいや最上級のアダマンタイトでよくねえか?」
「それ本部の許可要りますよ!っていうか、あれ名誉等級でしょ?生きてる人に与える称号と違いますから!」
「うるせえな。うちの母ちゃんみたいだぜ。仕方がねえな。まあここはプラチナで我慢してくれるか?もちろん本部に申請は出しておくから、まあ三か月ぐらいしたら許可も出るだろう。楽しみにしていてくれよ」
「すいません、おなかが減ったんで報酬を…その…」
「おお、いかん!そうだったな。いや、こいつは三人で持てるかな?なんなら預かってもいい。組合員証でだいたいの国の冒険者組合で引き出せるぜ。利息は年二分」
利息が低い。まあでもそんなもんか。でも確かに金貨十袋はさすがに持てない。とりあえず一袋だけもらってあとは預けた。やっとご飯が食べに行ける。エルガは空腹すぎて機嫌が悪い。
やっと解放されたと思ったら、今度は町の人に囲まれた。みんな感謝してくれたのはうれしいけど、ぼくら早くご飯が食べたいんだ。
やっとのおもいで食堂に来ると、ここでも握手攻めにあった。今度は部屋に食事を持ってきてもらおう。それでも料理が出る頃にはみんな遠慮してくれたようだ。ああ、やっと食事ができる。
「見つけた!やっと見つけた!ああ、なんてことだろ。ああ…」
なんか叫んでる女の人がいた。いったい何?
「あんただろ!あのおかしな魔法!あのもの凄い力!ねえ、あんたを探してたんだよ」
「はあ?あんた誰ですか?なにいきなり言ってんですか?」
「あんたを探してたんだ。あたしは魔導師…魔導師エルガ。あんた勇者なんだろ?あーまどろっこしい!いいからあたしにその力を寄こせ!」
いきなりです。もうわけわかりません。