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29 冒険者組合

目覚めると建物、部屋、のようなところに寝ていた。あ、これベッドだ、と思い起きようとすると腕が重くしびれている。急に焦りが溢れてくる。ぼくの右腕がどうにか…あれ?


「おい、エルガ!なんでそこで寝ている!」

「ふみゃ?」


エルガがぼくの腕を枕にして寝ていた。しっかりよだれまで垂らして、ぼくのシャツを濡らしている。


「重い!腕しびれた!どんだけ長く枕にしてたんだよ」

「ああおはよ、マティム。朝っぱらから怒鳴んないでよ。それにあたしはあんたを看病してたんじゃない。感謝してほしいもんだわ」

「看病?ぼくは病気だったのか?」

「うん、そうよ。力を使いすぎて疲れちゃったのと、空気が薄くて失神しちゃったってジェノスが言ってた」


それは過労と酸欠だ。まあ、自分でも驚いちゃったけどね、あれ。


「それで火は?」

「みんな消えたよ。町の人はどうしてって騒いでるわ。なにかの奇跡じゃないかって。笑っちゃうでしょ?みんなあんたがやったって知らないから」


そうか、火は消せたんだな…。よかった。


「それ聞いたらなんかお腹減っちゃった」

「奇遇ね、あたしもよ」

「きみはぼくの腕を枕にしてただけだろ」

「あたしのしっぽのおあいこよ」

「う」


それを言われるとなんにも言えなくなるよね。すると部屋のドアが開いてジェノスが顔を見せた。


「大丈夫かマティム。もう起きれそうか?」


そう言ってぼくの顔をじっと見た。顔色が悪くないか確かめたんだな。


「ぼくはもう大丈夫。それよりお腹が減っちゃた」

「それを聞いて安心した。いま下で朝飯の支度ができたと、それを言いに来た」


じつにいいタイミングだ。っていうより、ジェノスはそれを見計らってきたんだろう。なんか、魔族のくせにすごいやつだなあ。


「うふー、こ、これおいしいよ!すんごくうんまい!」

「こらエルガ!そんなにがつがつ食うな。みっともない」

「だっておいひいんだもんっ」


盗賊に捕まってからろくなもの食べてなかったからな。ぼくも料理したが、ほんとにろくな食材も調味料もない食事だったから、ちゃんとした料理なんて久しぶりなんだろうな。まあぼくだってこっちの世界に来てからろくなもん食べてないしね。


「ところでこれからどうする?」

「まずは仕事、だね。こんなおいしい食事にありつくためにも、頑張らないと」

「そうだな。聞いた話によると、この町には冒険者組合というものがあるそうだ」


冒険者組合?ゲームで言うギルドのことじゃないのか?


「そこで仕事のあっせんをしてくれるのかい?」

「察しがいいな」

「でも冒険者にはランクに応じて仕事が割り振られるんじゃないのか?何の実績もないぼくらじゃ、それこそ排水溝の掃除くらいしか仕事はないんじゃないのかな?」

「おまえは自分の村から一歩も出てないと言った。嘘だとは言わんが、それが眉唾もんだと思えるくらいよく知っている。俺もそれをさっき聞いたところなのに」


おっとっと。ゲームの世界のこと、なーんて説明できないよね。


「前に捕まって働かされていた盗賊の首領から聞いたのです」

「ふうん、親切なやつだな」


あらためてご冥福を祈ります。名前は忘れたけど。


「とりあえず今は何でもいいじゃないか。仕事があれば」

「そうだな、行ってみるか」


そういうわけで、ぼくらは冒険者組合というところに向かった。それは町のはずれにあり、けっこう人が大勢いた。


「掲示板に仕事の内容と受けられるランクが書いてあるはずだよ」

「俺は字が読めん。お前が決めろ。だが本当に初めてなのか?おまえ」

「いいからいいから」


掲示板にはさまざまな依頼があったが、どれも高ランクのものばかりだった。低ランクの依頼はすぐになくなってしまうのだ。


「あんたたちこの町ははじめて?」


そう声をかけてきたものがいる。カウンターにいる女の人だ。緑色の服と緑色のベレー帽のようなものが制服のようだ。


「こんにちは。仕事を請け負いたいと思って」

「ふうん、フリーの冒険者ね、あんたたち」

「そうですけど」

「ここはフリーの冒険者に仕事はあまりないわ。なんせ盗賊に豹変する輩が多くてね」


どこも世知辛いのです。居直り強盗ならぬ居直り冒険者ってわけですね。


「じゃあ正規登録すればいいんですか?」

「そうだけど、それけっこう難しい試験があるわよ。あんたたちみたいな若い男の子と女の子じゃあ難しいかな。そっちのごっついお兄さんなら別だけど、でもこれはパーティ限定だからやっぱりむりかもね」

「やらせてください!ぜひ」


ぼくら三人は頭を下げた。食べるためだ。いくらでも頭は下げるさ。


「仕方ないわね…。じゃあこの依頼を」


それはどうにも難しそうな依頼だった。それはたくさんの魔獣から広い農場を守れ、というものだった。



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