24 魔王の依頼
「さて、充分にあたしの力がわかったかしら?」
「はい、われらに、魔王さまに抗うなどできぬということが。おとなしく首を差し出すことが、唯一許されることかと」
獣王ガシムはもはやすべてをあきらめるしかなかった。これは普通じゃない。いやむしろ普通のことなのだ。いまここにいるのは確実なる死、なのだ。すべての生きとし生けるものに必ず訪れるものなのだ。
「では改めて…。獣王ガシムよ、わが目となり耳となることをわれは欲する。さすれば獣人の命は保たれよう」
「はい?」
「要するに、あたしの手足となって働けって言ってるのよ」
「それはどういう…?」
「ぶっちゃけ、人を探してほしいの」
「人?魔王さまがいま滅ぼしている?」
「そう。たった一人の人間。名前は…わかんない。顔も姿もわからないけど、とにかくすごいやつよ。そいつを探す手伝いをしてほしいの。あなたたち獣人族すべてでね」
ガシムは面食らった。人を…名前も顔もわからない誰かを?無理に決まっている。だができないと言えない。すべての獣人の命がかかっている。無理でもやるしかない。
「して、期限は?」
「あたしがすべての人類族を滅ぼしたときまで。それがタイムリミット。あとはわかるわね?」
「はい。ではこれから獣人すべてが魔王さまの人探しに」
「なるべく早くね。急がないとあたしの方が先になっちゃうわよ?」
「抵抗したら殺しても?」
「まさか…。生かしてよ、もちろん。あ、でもあんたたちに殺されるわけもないか。気をつけなさい、彼はとても強い。そして美しい。だから居所を教えてくれるだけでもいい。いいわね?」
「もしかして、そのために人間族を滅ぼしている…と?」
「まさか。これはわが父ドーゼスの願い。汚らわしき人間の死滅こそわが悲願。一応そういうことにしておいてね」
「はい。いのちにかえまして、魔王さまのご命令を」
「やだな、これは単なる依頼よ。成功報酬はあんたたちの命。いのちにかえるって、そりゃあ二重取りになってしまうわ」
そう言って魔王は消えた。獣王ガシムは、なんだか夢を見ているようだった。
「ふうん、命拾いしたな、おまえらは」
「ファリエンドさま…魔王さまのご真意は…」
「無駄だ。それを考える暇があったら当該の人間を探すことだ。なあ知っているか?この戦いに反対した魔族も多かった。すべて魔族の王ドーゼスさまの側近だったものだ。それが今や一人もいない。みな殺された。魔王さまは並々ならぬ決意で挑まれている。それを…忘れないことだ」
「感謝します、ファリエンドさま」
たった一人の人間を探す。この広い世界のどこかにいる顔も名前もわからない者を…。不可能だ。だがやらなければ一族はみな死ぬ。これは希望でありチャンスなのだ。それをつかむためには、どんなことでもしなくては。
「獣人族すべてに伝えよ。人間を探せ、と。その人間は…偉大なものである、とな」
獣王ガシムは、震えながらも控えていた宰相グーガに、重々しく言った。これより獣人族は死に物狂いでその偉大なる人間を探し回るのである。