21 勇者、魔法を習う
このまま国に帰ろうか、それともどこか知らない場所に行って、何か暮らしの立つことでもするか、ずっと迷っていた。
「リエガはこの先どうするんだ?自分の生まれ故郷に帰るのか?」
焚火を前にして、リエガにそう聞いた。こいつもこのままぼくと一緒というわけにはいかない。人間と獣人は一緒に住めない。人間の村や町には奴隷以外住めないのだ。それだけ獣人や亜人は差別されている。
「ずっとマティムと旅がしたい…なーんて、そんなことムリってことはわかってるんだ」
チクチクと胸が痛んだ。ぼくはどこかの村か町で暮らすしかない。こんな弱虫で何もできないやつなんか、そうじゃないと暮らせないと思う。だとしたらリエガはついては来れない。
「もし帰るなら送っていってやるけど…」
「でも一緒につかまった兄や弟たちを探さないと」
密猟者に兄弟がつかまって、売られてしまったのだ。
「でもお父さんやお母さんのところに帰らないと」
「そうだな…そうだよね…」
そう、寂しそうにリエガはつぶやいた。
「話に割り込んで悪いが…」
ずっと黙っていたジェノスが口を開いた。
「いや、かまわないよジェノス」
「人間や獣人が一緒に組んで、冒険者というものを生業にしているやつらがいると聞いたことがある」
冒険者?ああ、ゲームとかマンガの世界の特殊労働者ね。
「あたしそれ知ってる。あたしの暮らしている森にもそういう人たちが何度か来たことがある。みんなすっごい武器とか防具とか持っていて、魔法使いもいたんだよ」
「へえ、魔法使いかあ…」
そんなもん本当に居るんだ。
「なあ、どうだ?行先も何もないんだったら、そういうのになってみては?」
「無理だよ。ぼくは戦い方知らないし、魔法だって使えない」
「あたしも無理。鼻は効くし耳もいいけど、戦うなんて…」
「戦いは方は俺が教える。魔法もだ。まあ、大した魔法は知らないがな」
そうだなあ…やってみるかな…だめならあきらめて他のこと考えりゃいいんだし。
「じゃあやってみますか」
「うん。あたしになにが出来るかわかんないけど」
「決まりだな。じゃあさっそく魔法の適性を見てやろう」
そう言ってジェノスは右腕を差し出した。
「ふたりともよく見てろ。いまから魔法を見せる。俺と同じようにしてみろ」
ぼくらはジェノスに言われた通り右腕を伸ばした。
「ほら、光が見えるだろ?手のひらに。こいつが具現化させた魔力だ。こいつでこの世界のいろいろなものに干渉する。石を砕いたりくっつけたりできる」
「お、なんか光った」
リエガの手のひらが小さく光った。
「うまいぞ。なにが出来るかやってみろ。適性のあるものなら反応するはずだ」
リエガはぶんぶんと腕を振り回した。すると、いきなり突風が辺りの草をなぎ倒した。
「ほう、風の魔法か。こいつはすごい。武器にすれば強力だな」
「ほんとか?よーし、練習するぞー」
リエガは嬉しそうにぶんぶんと腕を振り回している。ちょっとうらやましい。
「さてお前だが、何も出んか?」
「うん、さっぱりだ」
「やはり魔力はないのかな。人間にはちょっと厳しいか」
あーあ、やっぱりぼくは落ちこぼれなんだ。
いきなり焚火の火が消えた。いままで勢いよく燃えていたのに。
「な、なんだ?」
辺りが急に真っ暗になった。ジェノスが驚いていた。
「おかしいな?炎どころか炭火まで消えている。こんなことははじめてだ。水でもぶっかけたわけでもないのに、自然に消えるなんてな」
そう言ってジェノスがまた焚火の火を起こそうとしたが、燃え上がると同時に消えてしまった。
「なんだ?おい、マティム!何をした?」
「え?ぼく?」
「そ、そうだ…その手のひら…」
ぼくの手のひらの上に、何か真っ黒い小さなもやみたいなのが浮かんでいた。なにこれ?
「あ、暗黒魔法…か」
「なにそれ?」
「おまえ、とんでもないやつだ」
何だか魔族が驚いている。まあ、よくわかんないけど、ぼくは魔法を覚えたんだ。と、思う…。え?これヤバいの?




