18 人類最強魔導師エルガ
なんぴとも到達しない域
おぞましい地獄を見てきたもの
あらゆる力を得て
死さえそれを超越せしめる
その名をエルガという
「地獄門か…なつかしい」
アルデアン国王ピシャール・アルデンスタインは古い城の前に立ってそうひとりごとを言った。供の者は数名。それ以上だと魔導師は会ってもくれない。
「いかがしました?陛下」
「サリアンよ。わが右大臣にして良き友人…。なあ、わしは恐れておるか?」
「陛下におかれましては、まことにそのような…」
「無理をするでない。わが王家に伝わる伝承詩じゃ。代々ここの城主は魔導師がなる。この『ヘル・スタイン城』のな」
「うわさは聞いております」
サリアンは控えめに言った。いや、うわさどころではない。この城に代々住むものは稀代の魔導師なのだ。誰も恐れて近づかないほど、その名は通っている。だがそれは公然の秘密とされる。魔法使いは国家が管理する。それを逸脱する者など存在しないのだから…。
「しかし王自らが…」
「それを言うな、サリアン。人類存亡のとき…いまさら儀礼など何ものでもない」
そうだ。ここに来たのは一塁の望みがあればこそだ。ここにいるのはこの世界最強の魔導師。あらゆる魔法を熟知し、世界の気候までも変えうる力を持っている。いま魔王を食い止められるのは、このものをおいてほかにはいないだろう。
そうしているうちに門が開いた。招かれた、ということだ。
「話だけは聞いてくれる、ということだな」
王は半ば投げやりに、そう言った。
「これはこれはアルデアン国王ピシャール・アルデンスタイン陛下、お久しぶりですわね?」
エントランスは大広間とつながっていた。そこに漆黒の服で身を包んだ女がいた。これが人類世界最強の魔導師、エルガだ。
「エルガさまにもつつがなくお過ごしかと」
「まあ、暇を持て余していた、ということですけどね」
「事情は?」
「大雑把ですが、だいたいは」
何が大雑把なもんか。この城から無数の使い魔が飛び立っていくのを警備の兵が目撃している。ある程度の事情は把握しているはずだ。
「では単刀直入に申し上げます。あの魔王を、始末していただきたい」
「始末?わたしに殺せと?」
「そう、申し上げておりますが…」
「ふうむ…」
何を勿体ぶる?最強の魔導師ではないのか?いかに魔王と名乗っていても、このエルガには敵わないのだ。
「ご返答は…」
「いいだろう。魔王退治か…なかなかワクワクするな」
「お戯れを。相手は仮にも魔王…もはやどんな力があるやもしれず」
「たかが十四のガキだ。案ずることはない」
「十四?それが魔王の齢で?」
「そのようだな。つまりまったく今回はやる気が出ん。百年戦争のときのあのヒリヒリした魔法のやり取りは、今回は期待できんかもな」
百年戦争のとき、若干九歳で暗黒軍と呼ばれる魔軍を壊滅に追いやった。そのことを言っているのだ。あのときは五人の魔導将軍に人類の二割を殺された。
「明日、出る」
そう言って人類最強魔導師エルガは、遥か空の果てを見入っていた。