17 獣人でも女の子
そういや気がつかなかったけど、こうやって面と向かってみたらそんな感じする。
む、胸だってあるみたいだし…。でも四つ足で歩いてたから気がつかなかった。そういややけに腰回りが細いし、お尻は反対にでかいなと思っていた。
「どうした?シチュー冷めちゃうよ」
「あ、ああ…」
「あたしが女だから?」
「な、なにがさ」
「嫌いになった?」
どうしてそういうふうな言い方になるのかな?そういう機微が反映しなきゃならない会話を、ぼくができると思っているのかな。
「き、嫌いになんかならないよ。友だちだし…」
「友だち、かあ」
そういう言い方やめて!おかしな展開に絶対なるから!
「よかった」
「はあ」
「まだ友だちでいてくれて」
あーマジ疲れる。ってなんでぼくが疲れるんだ?
「ねえ」
「なんだよ」
「好きな人とかいるの?」
おいおいおい、勘弁してくれよ!種族の壁超えるような会話はヤバいんですけど!
「い、いないよ」
ぼくが好きな人は…その…妹だし。でも、死んじゃったんだよな。もうどこにもいないんだ。
「よかった」
何で、とは聞けない。それこそ種族の壁だ。
「そう?」
「うん。だってずっと一緒にいられるじゃない」
ずっと一緒にいる気なんですね。まあ、いやじゃないけど、こういう会話ずっとしなくちゃならないのかな?それは気が重い…。
「今日も尻尾で寝る?」
「はい?」
「あ、あたしの尻尾で」
「そういうのは…女の子だってわかっちゃったし…」
「お尻見るの嫌?」
「い、いやじゃないとかそういう…」
「あたしは恥ずかしかった」
「あーそうね」
「尻尾って敏感なんだよ?」
「そ、そうだったんだ…ぼく生えてないから」
「でもあんたならいいよ」
そういうのやめてって!なにこの子?誘ってんの?ありえないでしょ種族の壁!
「う…ん…」
げ、魔族が気がついたみたい。魔族って回復速すぎじゃない?あ、そうか、こいつら魔法使えるんだった!ヤベえ!
「なんだ?」
「はっ」
「おまえらは、なんだ!」
「あー、あのー、まあなんて言いますか…」
魔族の男は上半身を起こした。鎧の金属部分がこすれて嫌な音をたてた。
「きさまは人間、だな…」
「はあ、まあ一応」
「チッ、獣人までいる」
うわあ、舌打ちされちゃったよ。どうしようどうしよう。暴れられちゃうのかな?それとも魔法?きゃー、考えたら超ヤバいじゃん!これはさっさと逃げなきゃかも!
「で、ではお体もいいようなので、ぼくたちはこれでおいとましたく…さ、行くよリエガちゃん」
「あ、あの…」
「どうした?リエガ」
「腰抜けちゃった」
おいおいおい、万事休すやないですか!どうしよう。一目散に逃げないと非常にまずい場面ですよ?
「まて」
「ひいいいいいいっ」
「きさまたちが手当てしたのか?」
「さいでございます」
「なぜだ?俺は魔族だぞ?」
「いやーでもー、ケガしてたし、死にそうだったんで…」
「意味が分からん。人間族を殺しまわっているのだぞ、俺らは。なんで助ける必要がある?」
そう言われても、高校で習ったからだなんていえないだろ。
「ぼくには妹がいた。目の前で死んじゃった。バラバラになっていくのを、ぼくは黙って見ていた。まあぼくもバラバラになっていたんだけどね。そんとき妹は泣いていた。ぼくを見て泣いていた。だからね、ぼくは目の前でいかなるものも死んじゃいけないって決めたんだ。そしてたまたまそこにあんたがいた。それだけだよ」
「ふうん…」
魔族の男は何か考えるような仕草をした。まあ怖いけど。
「恩には恩で報いる。それが魔族の戦士だ。礼を言わせてくれ。わが名はジェノシウシスコルサイム」
「長っ!」
「ジェノスでいい、友よ」
ぼくはこれでいいのか人類として。