10 帝国軍参戦
ファラーデン王国は破った。もはや生き残っている者はいないだろう。あたしは魔王の玉座に腰かけた。
「まことにお見事でした。ゴリエス将軍の活躍もさることながら、魔王陛下の第二軍オースィン将軍、第三軍エドメス将軍に対する采配には目を見張るものがありました。何しろ三倍の敵を蹴散らすなどと…」
アストレルが感極まったようにそう言った。そう?そんなに大したこと?兄さんなんか秒でやってのけるけどね。三倍どころか百倍だって兄さんの敵じゃない。あたしはただ兄さんのまねをしてるだけ。
「戦線に注意を払え。そろそろ新たな敵が動き出す。偵察を怠るな。ファリエンド、先日命じたあれは準備できているか?」
「魔王さま、整いましてございます。ただ、あれを何にお使いになるのですか?飼いならした翼竜など、いくさ場で何の役に立ちましょうや?」
小型の翼竜と大型の翼竜を飼いならしてあった。これも兄さんがやっていたゲームの世界で、兄さんが使っていた戦術だ。うまくいくかはわからない。でももしうまくいくなら、この効果は計り知れない。
「期を待て。そう兵にも伝えておけ。それは近い、ともな」
「かしこまりました」
「これより国境を越え、進軍する。行き先は、帝国首都!」
魔王軍は一斉に進軍を開始した。もはや敵なしと思われた。だがそれは目の前に広がる原野の光景を見て、考えを改めるべきだとみなそう思った。
そこには数限りない兵がいた。数万…いや数百万の人間がいた。
「ネブリャスカ軍団ですね」
「ネブリャスカ?」
「帝国の主力ですよ」
皇帝オラーリンが帝国の礎を作ったという。その戦法はあくまで人海。人で地平を埋め尽くすだけの作戦。まるで人の津波。そんな人間どこから?答えはまわりにあった。周辺諸国を併呑し、人をかき集める。大人も子供もだ。
ネブリャスカ軍団はその悪名高き皇帝の最強の戦術単位。まるで死霊のように前進してくる、後退はしない。すれば死ぬ。前に出ては死に下がれば死ぬ。まさに死の軍団。
「あれが出てきたとなるとこいつは決戦になりますよ。そういうわけで、わたしは前線に」
アストレルがそう言って兜をかぶり出て行こうとした。数名の参謀たちも一緒だ。いよいよ騎兵のお出ましというわけか。魔族の騎兵が座乗し突撃するのは馬じゃない。魔獣だ。サイのような魔獣、象のような巨大な魔獣、そしてオオトカゲみたいなやつ。みな恐ろしく強い。
「アストレル!」
「なんですか、魔王さま」
「左翼が手薄に見える」
「そのようですね。兵が薄い。そこから一気に…」
「やめておけ、あれは罠だ。お前を引き寄せる、な」
「な、なんですと!」
「悪いことは言わん。中央を突け」
「しかし最も防御が厚い…」
「何で野戦で防御を固める必要がある?そこが、敵が一番攻めてきてほしくないところだからだ」
兄さんなら迷わずそこに攻撃を集中させるだろう。なぜならそこが命令系統。ならば乾坤一擲、フルパワーでぶち抜けば、あとは大したことのない烏合の衆。全滅させるなど赤子の手をひねるが如く、だ。
「この赤槍の力を存分にご覧下さい!」
そう言ってアストレルはサラマンダーにまたがった。火焔地竜サラマンダー。魔法まで使う最強の魔獣。
帝国軍は震え上がるであろう。