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最強魔王は異世界転生が怖くて世界征服できない

作者: クロット

挿絵(By みてみん)


カロン王国。一見平和に見えるこの国・・・しかしそこにとてつもない脅威が迫っていることに人々はまだ気づいてはいなかった。


人里離れた森の奥・・・そこに世界征服の野望を抱く魔王、アヴァナークの居城はあった。


ウウウウウン・・・。

魔王城最下層にあるおどろおどろしい雰囲気を放つ巨大な扉の前に、これまた不気味な男が二人・・・じっとその様子を伺っている。


「遅いであるな・・・アヴァナーク様が門に突入されてもう三日、そろそろ戻られても良い頃だと思うのだが・・・。」


紫色の体皮と鋭い角を持つ、いかにも悪魔という風貌の男が深く息をつきながら言う。彼の名はデビラッタ。魔王軍の参謀を務めていた。


「なんだァ?デビラッタ・・・てめェ、アヴァナーク様の力を疑ってんのかよ?」


挑発的にもう一人の男がにやける。なんと、その全身は燃え盛る炎に包まれている。爆炎将軍フレフレイム・・・見た目の通り荒々しい男だ。

彼らは共にアヴァナークに仕える魔王軍の幹部である。そして二人はこの巨大な門の先に向かった魔王の帰りを待っていたのだ。


門の先に広がっているのは『魔晶界』という異次元だ。膨大なエネルギーを含む結晶に覆われたその世界には、常に視覚化出来るほどの魔力が充満している。

魔族にとって力の源であるはずの魔力だが、そこまでいけば最早有害となる。並みの魔族ではものの五分で肉体が崩壊してしまうだろう。

だが、もしも奥地まで辿り着き無事に戻る事ができれば・・・その肉体の強度は大幅に跳ね上がるだろう。

つまり魔王アヴァナークは・・・この魔晶界に更なるパワーアップの為に向かったのだ。




「・・・無論その力を疑っている訳ではない。ただ私はアヴァナーク様に万に一つの事もあってはならないと思ってだな・・・」


眉をひそめるデビラッタ。フレフレイムは嘲る様に笑う。


「バーカ、それが疑ってるってんだよ。その万に一つもアヴァナーク様にはありえねェだろうが。」

「・・・。私はあくまであらゆる可能性の話をしているのだ。『馬鹿』の代名詞たる貴様には分からないだろうがな。」


わざとらしく強調したその言葉にフレフレイムがぴくり、とする。


「あァ・・・?てめェ喧嘩売ってんのかよ?」

「好きに取って貰って構わぬ。ちょうど将軍などという役職に疑問を持っていたところだ。」


一触即発・・・!だがその瞬間、目の前の門が勢いよく開き二人を止めた。


「何を言い争ってるのかしら?」

「「!!!!」」


二人の目が釘付けになる。

澄んだ声とともに現れたのは・・・魔王アヴァナークそのものだった。


意外な事にその姿は幼い少女の様であり、魔王にしておくにはあまりにも・・・美しいものであった。

しかし、華奢な肉体から発せられる力はまさに魔王・・・!大気は震えたち、離れている二人にもびりびりしたものが伝わってくる。


「こ、こいつは・・・。」

「以前にも増すこの力・・・アヴァナーク様、無事に魔晶界を踏破されたのですね!」


歓喜の声を上げるデビラッタにアヴァナークはゆっくり頷いた。


「もちろんよ。」

「おお!・・・ということはいよいよ世界征服に乗り出す時が来たという事ですな!?」

「・・・いいえ。やらないわ。」

「な・・・!?」


思いがけぬ否定にデビラッタは一瞬固まる。


「そ、それは・・・何故ですアヴァナーク様!すでに魔王軍には十分にそれをなせる力があるはず。それでも万全を期してという事での此度の魔晶界突入だったはず・・・一体これ以上何が気がかりだというのですか!?」

「決まってるじゃない。異世界転生よ。」


きっぱりとそう言うと、アヴァナークは続けた。



「いい感じに世界征服を進め後少し・・・ってところで奴らはきっと現れるはずよ。絶対そうだわ。奴らはとんでもない力で魔の手を振り払い、あっという間に世界を救うんだから。」

「異世界転生・・・。しかしですなアヴァナーク様、そんなものは所詮子供のおとぎ話。よもや本当に都合よく出てくるはずなど・・・」


半ば呆れた様に言うデビラッタ。

しかしアヴァナークはぎろりとそれを睨みつける。


「だったらデビ、これを見てみなさい。」


どすん・・・とアヴァナークがどこからか取り出したのは、この世界の成り立ちから何まで載っている分厚い歴史書だった。

そして彼女が乱暴にめくり開いたのは・・・世界を救った歴代の勇者の名がずらりと書かれたページだ。



第15代勇者 ハイド・カールイン

第16代勇者 ビルケイン・ウーバー

第17代勇者 ロード・ヴァルメテス

第18代勇者 山本 太郎

第19代勇者 シャルロッテ・ホーク

・・・


アヴァナークはその中の一か所を勢いよく指差した。


「見て、こいつ!山本太郎!!こいつ絶対転生者よ!こんな妙な名前したやつ他にいないもの!!」

「むむ・・・。」


得意げになるアヴァナーク。デビラッタも「まあ、確かに・・・」という顔だ。

・・・ここでだんまりを決め込んでいたフレフレイムが口を開く。


「だがよォ、アヴァナーク様・・・仮に転生者なんてモンがきたとしても、あんたが後れを取るとは思えねェんだが・・・。今のあんたに勝てる奴なんているのか?」

「ええ、勿論。というより魔晶界へと入って今の力を手にしたからこそわかるわ。彼らが使うという音に聞くチート・・・あれはどんなに力を高めたところで勝てるものではないのよ。いかに肉体の強度を上げたところで、概念自体を捻じ曲げるような力には勝てるはずないもの。あー全く、無駄な努力だったわ。」


皮肉的に笑みさえ浮かべるアヴァナーク。

困惑しながらデビラッタが尋ねる。


「そ、それでは一体どうされるおつもりなのですか・・・?」

「はあ?そんなの知らないわよ、馬鹿。あなた参謀でしょ。次までに考えておきなさい。・・・はー疲れたわ、今日は私もう帰るから。じゃあね、おやすみ。」


それだけ言うと、アヴァナークはそそくさとその場を後にしてしまった。

唖然とした二人だけが残る。


「ば、馬鹿・・・」


デビラッタは呆然と口を開けていた。





それから暫くしたある日の事。

魔王城の一室に、再び三人は集まっていた。


「本日はよくぞご集まり頂いた。」

「挨拶はいいわ。・・・で、いったい何の用なのかしら?」


アヴァナークに急かされ、デビラッタは深く頷きながら続けた。


「無論、世界征服・・・対異世界転生者の件に関してでございます。」

「何、何か思いついたの!?」


身を乗り出すアヴァナーク。

するとデビラッタはやや得意げにもう一度頷き、ぱちんと指を鳴らした。


ぎいい・・・!

鈍い音と共に部屋の門が開かれると、デビラッタ配下の魔物達が何か大きな物を運んでくる。


現れたのは・・・特大のトラックだった。


「・・・これは?」

「見ての通り、トラックでございます。ご存じかと思いますが、異世界転生はほとんどの場合トラックに轢かれた死者が女神の元へ導かれる事で起こる物・・・。とあれば、こちらもこれを使用し転生者が現れる前に女神の元へ先回りし・・・元を絶ってしまおうという作戦なのです。」


あんぐりと口を開け言葉を失う二人。

畳みかけるようにデビラッタは説明する。


「何、心配は要りません!最強の力を得たアヴァナーク様にも通ずる様に、トラックには最高級のZXエンジンを搭載、おまけにトラックの全面を超金属メタハルコンでコーティングしてあります!これならばアヴァナーク様といえど、痛みさえ感じずに一撃で昇天することができましょうぞ!」


やり切ったというように胸を張るデビラッタ。

するとアヴァナークは・・・ゆっくりと口を開いた。


「あ、あなた・・・」

「はい!」


「天才よ!!」


キラキラと目を輝かせるアヴァナークに、デビラッタも思わず笑みがこぼれる。


「ええ!そうでしょうそうでしょう!」

「そうよ。・・・全く、たいした部下を持ったものだわ。早速試してみましょう。どうしたらいいのかしら?」

「はい、そこに立っていて頂ければ大丈夫です。後は私がアクセルを踏んで・・・」


あーでもない、こーでもないと楽しそうにトラックへと向かう二人。

フレフレイムだけが離れたところからその様子を無表情に見守っていた。


「・・・。ウチの軍って馬鹿しかいねェよな。」




ガシャーン!!


アヴァナークが最後に聞いたのは、そんな激しい衝突音だった。

気が付くと彼女は・・・黒いモヤに包まれた何もない空間にいた。


「・・・そう、私はトラックに轢かれて・・・。」


きょろきょろと、彼女はあたりを見渡した。


「・・・。この感じ・・・ふ、ふふ・・・間違いなさそうね。ここは異世界へと送られる者が最初に訪れる案内女神の間!つまり、私は異世界転生に成功したんだわ!」


一人確信するアヴァナーク。

そしてそれを裏付ける様に、眩いばかりの光に包まれた女性がアヴァナークの前に出現する。


「初めまして、アヴァナークさん。この度あなたは見事異世界へと転生できることに決まりました。・・・紹介が遅れました。私は転生に関する説明と案内をさせて頂く女神のラナと申します。」


曇り一つない表情で女神は言った。

アヴァナークは暫くその姿をじっと見つめていたが、やがてにんまりと邪悪に微笑んだ。


「死ねえっ!!」

「ぎゃああああ!!」


アヴァナークの頭に生えた二本の角から電撃が放たれ、女神を貫く。

彼女はあっという間に黒コゲになった。


「ふふふふ・・・やったわ。案内人の女神が死んだからには、もう誰も異世界転生してくる事もない。これで安心して世界征服に乗り出せるってものだわ!」


腕を組み、にやにやと頷き約束された勝利に酔いしれるアヴァナーク。

そして彼女はすぐに・・・当然の疑問に辿り着く。


「アレ、ところでこれ・・・どうやって元の世界に戻ったらいいのかしら。ねえ、ちょっと!もう用は済んだから帰らせて欲しいのだけどー!」


叫びは響くが誰にも届かない。

これはちょっとまずいのでは?とアヴァナークの頬を嫌な汗が伝う。


しかしその時だ!突然アヴァナークの前の空間が歪み始める。

空間を裂いて現れたのは・・・眼鏡で太ってべとべとした中年の男だった。


「あれぇ、どこだここ。確か僕は超変形ネコミミロボのフィギュアを買いに行った帰りトラックに轢かれて・・・。あ、もしかしてこれが噂の異世界転生って奴でしか?」


驚いた様子のデブメガネは、すぐにアヴァナークに気づいた。


「おお~っ!もしかして、もしかしなくてもあなたが女神さまでしね!まさか実物をこの目で見られるとは・・・はあはあ。」


鼻息荒くアヴァナークに詰め寄るデブメガネ。

彼女は困惑しながら返す。


「あ、あー・・・ちょっとまってね。」




現世。

無事アヴァナークをトラックで送り出したデビラッタ達は、その帰りを待っていた。


「ふむ、今頃アヴァナーク様は見事女神を打ち滅ぼし・・・転生の道筋を止める事に成功したであろうか。」

「・・・なあ、くだらねェ事を聞くがよ、当然女神をぶっ殺した後アヴァナーク様が戻ってくる道は別に用意してあるんだよな?まさかそのままそこに置き去りなんてこたァ・・・」


流石に無いと分かっていながらフレフレイムは問うた。半分笑いさえしながら。

するとデビラッタの表情は消え、目は点になった。


「あ。」

「え・・・?」


思わず訪れる沈黙。共に「嘘だろ?」という表情を浮かべる二人。

それを裂いたのは、突然の空間の歪みだった。

そして現れたのは・・・二人が待ち望んだ魔王・・・ではなく、見覚えのないデブメガネだった。


「な、なんだ・・・こいつァまさか異世界転生者!?け、けど異世界転生はアヴァナーク様が行って止めたんじゃ・・・。」


言いつつも、フレフレイムは分かっていた。

止めに行ったアヴァナークが戻らず、代わりに来ないはずの転生者が来るという事は・・・彼の主はやられてしまったという事だ。

そして目の前のデブメガネからは・・・十分にそれを可能にするであろう途方もない力が感じられた。

これが、転生者。


するとデブメガネはこちらへ向かって一歩踏み出した。

慌て身構える二人。勝てぬと分かっていても戦うほかない。


「・・・ッ!!」


・・・しかしデブメガネはそれ以上踏み込んで来る事はなかった。


「あ~ええと、魔王軍の方々でしね。ぼくは女神さまに言われて転生して来たんでし。『協力して一緒に世界征服しなさい』と。」

「ええ・・・。」


状況を全く呑み込めない二人にデブメガネは続ける。


「はあはあ・・・それにしても素敵な女神様だったでし。あんな小っちゃくてかわいいのに何処か偉そうで・・・はあはあ・・・。」

「・・・。」


興奮する彼の言葉に、二人は何となく状況を察した。

それは多分、女神ではなく魔王だと・・・。




「い、異世界で魔王軍に入って世界征服しろなんて言われても・・・ぼ、僕には何の才能も力もないわけで・・・。」


早口でそう言ってきょどきょどする、出っ歯で眼鏡でガリガリの男。

するとアヴァナークは・・・そんな彼の手を強くぎゅっと握りしめた。


「いいえ、心配しないで。あなたならきっとやれるわ。私が保証するわ。」


じっと大きな瞳で上目遣いをし言う。

出っ歯眼鏡は顔を真っ赤にした。


「は、はいいっ!」

「頑張ってね!」


出っ歯眼鏡はふわふわした気持ちで異世界へと飛んで行った。

アヴァナークはそれを見届けると大きく伸びをした。


「ふうっ!これで10人目ね。女神の真似事をするのも意外と楽じゃないわ。・・・それにしても私って天才だわ。最強の異世界転生者と戦うのが怖いなら、味方にしちゃえばよかったのよ。そうすれば苦労もなく世界征服もできるわけだし。・・・何だか知らないけど、転生者も凄く協力的な人が多いしね!」


一人にんまりと、彼女は満足そうに笑った。


「さてと、この調子で念には念を入れてあと100人くらい送っちゃうわよ。さあ、次の方どうぞー!」




そんなわけで、魔王アヴァナークは見事異世界転生者と争わずに世界を征服する術を手にしたのだった。

何処か抜けたところのある彼女の作戦も最後には上手くいったのだ。


最も、この後世界征服を成し遂げた転生者たちが、各々自らがアヴァナークのために最も貢献したと主張し新たな争いを引き起こす事となるのだが・・・それはまた別のお話。


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