ミラクルアンサー?
「う…うあああぁぁぁ!」
く…九条が…ボカロ界最凶の曲聞いてボロクソ泣いてる…
俺にはどうすることもできず、取り敢えず泣き止むまで扉一枚隔てた隣のキッチン部屋へ
そーっと戻り、扉を背に床にあぐらをかいて座った。
(うーん…泣き声が止んだら飯温め直すか…)
「おぉーい飯できたぞー」
隣の部屋で聞き耳立てて、泣き止んだタイミングで飯を温め直して,部屋に入った。
勿論平静装ってだ!
「…」
つけていたコンポの電源は切ったみたいだな。
九条の目元は痛々しいくらい赤くなっていた。
俺はその事には触れず、彼女の正面にある丸テーブルの上にご飯を乗せていく。
最後は二人分のコップに麦茶入りのピッチャーからお茶を注ぎ終え俺は手を合わせた。
「いただきます」
そう言い箸を持っておかずを突く。チラッと九条を見た。
彼女は遅れて手を合わせ…
「…ぃただきま…す…」
消え入りそうなか細くい声で言った。俺はそれに返すように言う。
「召し上がれ」
多分この時の俺はニッコニコ笑顔を浮かべていたかと思う。我ながら恥ずかしい。
そりゃこんな美少女が俺の作った料理を食べてくれるんだからな!
さぁ感想待ちだ美味しいと述べてみよっ!
なんて調子乗ってたのが悪かったんだろうか…
次の瞬間、血の気が引いた。
「…な…なぁ、なんで手で食べてんだ…」
「あ、ごめんなさい…」
「…いぇ…」
『手掴みで食べるとか気味悪いよな』
和人と話した自分の言葉がフラッシュバックしてきて、今自分が食べた物が逆流してきそうになる。
(なんなんだこれ…これもあの男のせいなのか…いや…今はやめよう…)
もう一度九条を見た。
先程、手掴みで食べた人物とは思えない綺麗な所作で箸を使い食べている。
手についた汚れは一緒にテーブルの上に置いておいたティッシュで拭き取ったのだろう。
跡が見えなかった。
夕食を食べた後、九条が食べた後の皿洗いくらいさせてと言われた。
俺の魚飯は絶品だったと感想を貰った。手持ちになにもないからお礼させてくれと。
俺は渋ったのだが今回は彼女の押しが強く、お願いしてしまった。
案外、頑固なのかのしれない。
彼女に洗い物を任せている間、俺はリビングで買ったばかりのコンポを携帯から繋ぎ縦乗りの曲を
流しながら考えていた。
(和人のパパに言った方がいいんだろうか…)
和人の父さんは県警のお偉いさんだ、俺も詳し事はわからないけどおじちゃんは警察だから
困った事があったら言えよ。なんて言ってたっけ去年。
まさに今困っている。九条は十中八九あの男に虐待を受けている。
九条をだき抱えて走った時、彼女が着ていたカットソーか見え隠れしていた
鎖骨付近のあざ、さっきは食器洗いの時、俺がキッチン部屋から出る際、彼女は俺にバレないよう
腕まくりした時にバッチリ濃いあざ、切り傷を見てしまった。
自傷癖でもあれは不自然だ。
多分だがあの男は九条の本当の親では無いだろう。希望的観測
あんな奴が九条の親ってのを生理的に否定しているからである。
(まじあの時っぷっつん来そうだったわ)
自分の娘にメスブタとか意味わからんだろ。ましてや養子だったとしても…
あれじゃまるで……
ガチャッ
「あの…」
考え事の途中、キッチンの扉が開いて九条が頭をひょっこり覗かせた。
「ん?どした?おわったか?」
「はい…終わったんですが…少しお話しを良いですか?」
「あーいいよ洗い物ありがとう。それじゃ聞こうか」
「はい……あの、ボカロ好きなんですか?」
「うん?…あー、ボカロね好きだよ。今かかってる縦乗りのやつとか‥」
「なるほど、私その…この曲しか知らなくて…」
そう言って彼女はミニ音楽プレーヤーを取り出して見せた。そのディスプレイに映る一曲を
見て俺の心臓がいつもより大きく鼓動した気がした。モヤモヤしたままってのも悪いし…
ええぇい!ままよ!
「…ごめんな、実はさっき九条さんがこの曲かけている時聴いてて…」
と申し訳なさそうに答えた
九条はこれでもかってくらい目を見開き驚いてる…お目目くりっくりだなぁ
「……夏目くん」
「はい」
喋ると同時俯いた九条の抑揚のない声…何故だろ、すがるような感情が見え隠れしているように感じた。
そんな俺は姿勢をただして、返事を待つ。
「…た……けて…さぃ」
俯いた彼女の頬から一筋の涙が流れてれいた。
俺は黙って聞いていた。そしていつからだろうか俺が彼女の手を
握っていたのわ…
「……」
「た…すけ…く…ぃ」
「…あぁ…」
「…たすけて…下さい…もう誰も…頼れなくて…」
「うん」
「おじさんから虐待され…てること…誰にも言えなくて…」
「うん…」
「お父さんも…お母さん…ももういなくて…きつくて…」
「…頑張ったな」
「うん…わた…し頑張った…よ?なんで…なんで?お母さんおとうさ…ん
居なくなっちゃたのよお…うぅ…」
『ごめんね』
あれ?今のなんだ?
俺が喋ったよな?
そのあと九条は夜中まで泣き続けた、俺は九条の漏らす言葉を全て肯定し続けた。
お前は決して悪くないよと。