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9、ウィンター様


「ケイト様お迎えにあがりました。」


「その言葉の意味が分かりません。」


「だから姉さんは王都に戻るんです。」


「だから仰っている意味が分かりません。」


「うっ僕にそんな他人行儀な口調で話すなんて。ショックで腰が抜けてしまった。ああ、姉さん。男の格好も愛らしいお姿。とても似合っているホランドとお揃いなのが許せないですが。ああ、姉さん帰りましょうそして僕と一緒に仲良く暮らしましょう。」


「ケイト様少し話せる場所に移動しましょうか。」


ウィンター様がタイムと2人で泊まっているというホテルに私とホランドを案内してくれる。さすが王子、最高級のホテルのスイートルームだ。だけど連れ戻すのに何故この2人が?しかも何故今更?1週間程経って?潰す?


「単刀直入に言います。ケイト様戻ってきてください。」


「だから何故?嫌です契約書があるし。」


そう言って首を振った。


「姉さん!僕と一緒に戻りましょう!ホランドは消えろ!」


タイムは本当にぶれないな。ホランドは真顔でタイムを見ている。頼むから怒らないでホランド。その拳はふり下ろさないで。


「まあまあ、うちの薄らバカの兄も反省していますし。」


「いえいえ、反省なんてとんでもない。王子のお眼鏡にかなわなかった自分を恥じています。ですからサマー王子は彼女とお幸せに。」


とおいおいと泣くふりをする。


「ケイト様あのバカが貴女以外の女性と結婚したら国は瞬時に崩壊します。お分かりですよね?あんなんでも第一王子です。」


ウィンター様は笑顔で圧力をかけてくる。嫌だ絶対に帰りたくない。それに自分の兄をバカって。まあ確かにウィンター様は文武両道で優秀なお方だけども。

ぐぬぬどうする私。いっその事ここに居る全員力づくでどうにか。いけるウィンター様とタイムなら勝てる。いやまあもう少し口論を続けましょうか。


「私はもう戻りません。あの王子はあの可愛らしい女性と結婚するのですから!」


そう!契約書もあるしね!


「ふむ、困りましたね。ではあのバカとは結婚したくないと。だから戻らないと。」


「ええ!」


うーんとウィンター様が腕を組み悩ましげに首を傾げた。なんだか胡散臭い演技をしているな。何を企んでいる?

サマー王子と同じ金色の髪が揺れる。ウィンター様はサマー王子と違っていつも兵士らしく短く切り揃えられているが今日は珍しく前髪が目にかかっている。その奥でいつもの垂れ目が笑っているように見えるが。本当に悩んでいるのか?


「姉さん!わがまま言わないでください。僕と一緒に暮らすんです!誰とも結婚させませんから!ねっ!」


タイムはいつの間にか私の足に縋り付き泣いている。顔も良いし背も高く程よく筋肉もついていて見た目だけだと、とてもいい男なのに本当に残念な弟だ。

タイムの涙でズボンがぐしょぐしょになりそうだ。仕方なく優しくタイムの黒い髪を撫でてやる。少しだけ泣いているのがおさまり私の手を優しく握り摩り出した。


「そうですねぇ。うーんじゃあ。そうだ!」


ウィンター様が左手の手の平に右手の拳をポンっとうち閃いたという体で話す。とてもにこやかだ。


「じゃあ私と結婚しましょう!」


ウィンター様が瞳をキラキラとさせて私に向かって頷いた。その場に居た全員がはあ?と叫ぶ。

いや何で?ていうかはあ?


「うるさいなぁ。王から言われたんです。どうしてもケイト様に王室に入ってほしいと、もしサマーと結婚するのが嫌ならウィンターと結婚するのはどうだろうと。」


誰よりも早く行動を起こしたのはタイムだ。ウィンター様の胸ぐらを乱暴に掴んだので近衛兵の制服のボタンが飛んでいった。何故、私の人生を他人に決められなくてはいけないのだろうそれが嫌で家を出て名前を捨てたのに。


「お前何言ってくれてんの?姉さんは僕と一緒に住む。永遠に2人で一緒にいるんだよボケが。お前みたいなチビに姉さんは勿体ないだろうが。消すぞ。」


「黙れ不敬罪で絞首刑にするぞ。俺は王子だしその前にお前の上官だ忘れたのか無礼者。」


ウィンター様が負けじとタイムを睨み付ける。確かにウィンター様に歯向かう事は家にも関わってくる。王室に歯向かう事になるし。


「うるせえなそんな事どうでもいいよ、ここでお前を殺せば何も残んねーよ。そうだろチビが。今すぐにさっきのお話を撤回したら許してやるからほら言え!」


弟よ彼は王子だぞ。なんて事を言うんだ。それにチビじゃないぞ私より大きいし本当に失礼だぞ、瞳孔が開いてて怖いぞ。でも考え方が私と一緒、大好きだぞ弟のそういう所。でも一応フォローはしないとね。


「タイム口を慎みなさい。相手は王子様ですよ。」


「姉さん!だって!」


「だってじゃありません。とにかく私は王都には戻りません。」


「うーん弱ったなぁ。戻ってきてもらわないと…。」


何?怖いんだけど。ウィンター様ってこんな人だっけ?いつも王の後ろでニコニコしていたイメージしかない。


「本当は王に薬を盛ってでも捕まえて来いと言われているんですが。そんな可哀想な事ケイト様にはできません。でも連れて帰らなかったら私とタイムはどんな罰を受ける事やら。それにケイト様のご家族もきっと何かしらの…。」


ウィンター様が胸ぐらを掴まれたまま肩を落とす。タイムは怒りからかウィンター様を掴んでいる手にますます力が入っている。ホランドが私の前に立つ。


「それは脅しですか?ウィンター様。」


「おやおやこれは珍しい、第一隊の次期隊長となるホランドさんが、あの感情を表に出さない冷静沈着な方が怖い顔ですねぇ。」


「ホランド大丈夫、ありがとう。」


私は座ったままホランドの手を握る。握り締めた拳を包むようにすると少しだけ強ばりがほぐれた。


「ケイト、俺はお前を守る為にいるんだ。どんな時だって盾になってやる。」


ホランドが振り向き跪く。旅を初めてからは見せなかったホランドが近衛兵の時私を王子の婚約者として見る目に戻っていて涙が出そうになってホランドを抱き締めた。


「ホランド。」


ホランドが優しく背中をさすってくれる。


「ケイト様1つ妥協案があります。聞いていただけますか?」


先程とは違うウィンター様の穏やかな声にタイムが手を離した。私もホランドから離れウィンター様を見上げる。


「1週間後王都で舞踏会があります。そこへ秘書として一緒に出ていただけますか?舞踏会には不慣れで王に踊らなくていいから顔を売ってこいと言われていまして。ケイト様にフォローをして欲しいのです。」


「フォロー?」


「ええ。あのサマーも結局はあなたのフォローがあったから貴族や王室の中で生きていけているだけであなたの手腕でやってこれたんです。だからその力をお貸しください。」


「それで終わりですか?」


「ええ、タイムは知りませんが私はそれで王を納得させます。」


「分かりました。じゃあこちらからも1つお願いがあります。転移門がありますよね?それを使わせてください。」


「それ位はお易い御用です。」


「では帰りましょう姉さん!」


結局、1週間程で王都に戻ってきてしまった。とにかく早く終わらせよう。


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