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7、スキャン


ギルドに着くと中にいた職員の数名が驚きながらこちらへ走って来てくれる。ネルを抱えてソファに寝かせ、私のローブを洗浄の魔法で綺麗にしてくれた。


「良かったー名前も聞かずにEランクの冒険者出向かせたって後悔してたんすよぉ。無事に戻ってきてしかも1人助けて来てくれたなんて。ありがとうっす。多分ランク上がりますね。ってあれもう一人のでかいお兄さんは?」


最初に対応してくれたお兄さんが他の人と話していたのをわざわざ中断してこちらに来て話しかけてくれる。


「1人じゃないですよ僕を含めて6人です。ホランドさんは他の者を治療してくれてます。取り急ぎ中の状況と何故全員が無様に捕まったかお話します。」


職員さんが出してくれた薬を飲んでネルは調子が良くなったようで顔色もいい。そして中での出来事をスラスラと話し始めた。


「そうだ話す前に1つ質問しますね、ゼロさん達はスキャンという魔法を使いましたか?」


「いや、私は魔法を使えないしホランドも治療の魔法しか使えないからスキャンというものの存在すら知らないですね。」


「そうですか。僕達冒険者は洞窟で宝を見つけたりという依頼があるんですよ。そういう時にスキャンを使うとその洞窟の構造や魔物の居場所、数、宝の在り処全てが分かるんです。100%確実に今日までは。」


「今日までという事は。」


「ええ、今までスキャンが正しくなかった事など1度もなかったのに。ゼロさん僕達の居た3階に魔物は存在しなかったんですよ。スキャンの魔法ではね。でも実際は。」


「30体以上倒しましたよ。」


「ええ、魔物に騙されました。そんな高い知能を持った魔物は存在しなかったのに。僕達はスキャンをして3階に何も存在しないと思い込んで1人ずつ後方に居た者から部屋に連れ込まれた。でもスキャンを使わないあなた達2人は1部屋ずつ目視で確認していった。魔物の方も絶対に冒険者がスキャンをすると鷹を括っていたのでしょう。多分スキャンを感知できる魔物がいるはずです。この情報を皆に伝えてください。これからは今までの戦い方では上手くいかない事が起こるかもしれません。」


ネルは俯き震えながら自分の右手を左手で強く握っている。暗い中魔物に毒を浴びせ続けられ今までの戦い方を覆されたら誰でもこうなるだろう。可哀想に。泣いているのかもしれないネルの赤い髪が微かに揺れている。


「って事はスキャンはもう用無しですね。魔物に欺かれる以上罠にかかりやすくなるし。じゃあネルさんは3階止まりって事っすね?」


他の職員や冒険者がゾッとした顔をしている中、お兄さんは特段気にした様子もなくハキハキと現状を把握しようとしている。この人口調とは裏腹にとても仕事ができる人のようだ。


「はい、一緒に行ったDランクの3組は3階止まりです。なのでCランクの2組とBランクの2組の計8人はどうなっているのか分かりません。すみません彼等を助けに行ったのに。」


ネルは深く頭を下げた。あのホテルの中にまだ8人も取り残されているのか。職員さんが慌ただしくギルドの入口に向かったので何事かと振り返るとホランドと残りの冒険者が戻ってきた。ホランドの治療がとても効いたのだろうネルよりも顔色がよく歩いてもフラフラとしていない。


「彼らも?まじかすごいね。本当にありがとう助かったっす。彼等が無事で本当に良かったっす。はーいじゃあみんなー彼等治療と回復次第、大至急話を聞いてまとめていってー!」


お兄さんは対応している職員さんに声をかけた。ホランドが治療した後なのですぐに話を聞けるだろう。


「君が治療してくれた?皆意識が割とハッキリしてるからすぐに話を聞けるよ!本当にありがとう!」


そういうとお兄さんは他の職員と共に話を聞き回っている。


「ホランドまだあのホテルに8人残っているらしい。」


「8人か多いな。」


ホランドがローブを脱いだ。焦げ茶色の髪が埃や煤で少し汚れている。ネルは相棒と抱き合っている。あの相棒がスキャンを使ったんだろう。

奥で資料を見ていた女性の職員さんがこちらに来てランクの話とこれからの対応について話し始めた。


「ゼロさんとホランドさんはCランクに上がりました。とにかくAランクの冒険者が2日後には戻りますそれまでは待機です。いいですか?」


「はい。分かりました。」


「ではお願いしますね。」


私とホランドは頷きギルドを後にした。ギルドが運営している宿舎に行き食事をとって眠りにつき、私は人目を盗んで日の出とともにホテルにやってきた。


「昨日はああ言ったけど、これ以上はきっともたない。早く助けないと。」


毒の魔物だと分かったのでとにかく毒の治療薬を袋にたくさん入れてきた。後8人何としてでも助けないと。


「ケイト!お前は馬鹿か!」


ホランドだ。寝ている間に黙って出てきたのにもう気付いてしまったのか。


「君は酷い奴だな。馬鹿だなんて。」


「昨日待機しろと言われただろうが!」


いつもより語気が荒い。


「ホランド昨日の人達を見ただろう。早く助けないと手遅れになる。それに私が見捨てたせいで誰かが死んでしまったら寝覚めが悪いじゃないか。」


少し笑ってホランドに言う。ホランドは止まったまま動かないので無視してホテルに入る。今日は真っ直ぐ4階に上がろう。なるべく明かりを確保しつつ1部屋ずつ部屋を確認していく。


「お前は本当に!」


後ろから叫ぶ声がしてホランドが追いかけてくる。この幼なじみは本当に私に甘い。結局いつも私のやり方に合わせてくれるのだから。

3階を制圧したおかげで4階はもう窓の場所が分かっているので部屋に入る前に廊下の窓の木材を外して光をいれる。これで廊下は大丈夫だろう。ネルの言った通りスキャンに反応するのか廊下を歩き回っても何も現れない。

そして昨日と同様にドアを蹴破り乗り込んだ。真っ暗な部屋に魔物はおらず息苦しそうな呼吸音だけが聞こえる。


「ヒュー、うぅ、ぅあ、ぁあ、ヒュー。」


「ホランド人がいるぞ!魔物はいない!」


4階の全室を見て回ったが冒険者が5人いただけで魔物は1匹もいなかった。しかし昨日の冒険者と比べて毒が酷く皆息も絶え絶えで顔色も真っ青になっている。


「ホランド薬をたくさん持ってきてある。これを使って治療をしてあげてくれ。私は5階に行く。」


「ダメだ!お前に何かあったら!」


「ホランド私は絶対に死なないよ。君と湖を見るのだからねそれにクチナシでオムライスも食べないと。彼らを見ろ昨日置いて帰った分、毒の被害が酷い。早く上階の冒険者助けた方がいい。」


「お前は本当に言う事を聞かないな!ある程度治療をしたら俺もすぐにあがる!昨日ネルが言っていたが5階は唯一スキャンで魔物がいると反応していたらしい。気を付けろよ!」


「ああ。」


なるべく音を立てないように階段を上がり窓の木材を外した。5階はスイートルーム1部屋と普通の客室が6部屋。絶対に怪しいのはスイートルームなのでとりあえず先に客室を開けて木材を外して明かりを確保しよう。


1部屋目から居た二足歩行で赤い皮膚の牛の魔物だ。他には何もいないが、昨日の球体の魔物とは違い明らかに強そうだがやり方は変わらない。ドアを蹴破り襲いかかってきたら倒す逃げるならそのまま見逃す。唾を飲み込みドアを蹴破り剣を構えた。一瞬驚き襲いかかってきたのでそのまま蹴っ飛ばし薙ぎ払った。切った瞬間にサラサラと砂に変わった。初めての出来事だが気にせず窓の木材を外す外からの光で部屋の中がよく見えるようになった。この部屋に冒険者はいないようだ。


そして残り5部屋もそれぞれ魔物がいるだけで残りの冒険者は誰もいなかった。という事は3人はスイートルームいるのか。

6部屋からの光で明るくなった廊下に戻る。スイートルームの前は一段と暗いが他にドアもないのでここから入るしかない。ゆっくりとドアを開けると3つのドアがある空間だった。確かスイートルームはキングサイズのベッドが置かれた寝室と広く景色のいいリビングルームにバスルームだったはず。


手前のドアをゆっくりと開けるとバスルームだった。中は毒ガスのようなものが充満している奥の浴槽の中に冒険者を見つけたので慌てて抱き上げ廊下に寝かせて薬を飲ませる。20代位の男性で筋肉がありがっしりしているので戦士かもしれない体力があるから何とか毒に耐えていたのだろう。彼の容態も気がかりだが光の当たる場所に寝かせたし何より残りの2人が心配だ。


中に戻り2つめのドアを開けると寝室で中には女性が居た魔法使いの格好をして椅子に縄で縛られている。ここにも魔物がいないので女性には悪いが先に木材を外し明かりを確保した。椅子の縄は普通の縄ではなく魔力を奪う物のようだ。私は魔法を使えないし触れても関係ないが。ナイフで縄を全て切って女性を担ぐ戦士よりは軽いので楽だ。彼女は毒に侵されているわけではなさそうだが魔力を回復させる薬を持ってきていないので戦士の横に寝かせておくしかない。


「リビングルームきっとスキャンにうつった魔物が。」


ゆっくりとドアを開ける。リビングルームは闇そのものだった。ドアを開けたから私の背後から光が射すはずなのに闇に光がのまれていく。


「ほう、来たか。次は誰だ?」


闇から声がして声の方向を見るけど何も無い。暗闇しかない。


「返事も出来ぬか人間めこいつを助けにきたんだろう。」


ドサッという音がして私の目の前に人が現れた。意識がないローブを被った人だ。それ以上は分からない。


「そうです。ここに入った冒険者を助けに来ました。」


「ふふ、震えておるな。怖いか?暗闇は恐ろしい?」


何故膝が、声が震えるのかは分からない。だけど震えがおさまらない。深呼吸をしてよく目をこらす。落ち着け今この人を助ける事ができるのは私しかいない。考えろ何か良い案がないか。ローブや袋を探るとマッチに手が当たった。うん仕方ないよね。うん仕方ない。マッチをする。


「そんな小さき火で何ができる?笑わせるな人間!」


「ええ、そうね。小さい火は大きくしなくちゃね。」


そして窓の木材に火をつけた。少しずつ燃え広がり始める。もう一度マッチをすってさっきつけた逆側の木材にも火をつけた。こちらはよく燃える。

このリビングルームは景色を見るために壁のほとんどが大きな窓になっているので壁中が木材なのだ。だからそこに火をつけようと考えた。ゆっくりと確実に燃え始めた。


「えっ。」


「もう暗いの面倒臭い。」


「人間ってこんな事する?普通その前の人間を助けようとして罠にかかって食われるだろ。火をつけて明るくするって。はぁ?」


「いや、暗いし姿を見せないならこうするしか。もうどうでもいいしこのホテルなんて焼け落ちてしまえばいい。」


「はっ?」


「まあまあ。」


「はっ?」


ようやく窓の木材が燃え落ち外からの光が射した。魔物の全容は分からないがどうやら大きな蛇のようだ。蛇が人の言葉を。すごいな。だが姿が見えればこちらのものだ。素早く部屋に入り唖然としている魔物を斬る。1度2度と切ったところで悲鳴をあげてその後砂になってしまった。


「とまずいな。火を消す方法を考えてなかった。」


木材が湿っているのか火の回りが遅いので急いでローブを脱ぎバタバタと火を消す。何とか消火できた。必死に汗をかきながら消火を終えた時にやっとホランドが現れた。


「なんだこの状況は。外の2人とそこの1人で全員か。とりあえず5人は外に運んだ。3人に治療の魔法をかけよう。薬は使い切った。というかなんだこの部屋は火事があったのか?」


「さあ?」


「それにしてもお前に汗をかかせるほどの敵がいたのか。すまないやはり一緒に行くべきだった。」


本当の事を言えば絶対に怒られるので黙っておこう。ホランドが心配そうに私を見ながら3人に魔法をつかう。だが3人は全く目を覚まさないので私が戦士を抱えホランドが魔法使いとローブを着た人を抱えギルドに向かった。




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