6、廃ホテル
フランのギルドは赤いレンガ造りの建物でまだできてそれ程日が経っていないようだった。受付はAランク~Eランクと別枠のSランク、それぞれ人がいて私とホランドは1番下位のランクのEランクなので担当の人に話しかけた。
「すみません。何か依頼はありませんか?」
「ああーせっかく来ていただいたのにすみません。今大変な事が起こってて個別に対応できないんすよぉ。」
お兄さんが困り顔で話す。そういえば中はザワザワとしている。活気があるだけかと思っていたが違うらしい。
「どうしたんですか?」
「ああーまあEランクの人に言ってもだけど、わらにも縋りたいし。あのねここから少し先に廃墟になったホテルがあるんだけど、中に魔物が住み着いちゃったらしいんだよ。倒しても倒してボスがいる限り魔物を生み出しちゃって。中々倒せなくてねぇ。しかもフランにいつもいるAランク以上の人達は出張中なんだよ。で色んなランクの人が結構たくさん行ってくれてるんだけどなかなか帰って来なくて。」
「では、私達もそちらへ行ってみましょうか?」
「良いんですか?ありがとう!でもEランクですから中には入らず様子だけ伺って来てください。これが地図です。」
と地図を渡される。他の職員もなんだか慌ただしく動き回っている。お兄さんも地図をくれた後すぐに奥の部屋へ行ってしまった。
「ホランド行こう!」
「ああ。」
ホテルはギルドの割とすぐ近くだった。何故自分達で見に来ないのだろうか?5階建てのホテルでそんなに大きくはない廃墟と言う程壊れている様子も無い。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ホテルの中から男の叫び声が聞こえた。
「なんだ今の声は?」
「ホテルの中からだな。ゼロとりあえず1度ギルドに戻ろう。外には誰もいない。」
「いや、私は中に入る。助けなければ。」
「おい!ダメだ待て!」
ホランドの制止を無視してホテルに入った。玄関は2階まで吹き抜けでエレベーター横の案内には1階にフロントとレストラン、2階はカフェと宴会場と浴場、3階から5階までが客室で5階にスイートルームがあるらしい。まだ昼過ぎなので明るいが夜になると真っ暗になるだろう。早く終わらせないと。
「おい、ゼロいい加減にしろ。全く言うことを聞かないな。」
珍しく怒っているホランドを無視してレストランの扉を開ける。誰もいないようだ。さすがに1階にはいないか明るいしな。
「おい、誰かいないか?」
「いないようだ。音がしない。」
「ああ、そうだな。ホランド2階に行こう。」
レストランの奥も2人で見回ったが魔物も人もいなかった。フロントの脇にある階段で2階にあがった。階段をあがるとカフェでさんさんと太陽の光が射し、またしても誰もいなかった。
魔物は太陽の光が嫌いだしここにはいないだろう。辺りを見回ったけど人の気配も魔物の気配もない。という事は3階か。
3階にあがると廊下は暗く明らかに1階、2階とは雰囲気が違う。目が暗さになれないが案内を思い出しどうなっているのか確認する。多分廊下を真っ直ぐに進むと4階にあがる階段があるはずだがそこまで行くのに客室が両脇に7部屋ずつある。全ての部屋を開けて明かりを確保したい。
「おい、気を付けろ。魔物は暗い場所を好む。客室は14部屋、何体いるか分からないぞ。いつでも剣は抜けるようにしておけ。」
「分かった。とにかく明かりを確保しよう。」
「ああ、じゃあ客室の窓を全て開けよう。俺が木を外してやる。」
グリップを握る。久しぶりの戦いだ。焦らず少しずつ数を減らそう。何となく気配がたくさんあることは分かる。
まずは301の部屋のドアに手をかけた。ホランドが後ろで待機する。ゆっくりと音を立てずに少しだけ開き中を覗くと球体の魔物がワラワラと何かの周りにいる。やっと暗さになれ目を凝らすとその何かは人のようだ。フサフサと毛が生え少し浮いている直径20センチ位の魔物の群れ10匹以上はいるだろうそしてその中にいる人。部屋の中はこんな感じか。
王子の刺客は何度も倒してきたけど、魔物倒すのは初めてで少し緊張していたけど、今にもうずくまった人を食べようと口を開けている姿を見て様々な感情は消え、ただ倒すという感情だけになった。
「ホランド行くぞ。」
「ああ。」
ドアをバタンと勢いよく蹴り開け中に入る。魔物は驚いた様子でこちらを見た。逃げるのなら見逃そうと思ったけど向かってきたので仕方なく斬った。血がかかり気付く毒性があるホランドは毒の耐性がないから私が庇わないと。
「ホランドこの魔物の血は毒だ気を付けろ。目や口に入らないようにしろ。」
「分かった。」
私は率先して敵の群れの中に入り1体また1体と斬り続け気付くと最後の1体だった。そいつがうずくまる人を食べようとしたので素早く斬り捨てた。
「なんだあいつは。」
「魔物の中には人の血で強くなるものもある。それに期待したんだろう。それより突っ込んでいくな!怪我をしたらどうするんだ。」
「大丈夫だ。血まみれだが私の血はない。それに私は毒の耐性がある。ホランドが毒を浴びるのが心配だったんだ。血に触れるなよ。」
「はぁ、本当にお前は。とにかくこの部屋を明るくしよう。」
ホランドは手際よく窓に打ち付けてある木材を外していく。これでこの部屋には魔物は入ってこないだろう。客室は廃墟らしく窓に木材を打ち付けてありそのせいで余計に暗いようだ。客室からの明かりで発見して階段上の窓の木材も外してくれてた。廊下が明るくなったのでうずくまっていた人を引きずり出す。
「大丈夫ですか?助けに来ましたよ!」
うずくまっていた人はゆっくりと顔をあげた。まだ若い男の子だ。16歳位だろうか。
「怪我はない?あったらすぐに言ってくれ。」
「あ、あ、は、は、は。た、たす、助かった。明かりだ。ありがとう。まだ奥に相棒がいるんだ。お願いします助けてください。僕はDランクの冒険者ネルです。」
「分かった。とにかく外へ。」
「は、はひ。」
ネルはフラフラと覚束無い足取りで階段を降りて行った。まだまだ冒険者がいるようだ。
「ゼロ次開けるか?」
「ああ、もう蹴破ってくれ私がそのまま入る。」
「おい!…止めても無駄か。」
そして3階はほぼ全ての部屋に魔物が居て冒険者を5人助けたところで夕方になってしまった。
「ゼロさすがにここで終わりだ。もう暗くなる俺達は魔物を倒しにきたわけじゃないだろう。1度戻ろう。」
「仕方ないか、分かった。とりあえずホランドは魔法で治療を頼む。魔法は使えないが薬があるからこれも使ってくれ。ある程度治療しないと毒は辛いからな。」
「ああ。」
1階のソファでネルがよろよろと他の5人を治療しているようだった。毒の治療をしているようだ。
「大丈夫ですか?」
「おお、あなたは!ありがとう相棒は毒の治療をすれば大丈夫です。他の人もそれで大丈夫。」
「ホランド治療をしてあげて。」
「ああ。」
「えっとネルさんですよね。私は1度ギルドに戻って報告しますから休んでいてください。」
「いや僕も行きます。報告しないと。」
ネルが立ち上がるがやはりフラフラとしていて歩いていても危なそうだ。ローブを脱いでネルの腕を持つ。
「肩を貸そう。」
「ありがとう。」
ネルもギリギリだ。急いでギルドに向かおう。