5、自由
「やった。やったぞ!やっと自由だーー!」
王都からフランに繋がる道路に入った。無事に外に出る事ができたぞ!私は本当にお姫様ではなくなってこれから旅人として生きていける!これから何をしたっていいんだ!
「まだ王都から出ただけだけどな。」
ホランドが呆れた表情で私を見る。腹立つなこいつ。
「うるさいぞホランド。私はもうワクワクが止まらないんだ!今なら空も飛べる気がする。」
こんなにワクワクするのは何年ぶりだろう。いつも周りを気にして何も出来なかったからな。もう跳んだり走ったりしても誰にも怒られない。
「お前に魔法使いの能力はないから無理だ。」
こいつさっきから私の気持ちを下げにくるな。
「おい、ホランドさっきからなんだ。ぶっ飛ばされたいのか?」
私は拳をつくった。久しぶりにやってやろうか。
「やめてください。」
「ああ、分かればいいんだよ。」
「はい。」
「と、その前に最終確認だ本当についてきて良かったのか?ホランドは次期兵長だったんだろう?しかも第1隊のだ。本当にいいのか?私は髪を切った時に腹を括った君は本当にいいのか?今なら引き返せる。」
ホランドの人生までめちゃくちゃにする権利はない。だけどホランドはいつもと変わらぬ表情で言った。
「俺の人生はこれからもずっとお前の為にあるだからお前の傍に居る。それだけだ。」
「ホランドはそればっかりだ。分かったもう二度と言わないよ。じゃあ一緒に行こう。」
上手く誤魔化せただろうか?きっと表情には出ていないと思うけど、危うく勘違いするところだった。ホランドは正義感から言ってくれているだけだうんうん。
フランへの道中、旅人の宿兼食堂があったので休憩がてら入った。中には若く明るい女性が座っていた。客が誰もおらず暇だったようだ。私達が入るとすっと立ち上がり今まで読んでいた雑誌を隠し席に案内してくれる。
「こちらのオススメはなんですか?」
女性の店員さんは笑顔で元気にプリンアラモードです!と言い切った。纏められた長い髪が話す度に揺れる。
「じゃあそれにします。後紅茶を。ホランドは?」
「じゃあ俺はコーヒーとうーん。甘くないのだとオススメは?」
「そうですね。リゾット?いやカツサンド?ビーフステーキ?クラブハウスサンド?」
急に不安そうに話し始める。なんだか美味しいものが多いようだ。それなのに不安そうなのが可愛らしく可笑しい。
「じゃあカツサンドで。」
「はい。かしこまりました。」
女性の店員さんは奥に入っていった。奥にキッチンがあるようだ。ホランドは窓の外の花畑を眺めている。
「綺麗だね。」
私が話しかけるとホランドは少し驚き私を見た。
「ああ、綺麗だ。」
「なんだよその顔は。」
「ああ、悪い。なんだか信じられなくて。未だに隣にいることが信じられない。」
「ふふっホランドは大袈裟だなぁ。」
珍しく微笑むホランドの笑顔に私もつられて笑う。
「ああ、そうだ。俺達どういう関係か話を詰めておいた方がいいんじゃないか?」
「ああ、そうだな。でもまあ兄弟が無難だろう。」
「そうだな、俺が兄貴でお前は弟だな。」
「悔しいがそうだな。私はゼロ名前を間違えないように。」
「分かっている。」
「じゃあこれからは兄さんの方がいいかな?」
「別に名前で呼び合う兄弟もいるだろう。ホランドのままでいい。」
「分かったありがとう。」
ホランドは花畑を見ながら話す。黄色い花が咲く花畑だ。風に揺れる花を見ながら先に出してくれた紅茶を一口飲んだ。こんなゆったりとした一時は久しぶりだ。ホランドの言う通り私だってここにいられる事が信じられない。絶対に父上に連れ戻されると思っていたのに。
「お待たせ致しました。こちらがプリンアラモードで、はいこちらカツサンドです。ごゆっくりどうぞ。」
「ええ、ありがとう。」
まさかこんなに大きなプリンアラモードが出てくるとは思わなかった。直径20センチはあるだろう少し深めのボウルにたっぷりとシリアルと生クリーム、バニラアイスにチョコアイス、そしてとても大きなバケツプリン。
「ホランドこれはすごいな。あまり街に行かない内にこんな事になっていたとは。」
「いやここが特殊だ。俺のカツサンドも本位ある。」
「ふふ、ははは。可笑しいな。」
「ああ、そうだな。」
「「いただきます。」」
ホランドはカツサンドにかぶりついた。私もプリンを掬って口に運ぶ。
「美味しい。」
「美味いな。」
「これはこれはまずいな、全て食べ切ってしまうぞ。」
「いいよ食べろ。今まで我慢してきた分食べればいい。」
「ああ、そうしよう!」
「「ご馳走様でした。」」
何とか食べ切ったけどさすがにはち切れそうだ。奥からニコニコと先程に女性の店員さんが出てきた。
「ありがとうございました。旅人さんはフランへ?」
「ええ、そうです。兄と旅人ギルドに入っていて。」
「そうですか。フランにはとっても美味しい洋食屋があるんですよ!クチナシって言うんですけど!そこのオムライスは、ああーもう美味しいです!ああー食べたい!」
女性が涎をふく演技をしながら言う。明るい女性だ。そういえばホランドはどういう女性が好みなのだろうか?いつも同じ表情だし聞いたことも無い。ふとホランドを見ると笑顔で話を聞いていた。ほうほうこういう女性がいいのかね。残念だが奥にいるキッチンの方が旦那さんだよ若人。
「クチナシですね。是非行ってみますね。」
「ええ、オムライスは本当に本当に美味しいです!」
「ふふ、分かりました。」
お会計を済ませて店を後にした。ちなみにホランドが私の分も払ってくれた。ははははは。
フランへはそこから1時間もせずに入る事ができた。フランは古い建物が残っている。店先やテラスに出ている家具もロココ調の物ばかりだ。
まずはギルドを目指した。