4、悪夢
お城のボールルームにたくさんの人達がいる。王子もその中にいて誰かと話をしているようだ。普通は舞踏会に1人で来ることなど有り得ないがあの王子が相手だとそうもいかない。絶対に迎えに来ないし、行かなければ後で何を言われるか。仕方なく1人で来たがもう何か問題を起こしているようだ。
「王子どうされました?」
「なんだケイトか。」
なんだとはなんだ!というか王子の前にいるのはダン将軍だ。寄りにもよって。
「ダン将軍お目にかかれて光栄です。」
「ふん!女の分際で話しかけてくるな!」
すみませんね!でも私が名前を呼んだおかげで王子も名前を思い出したようで親しげに将軍に話しかけた。
「ダン将軍すみません私の婚約者は不出来でして。さああちらで飲みましょう。」
「はっ、これだから女は!」
ダン将軍は私の父上より年齢が上の軍のトップの人物だ。機嫌を損なえばクーデターを起こしかねない。それなのにあの王子名前を忘れやがって。
「ケイト早く来い!」
「はい。」
重いドレスを着てヒールを履いた私に早く来いというあれが婚約者かと思うとゾッとする。とにかく急いで王子の元へ向かうとグラスを差し出された。
「いつもの通り毒味をしてくれ。」
王子がそう言ってグラスを寄越した。いつもの事だと一口飲む、喉に燃えるような衝撃が走る。嘘だろ毒が入っている。
「かはっ、王子毒です。」
「なんだと!よくやったすぐに治療師を呼ぼう。将軍我々は他の酒にしましょう。」
待って待ってください王子!声も出せず王子と将軍は私を置いてどこかに行ってしまった。
そこでぱっと目が覚めた。ここはホランドの家お城じゃない。まだ夜はあけていないが目が冴えてしまったので着替えて庭に出て剣の素振りを始めた。
あの時すぐに治療してもらったけど毒が抜けるまで3日は寝込み続けた。何度も何度も毒味をさせられるので毒に耐性がついたのには笑いが込み上げた。
「まあいいか毒耐性持ちってなんだかかっこいいし。」
私は嫌な記憶や悲しい出来事を振り払う為に何度も何度も剣を薙ぎ払った。
「ケイトもう起きていたのか早いな。」
「ホランド、お前は遅いぞ。見ろもう太陽があんなに高くあがっているだろう。」
「悪かったな。朝食を作ったから食べよう。それから出発だ。」
「分かった。」
ホランドの朝食は形容し難い程美味しいものだった。ふわふわのオムレツにカリカリのベーコン、マッシュポテトにキノコのポタージュ。
「ホランド君はどこで料理を習ったんだい?お金を出せるよ!」
「ありがとう、嬉しいよ。」
真顔で嬉しいと言われても全く嬉しい感じはしないがまあホランドこういう奴だし。
「君はすごいね。私は料理何て焼くかあげるかして塩をかけたら終わりだから。」
「それは料理とは言わないな。」
「うるさいぞホランド。」
朝食を作ってくれたお礼にと片付けをしているとホランドは私とはほぼ同じ服装で現れた。
「おい、君はもっと派手な格好にしろ。一緒に歩くと兄弟みたいになって恥ずかしい。」
「無茶を言うな。目立たない格好の方がいいだろうが。ほら行くぞ。とりあえず隣国のフランを目指そう。あそこは都会だしきっとギルドのクエストも多い。」
「はぁー。仕方ないか。じゃあ行こう。」
本当は昨日出発しているはずだったのに前途多難だ。
「タイム、昨日はすまなかった。うちの兄貴が。」
「うるせえチビ!今はそんな事を言ってる場合じゃない!」
「おい、俺はお前の上官だぞ!口を慎め!それにチビじゃないお前が無駄にでかいだけだ!」
「うるせえチービ、姉さんが出て行ったんだよ!これからどうやって生きていけばいいんだー!」
と叫び泣き出した。こいつ優秀なのにいつも姉さんが姉さんがと言っているから同級生の俺に先を越されたんだぞ?
タイムは周りを気にもせず泣いている。俺はあのボンクラ兄貴の為にここまで泣けないな。それにしてもケイト様は家を出てしまったのか。可哀想に。兄貴が嫌なら俺の妻に迎えても良かったのに。
「ほらタイム、そろそろ始まるぞ!」
「嫌だ!帰る!帰って録音してある姉さんの歌を流しながら姉さんコレクションのアルバムを見るんだ!」
「黙れ、早く来い!」
結局、タイムを引きずり整列させてやっと訓練を始める事ができた。
そういえば第1隊も騒がしい様子でなかなか訓練が始まっていなかったな。誰かが辞めたと叫んでいたが?