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36、居場所


「分かったな馬鹿共が!何が起こっても魔物に何を言われても僕のせいにするんだ!特にケイト。君は偽物の僕が魔物に取り入ろうとする時も全てが終わって君を連れ出して王都に戻ってくる時もいかなる時でも僕に抵抗しろ!絶対に仲間だと悟られるな!恨み憎め!後はもしも魔物達が村人達を取り返しに王都にきたらどうするか!」


「そうなれば近衛兵がお相手しますよ。総力戦です。」


ウィンター王子が剣を握る。なるべくそうはならない方向でお願いしたい。


「王都は聖職者が多いから常に清らかな土地だ。魔物はそう簡単には入ってこられない。」


王がサマー王子に言う。サマー王子はふんふんと頷き続ける。


「まあ魔物が来た時の為に僕の首を差し出すという話なのですが。これも上手くいくかどうか。とにかく村人達が帰って来たと連絡をする方法とケイトとウィンターが連絡を取り合う方法を考えないと。」


「手紙を飛ばす方法もあるが見られたらまずいし。」


父上が手から手紙をポンと出して言う。


「いやいっそバレてしまってもいい。僕が裏切る事は変わらないその事実をなるべく多くの魔物に知られている方が都合がいい。ゴードン様いっそ手紙を飛ばしましょう。僕を信頼してるとかケイトは何も知らないとか魔物の情報は得たのかとかケイトは王族の為に必要だから連れ帰れとか沢山。ウィンターは魔物の土地に連れていかれたら、着いたという連絡の手紙を送ってすぐに隠れろ。それを合図に手紙を飛ばし始めましょう。」


談話室にいる全員それぞれが意見を出している中変わらないのは私を絶対に取り戻そうとしてくれている事だ。皆、私を王都に帰す為に考えてくれている。私が自分の意思で戻ればどうなるか分からないでも無理やり戻されたなら、無理やり戻したサマー王子の命だけでどうにかできるかもと考えてくれているのだ。


…そう…そうだやっと落ち着いてきて分かった。ここにいる皆は私を…対価として差し出す私を思って。魔物相手に大博打を…サマー王子は自分の存在を犠牲にウィンター王子は命懸けで。だから父上もタイムも王も黙ってサマー王子の話を聞いている。


そんな価値が私にあるのだろうか?王族2人を犠牲にする程の価値が私に?幼馴染みを見捨て村人を助けられなかったただの宰相の娘の私に…そもそもその宰相と血も繋がっていない養女の私に。こんな事を言うのは卑屈で野暮だと分かっているけど、どうしても考えずにはいられない。

結局、話し合いが終わるまで私の中をこの考えがぐるぐるとまわり続けた。夜が深くなってきたので1度解散する事になった。とはいえ家には帰らず父上とタイムと私は城内の客室をあてられた。眠ろうかと準備をしていた時サマー王子がドアの向こうから声をかけてきた。


「ケイト開けなくていいから話を聞いてくれ。」


開けなくていいと言われても王子を立ったまま廊下にいさせるわけにはいかないので寝間着の上にローブを羽織ってドアを開ける。


「王子、如何なされました?どうぞ中へ。」


「開けなくとも良かったのに。すぐに終わるから少しだけすまない。」


そう言ってサマー王子が私に促されるまま椅子に座った。私が言うより先に断る。


「茶はいい本当にすぐに終わる。」


「はい承知しました。」


「父様に王に向いていないと言われた時、怒りで自分を見失いかけた。でもそんな時ふと君が大事な舞踏会や会食の前にとにかく情報を集めていた事を思い出した。それで自分でも何故か分からないがとにかく君の事を調べ始めた知ろうと思ったんだ。いい気持ちはしないだろうからとにかく手短にここに話をしに来る事になった理由を見せる。」


王子が机に数枚の書類を置いた。


「これはケイト名義の別荘の権利書だ。」


「えっ。どういう事ですか?サマー王子ですか?」


「違う。よく見ろこの土地、世間知らずの僕にはさっぱり分からない土地だが君なら分かるのでは?」


「土地?ここはあの……。」


ホランドと行った海の。まさかと思いハッとする。その表情を見て王子が頷き話す。


「ホランドだよ。不動産会社が言うには近衛兵の制服を着た男が夜遅くに訪ねてきて名前は名乗らず君の名前でその日、契約し全額現金一括で払った。これが日付だ。だがそれ以前も何度か来ていたらしい制服だったのはこの日が初めてだったようだが。ホランドの写真を確認してもらった。」


この日付け私が家を出てホランドの家に泊まった日。


「昔、第一隊にホランドと同期の奴が居て今は辞めて王都で貸本屋をやってる奴がいるんだ。そいつがホランドとした話を覚えていた。ホランドは趣味もなく同僚と飲みに行くことも無かった。そいつはホランドと同室でずっと不思議に思っててついに聞いた。金を何に使ってんだってそしたら全部貯金してるとホランドが答えた。それでそいつが馬鹿にしたんだ内容をはっきりとは覚えてないがひどく馬鹿にしたらしい。そしたらホランドが珍しくムキになって夢を叶えてやりたいんだって怒鳴った。後にも先にもホランドが声を荒らげたのはその時だけだったと話してくれた。」


「ホランド……。」


「泣くな…君を泣かせたかった訳ではない。明日そこへ行ってみるといい魔法の権利書は置いていくこれが鍵だ。」


と言い話は終わったという風に王子が席を立ったので私も席を立とうとすると王子が座ったままでいるように私を手で制した。扉の前で振り返り、


「ホランドは君を……。いやなんでもないおやすみ。」


と何か言いかけたがすぐに前を向き扉を閉めてしまった。

視線を戻しサマー王子が置いた権利書を見つめる。破いても燃やしても消えない魔法の契約書。

私の名前、ホランドの字、日付、全てが私をいっそう悲しませる。


「明日行こうすぐに。」





早朝まだ太陽が出きらない内に誰にも言わず城を出た。馬を走らせ完全に太陽が姿を見せた時に別荘に着いた。あの海の近く、プール付きの白い壁で空色の屋根のこじんまりとした別荘だった。

玄関のドアに鍵をさし回すとガチャリという音がしたのでゆっくりと扉を開けた。入るとそこは新しい家の匂いがしてその中に僅かに潮の匂いが混じる廊下で、その廊下には幾つか扉がある。手始めに目の前の奥の扉を開けるとリビングで、シンプルな白い壁紙には貝や珊瑚礁といったモチーフが淡く優しい色のピンクや水色で描かれている。家具も幾つかあるようで暖炉の横にソファらしき物があるのが目に入った。かかっている布を取ると砂浜の色の優しいベージュのソファで座ってみると目の前には海が見えた。朝日が海面にキラキラと反射していてホランドと一緒に見たあの日の海を思い出した。


「海が綺麗に見える。ホランドはここに座ったかしら?」


少しだけそのまま海を眺めた。その後、座ったままリビングを見回り立ち上がってリビングを出た。廊下に戻り残りの3つの扉を開けていく。1つはバスルームでそこからプールに出られるようだ。今は戻り2つめの扉を開けるとキッチンだった。


「料理ができないと知ってるくせに随分と立派なキッチンを選んだのね。」


くすくすと笑いながらコンロの前に立つと目の前の小さな丸い窓から海が見える。船の中のような丸い窓。また廊下に戻り最後の扉を開けると階段だった。ゆっくりと階段を上る。階段は明るい色の木材でできていて手すりも同じ色の木材だ。上りきって1番に目に入ったのは海。大きな窓だ。


「ここはベッドルームか。大きなベッドフレームね。」


2階はベッドルームと奥に小さなバスルームがありその横がクローゼットになっている。ベッドの足側は大きな窓で頭側は白い壁、右の壁の奥にバスルームと同じ広さのクローゼット、ベッドの左側に引き出しのついたサイドテーブル、ベッドの足元の方にスツールが置いてあってその上に手紙が置かれている。そっと手に取るが封筒には何も書かれていない。スツールに座り中から手紙を出すと私宛の手紙が入っていた。


「ホランドの字。ケイトへ…か。」


これをお前が読んでいるという事は俺は傍にいないという事。感想を聞けないのがとても残念だがここはどうだ?気に入った?お前の考えていた家に近ければいいんだが。ここがお前の居場所になればいいと切に願う。全てを失って傷付いて落ち込んでもここだけはお前を待ってくれているとそう考えてくれたら嬉しい。俺は肩肘張らずに好きに過ごせて安全で安心できる場所というのを作ってやりたいとずっと思っていた。だからここがそうなるようにお前の好きなように作っていけばいい。

最後に頼みがあるこれを読み終えたらサイドテーブルに入っているマッチを使ってこの手紙を燃やし二度と俺を思い出さないでくれ。お前にはずっと幸せでいて欲しい。俺の事は忘れて幸せに。さようなら。


「……ホランド…どうして?どうして…こんな事に?どこで道を間違えたの?私が…もっとちゃんとしてたら。」


手紙をそっと封筒に戻し大切に背中の袋に入れる。


「戻ろう城に。準備をしないと。」


しっかりと鍵を閉めて先程の手紙の中へしまう。馬に乗って急いで王都に戻った。



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