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35、望みのない話し合い


「父上!父上!」


もう夕方なので城から帰ってきていてもおかしくはない。家に入りとにかく叫びながら父上の部屋に向かう。


「あらもう帰ってきたの?」


最初に顔を見せたのは母上だった。


「父上は居ますか?」


「それが珍しく今日は残業してるわね。王の書類仕事がどうとかで。」


「分かりました。急ぐので一旦これで。」


と家を出た。母上が後ろで何か話しているが私には時間が無い。帰宅時間なので大通りは人が多くぶつかりながらも城を目指す。息も絶え絶えに門番に話しかけた。


「はぁはぁ、すみません…ゴードン…宰相ゴードンの娘です。父は居ますか?」


門番は明るい表情で答えてくれた。


「ああ!ケイト様ですね。いらっしゃいますよ!談話室です王と2人で仕事をされるとかで。」


私は息を整えてお礼を言い城内に入った。談話室まで急いで行くとちょうど部屋から父上が出てくる所だった。


「ケイト?どうした青い顔をして?何かあったのか?」


「はい父上お話があります。出来れば王にも聞いていただきたいです。」


と言い終えると王が扉から顔を出した。


「ケイト、入ってゴードンも。」


「はい。」


「だが先に茶を貰おう。お前の顔色が悪過ぎる。」


「そうだね。おーいサミ!」


「はい。」


サミと呼ばれるスーツを着た女性がどこからともなく現れた。


「忙しいところごめんね。お茶を持ってきて貰えるかな?」


「はいここに。」


と手にはティーセットがのっているお盆を持っている。


「ありがとう。」


ティーセットを王に渡すとまたどこからともなく消えてしまった。


「さあお待たせ入ろうか。」


王に促されるまま談話室に入り父上の隣へ。お茶を一口飲んでから私は全てを話した。2人がだんだんと悲しくてやりきれないという表情になっても涙でしゃっくりが止まらなくても構わずに全てを話した。全てを話し終えてまた一口お茶を飲んだ。何かのハーブティーなのか心が落ち着いていく。

静まりかえった談話室の重い空気の中、王が口を開いた。


「ゴードンやっぱり私のせいだ。あの時ちゃんと話を聞いていれば。それにそもそもケイトに毒味をさせてしまったのも私の責任だ。毒味なんてさせなかったらこんな事には。私が全てを見誤ったせいだ。」


「やめろ今となってはもう遅い。でもホランドの両親はホランドは病気で魔力が弱くなったと言っていた。それに見捨てたとは初耳だ。ホランドは自分の意思でケイトの傍にいると言い切ったと聞いていたが。その魔物嘘をついているのでは無いか?」


「分かりません。でもライムの元へ行けば村人達を返してくれるなら私は行きます。」


「でもそれも嘘かもしれないよ。村人達を失い今度はホランドまで。それなのに君まで失うわけにはいかないよ。」


「それでも村人達を救えなかったのは私のせいです!だから!」


「ケイト、王も少し落ち着こう。3日後の朝には答えを出さなきゃならない。ここにウィンター王子とタイムを呼んだ方がいい。あの2人は私達より情報を集めているきっと役に立つ。」


「ゴードン…そうだな。頭は多い方がいい。」


そして数分後緊急事態だと言われた2人は談話室にすぐに現れた。朝旅に出たはずの私の姿を見て驚いていた2人に王が私に代わって全て話してくれる。


「姉さんダメです!それだけは!」


タイムは案の定私に縋り首をふっている。対照的に王子は黙って考え込んでいる。


「とにかく私は行きます!」


私は立ち上がり宣言した。これだけはもう変わる事はない。


「ケイトそれは村人達の為か?それともホランドの為?」


父上が怖い顔で言う。どちらだろう私にも分からないけどホランドはきっとライムの元にいる。ちゃんと話さないと今度は逃げずに本心と向き合う。私が今までずっと色んな事から逃げてきた報いなのだから。


「どちらもです。私が責任をとらなければ。ホランドは私のせいで。」


「姉さん!騙されているだけならどうするのですか?」


「それでもいいのタイム。それでもホランドと話さなくちゃいけないの。」


「姉さん。やめてください。魔物の元へなんて…もう…一生帰る事ができないかもしれないんですよ!もう二度と会えないかも。そんな、姉さんが責任をとらなくちゃいけない程悪い事をしましたか?ねえ姉さん!」


タイムが泣きながら話す。そっと目を閉じタイムから顔を背ける。今タイムを見たらまた泣いてしまいそうだ。それに気付いてタイムが私を呼ぶ。


「姉さん!姉さん!僕をちゃんと見てください!」


「ええタイム。私が悪いの!」


腹を括りタイムをしっかり見つめる。泣いているタイムの頭を撫でてやるとますます泣き出してしまった。


「この温かさも失うなんて。僕もう生きていける気がしない。」


「タイムごめんなさい。でもそんな事を言わないで。」


じっとその様子を見て黙っていた王子が叫ぶ。


「私も行きます!」


「えっ?」


談話室に居た全員が驚き王子を見る。王子は毅然とした態度ではっきりともう一度言った。


「ケイト様と一緒に行きます!」


「何を言ってるのですか?」


「ケイト様、もう私の前では何も犠牲にしません。もうやめましょうもう充分です。ケイト様もホランドさんだって国の為に身を尽くしてくれた。ホランドさんがどこまで城や王家の情報を話してしまったかは分かりませんがそんな事で滅ぶ国ではありません!」


「王子。」


「それにホランドさんは近衛兵時代本当にこの国の為に働いてくれたんです。誰よりも前線に行き魔物や賊を倒し他の隊員を庇って怪我をしたり毒を被ったりとにかく周りの者の盾になっていた。私にはその行為が不思議でしたがようやく分かりました。魔物に情報を流しているからこそ他の隊員を必死に守ってくれたんですね。理由はどうあれホランドさんと一緒の任務では怪我人がいつも本当に少なかった。情報を流しているならありえないですよそれ以上にホランドさんが戦い守っていたそしてとても優しい人なんだと思います。」


「ウィンターそれでも。」


「父様、確かにホランドさんの罪は消えません。でも今までホランドさんが助けた数多くの命が存在する事も事実ですケイト様も含めてそれに私も何度もホランドさんに助けてもらっている。だから私もホランドさんを助けたいと思います。」


「王子。そんな事。」


できるはずがないのに。でもそれでもホランドの事をそんなふうに言ってくれる人がいて本当に良かった。私が今まで信じてきたホランドの全てを否定する事は私にはあまりにも辛かったから。


「だからケイト様もう泣かないでください。必ず何も犠牲にしないで済む方法を考えます。それにケイト様もホランドさんも充分失った。次は私が代わります。私が対価を払います。」


「ウィンター、君は本当に立派になったね。」


王が優しく微笑んだ。タイムも微笑む。


「ちょっと待ったー!全て聞かせてもらったー!」


急に扉がバタンと乱暴に開き中に入ってきたのはサマー王子だった。


「何だ!何が私のせいだっだ!はんっ馬鹿馬鹿しい!うるせえ!父様僕に説教たれた口はどこに行ったんですか!ああん!ウィンターお前もだ!それにケイトのいつもの悪知恵はどうした!舞踏会でいつも僕にあれしろこれしろと的確に言ってたじゃないか!今のお前の考えは本当に的確か!馬鹿ばっかりだな!」


いつもの長い髪を翻し颯爽と談話室の中心に入ってきたサマー王子が声を荒らげて怒鳴り散らす。皆ポカンと口を開き放心状態だのままだ。


「おい!よーく聞け馬鹿ども!約束の日ウィンターが僕のフリをしてそのライムとかいう馬鹿に取り入れ!いっそ城の図面でも持って渡せばいい!そして一緒に魔物の元へ行ってウィンターは魔物に探りをいれケイトはホランドと話せ!何が真実で何が嘘かしっかり話し合え!そして村人達が解放されたらウィンターはケイトを連れて戻って来い!そしてその道中サマーとして魔物に殺されたフリをしろ!その時点でサマー王子は死ぬ!こんなんでも第一王子だ魔物としてもその命で裏切りを償わせたと納得がいくだろう!王都に乗り込んでくるかは一か八かだ!」


「……。」


皆黙ってサマー王子のとんでもない作戦を聞いていた。


「だからこの作戦の為に僕は死ぬ!本当に死ぬわけじゃない表向きは魔物に探りを入れてその道中死んだという事にしてほしい。実際は顔を変えて城内で働くよ。村人達とケイトを助ける対価が僕の死だ。僕の死が対価として少なければ魔物が王都に乗り込んでくる。」


「でも…それじゃあ…一生サマーに戻れないよ?」


王がサマー王子に優しく問う。サマー王子も穏やかに答えた。


「サマーは死んで償います。ここにいる全員を傷付けそれに気付かず王子という肩書きを盾に皆を苦しめ挙句に罪を犯した。やっと気が付きました僕を見る瞳、誰一人として穏やかな者はいないあるのは敵意それだけです。それなのに未だにここにいる人達だけが穏やかな瞳で僕を見てくれる今それにやっと気付けた。だからケイトやウィンターの為に死ぬなら本望です。」


「…ならゴードンに付いて仕事を学びなさい。顔は少しだけ変えよう。そしてウィンターが王を継いでくれたら誰も知らない土地に行って顔を戻し穏やかに過ごそうサマー。ウィンターも時折訪ねて来てくれるんだ。ゴードンもタイム、それにケイトも。」


「ええ、父様嬉しいです。僕の稚拙な答えですがこれが精一杯の罪滅ぼしです。僕は僕を犠牲にして新しくやり直します。皆さんそれを許していただけますか?」


「ええ。」

「ああ。」

「はい。」


談話室にいる全員が頷く。なら彼を犠牲にして私は村人とホランドを助けに行こう。


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