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33、孤独という魔物


「タリアへはすぐだから歩いて向かおう。フランより近いから1時間も歩けば着くだろう。」


さっきから返事はない。ずっと私だけが1人で話している。ホランドは返事もせずこちらも見ない。


「さあそろそろタリアだけど滝ってどこにあるんだろうね。まずは宿をとって滝探しかな?」


「ああ。」


喋った!3時間ぶり?


「とりあえず手分けして探そうか?」


「ああそうしよう。」


タリアに着いて最初に宿をとった。そして2時間後に宿の部屋で待ち合わせをする約束をする。ホランドはギルド、私は図書館へ、でもどうしてもホランドが魔物と話をしていた事と朝のあの態度それに海での表情が気にかかり後を尾けてホランドの情報を集める事にした。

変装として町娘風のワンピースに着替えウィッグもつけた匂いでバレると困るので市場で購入した香水もふりかけた。ホランドは約束通りギルドに入ったが5分もしない内に出てきた。多分資料は探していないまだ約束の時間まで1時間以上あるのにと不思議に思っていると早足で歩き始めた。見知った道なのか裏路地や細い道を進み足を止めた場所は街の中心部から離れ廃墟が立ち並ぶ暗いスラム街のようだ。何人か人がいて私がいる事はバレていないが見られたらこの格好ではまずそうなので慌てて男装に戻す。その間ホランドはただ何かを待つように立ち尽くしていた。その時急にホランドが叫んだ。周りの人は特に気にする風でもなくホランドに見向きもしない。


「おい!出てきてくれ!」


辺りを見ても新しい人物は出てこない。5分程経ちホランドが諦めて帰ろうとした時何かが現れた。いっそう周りが暗くなり一瞬何も見えなくなったがすぐに目が慣れてそこにいる者の姿が目に入った。


「なんだ?旅にちゃんと合流できたお礼か?俺が教えてやらなかったらお前は1人残されていたぞ。」


ライムだ。馬鹿にしたように笑いながらホランドに話している。ライムが私の旅を?何故知っている?と思ったが夢を出入りできる魔物なのだからもうなんでもありなのだろうと不思議と納得した。

それにしてもタイムの読み通りホランドはライムの事を知っていたようだ。だから特徴だけで夢に出てきたライムを魔物だと言い切った。


「違うその事の対価はもう渡した。城に抜け穴はあっただろう。教えてくれタリアにある妖精の国に通じている滝はどこにあるんだ?」


「ああ真実だった。それにしたってお前、本当に自分で探そうとしないな。そもそも最初にタリアに滝があると教えてやったのは俺じゃないか。」


なんだって。長の屋敷の文献は嘘という事?


「俺は探す時間が惜しいんだよ。そんな時間があるなら強くなりたい。あいつを守る為に強く。」


「はっはっはっ。お前ってやつは。」


ホランドがライムを睨み言う。ライムは呆れたように笑い話を続ける。


「王都からここに来るまでに森があっただろうその奥にある。幻惑の魔法がかかっているが俺が消しておいてやろう。さあ教えてやったぞ対価を払え。」


「ああ。じゃあこんなのはどうだ………。」


ホランドがつらつらと話し始めたのはマフィアの街でウィンター王子が全てを消したはずの薬のレシピだった。材料、作成方法、注意事項等を事細かに話している。ウィンター王子はレシピや器具の全て壊せても人の記憶までは奪えなかったという事か。


「ほう興味深い。対価としてはちょうどいい。」


「ああじゃあそろそろ行く。」


「ああまた呼べよ。」


「今度はすぐに出てきてくれ。」


「ああ。」


とライムは消えてしまいホランドは歩き始めた。私は急いで宿へ戻った。ホランドは近衛兵でありながら魔物に情報を流していた。城の事まで。


「どうしよう王都に戻るべきか?それともここで。」


ホランドと対峙するべきか?私は部屋で悩みに悩み結局、王都に1人戻った。




「ふふふケイト盗み聞きなんて悪い子だ。これは面白くなるな。」




「ケイト戻った…ぞ。」


部屋にケイトはおらず机の上に手紙が残されていた。ケイトの綺麗な文字で、


信じていたのに。王都に戻ります。


「ケイト……ケイト…どうして?」


涙が頬を伝って落ちケイトの手紙を濡らしていく。ああとうとうケイトを失った。いつかいつかこうなると分かっていたのに実際に現実になるとどうしていいか分からない。ケイトを失った事実に足がすくみ手は震え吐き気が襲ってくる。1番恐れていた事だったのに命を落とすよりも恐れていたのに。


「ケイトを失った。もう二度とケイトを。」


涙でぼやけた視界に何かが現れたので声をかける。


「お前か何しに来たんだ?もう終わりだ何もかも。」


「ライムだ。どうした赤子のように泣いて。」


「ケイトにバレた。きっとお前との事を。」


「ふむお前のせいで心の一部が無くなった女か。」


「……ああ、そうだ。」


「可哀想に力を与えてやろう。」


そう言ってまた魔法をかけられる。身体中が少し温かくなる。その後目の前の魔物がやけに笑い始めた。


「ふふふっあははははは。ああすまんすまん。」


「……なんだ?」


「いやお前は10年間本当に1人だったんだと思うとおかしくておかしくて。笑いが堪えられなかった。」


「どういう事だ?」


もう涙が止まりはっきりと魔物の姿が目に入る。珍しく角もなく瞳も人間のそれで完全に全身人間の姿だ。そんなこいつが本当に可笑しそうに笑っている。


「10年前初めて魔法をかけてやった時すぐにバレると思っていたが余程お前は孤独な存在だったのだなぁ。」


「さっきから何が言いたい!」


「10年間お前にかけてやった魔法はただ疲労を回復し傷を癒すだけの魔法だ。お前の身体にそれ以上の事は起きていない。普通、両親や友達にかけて貰うもんだからすぐに気付くと思っていたが両親には捨てられ瞳の中に入る事さえなく唯一の友達のケイトは魔法が使えないからいつもお前の為に薬を使っていたそして近衛兵になると私を頻繁に呼び出して情報を提供する対価として俺に魔法をかける事を要求し続けた。だからケイトがいつも言う友達を作れも同僚と仲良くしろもとても重要な事だったんだ。言う事を聞いていれば良かったのに。」


「な…何を言っている……貴様…なん……どうして?」


また吐き気と震えが。10年間俺がこいつを利用していたはずがまんまと。


「何度でも言おう。俺はお前に力など与えていない人間が他人を癒す様にお前を癒していただけ。普通すぐに気付くだろ。ふふふっあははははは。お前は本当に…ふふふっ。」


「あああああぁぁぁ。ああぁぁぁああああああぁぁぁ。」


嘘だ。そんな…そんなの嘘だよ。嘘だ。嘘だ。嘘…嘘…嘘。


「嘘だ!そんなの嘘だ!ならどうしてケイトの心を盗った?何故だ!」


「簡単だ盗っていないんだよ。ケイトの恋する心など最初から俺はとっていない。だからお前が愛されないのは単純にお前に心がないだけの事。」


「なんだと!俺は俺のせいでこうなった事をずっと後悔して自分を恨み憎んで!ケイトに悪い事をしたと。」


「嘘だそれは嘘だお前は一度だって後悔していない!何故ならお前は10年間一度たりともケイトの心を返してくれと言わなかった。」


「なっそれは貴様が素直に返すと思わなくて。」


「俺は対価を差し出すならお前の為に何でもしてやっただろう分かっていた筈だ頼めば対価次第で返すと。それにあの時お前がケイトの心を差し出すと決めた時ケイトを守る為とのたまったが違うだろお前が本当に守りたいものはケイトの隣というお前の唯一の居場所だよ。そこが無くなればお前の居場所はこの世から完全に消えるからな。だからケイトが誰も愛さない事を望んだお前はそういう男だ。」


「貴様!殺す!殺してやる!」


「ふふふっ。お前憎む相手を間違っていないか?考えてみろお前にどういう裏があったとしてもお前があの女の為に全てを捨ててあの女を守り続けた事は事実だ。なのに何故あの女はお前を愛さない?そもそもお前を愛してくれさえすればお前は10年も俺に騙されずに済んだのに。お前は全てを捨ててあの女を守り心から想っているのに何故あの女はお前を愛さない?1番近くで守り続けてきたお前を。」


「もう貴様の口車には。」


「なら考えろ!誰が一番悪い?事実だけに目を向けろ!10年、10年だ決して短くはないそれなのにお前の手には何も残っていない!ケイトの為にケイトを守る為に全て諦めたそうだろ!ケイトの事だけを想って想い続けてそれがどうだ今お前の傍にいやしないじゃないか!私は心を盗ったと嘘をつきお前を癒し続けただけだ。」


「……10年俺はずっとケイトを…守って想って愛して…なのに…俺には誰もいない愛してくれる人も守ってくれる人ももういない。10年…俺の10年は…ケイトの為に…ケイトに10年を捧げた。それなのにケイトは俺を愛さずいつも遠ざけて俺を1人にする。寂しい…辛い…憎い…ケイトが憎い…憎い!俺を愛さないケイトが憎い!」


「なら俺と共に来い。俺ならお前の望みを叶えてやれる。お前はそれでもケイトを手に入れたいんだろう。さあ俺と来い!」


「分かった。」


そしてこいつと悪魔の契約を交わした。



あの時、闇を植え付けてやろうと思っていたがやはりその必要はなかった。10年という月日で育ったのは肉体だけでなくお前の中の闇も充分に大きく育ったようだ。


「愛とは不思議なものだ。純粋な愛だった心が様々な感情を育て始め同じ場所に憎悪まで存在させてしまう。」


だからそこに闇が生まれる。



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