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32、それぞれの考え


村は不気味な程静かだった。目の前の家の玄関のドアを開けて中に入ると食卓には食べかけの食事が残されていて生活のあとは確かに残っているのに人はおらずもぬけの殻だった。


「間に合わなかった。」


私は膝から崩れ落ちて地面に座り込んだ。後ろからタイムとウィンター王子が家を覗き他の家も見回っている。


「押し入られた形跡はない争った跡も。ただ人がいなくなっている。それに多分数時間は経っている。来た時にはもう手遅れだったと思います。」


タイムが淡々と状況を整理する中ウィンター王子が独り言のように呟いた。


「以前もこのようにある村から村人が消えた時があった。あの時は周辺に大きな魔物は現れなかったが。今と同じように手がかりはなく村人達はまだ見つかっていない。」


「私のせいだ。私が遅かったから皆を。」


地面に膝をついたまま拳を握る。


「姉さん僕達はいつもです。いつもこんな思いを抱えてそれでも鍛錬に励み前に進みます。でもこんな事になるなら優しい姉さんを連れてこなければ良かった辛い思いをせずに済んだ。だけど姉さんのおかげで1人も仲間を失わなかった。あの数の魔物達とボスクラスの豚がいたのに皆を失わずに済みました。だから胸を張ってください。」


「ええ隊長としてもお礼を言います。皆を守ってくれてありがとうございました。戻りましょうここには痕跡さえ残っていないきっと手がかりは掴めないでしょう。犯人は魔物達それ以上はもうどうにも。」


ウィンター王子が私に深く頭を下げた。


「ケイト様もしお辛いならいつでも言ってください。私がお話を聞きます。それが隊長の務めですから。」


優しい表情で私を気遣う姿は上司の鑑そのものだった。




「あれから何度かウィンター王子と会っているようだな。」


あの出来事があってから2週間私は何度か王子とお茶をしたりお忍びで買い物へ出かけたりしていた。


「ええあの事件の後すぐ私を気遣うようにお花を家に届けに来てくれてそれから何度か。」


「そうか。別に止めたりはしない好きにするといい。」


「はいありがとうございます。でもそろそろタリアへ行きます。」


「そうか一応皆に挨拶をするようにしなさい。」


「はいそのように致します。」


「ああ気を付けなさい。何かあればすぐに家に戻ってくるようにそれは約束だ。」


「はい。」


あの事件以降ホランドは明らかに私を避けるようになった。たまに会っても目も合わず話もしない。




「そうですか旅を再開するのですか。」


ウィンター王子が悲しいという表情を隠すこと無く言う。王子がこんなに表情が豊かだとは思わなかった。


「はいですのでしばしお別れです。」


「はぁー。ケイト様行かないでと言ったら嫌いになりますか?」


捨てられた子犬の表情。でもこればっかりはどうしようもない。


「ふふふなりませんよ。でも気持ちが揺らぐような事をしないでください。これは亡くなったお爺様との約束ですから。」


「約束?」


「ゴホン。とにかくまた帰ってきますから。」


「はぁー。残念です。王子でも隊長でもなければ一緒に行くのに。」


「王子!」


「ハイハイ冗談ですよ。待ってます無事に帰ってきてくださいね。」


「はい王子。」


ニコリと笑うと王子もニコリと笑った。



ケイト様が帰られた後すぐに自室へタイムを呼び出す。亡くなったという事は母方のお爺様だろう。ゴードン様の父はまだご健在だ。


「ハイハイなんですか王子。」


「タイム、君の母方のお爺様はどんな人だった?」


「いきなり呼び出してなんだ急に。」


「すまない教えてくれないか?」


「うーんそうだなぁ。やたらと旅が好きな人で色んな所に行ってはふらっと帰ってきて珍しい物を持って帰ってきてまたふらっと居なくなってた。」


「そうか。じゃあよく話してくれたおとぎ話とか覚えていないか?」


「ああそれこそ姉さんが探してる湖の話はよく。さも見てきたみたいに話してた。情景を細かく話すんだけど本当に見たのか聞くといいや見てないって言うんだ。」


「そうかありがとう。すまない辛い事を聞いてしまうがお爺様は遺言は残されたのか?」


「ああ親族1人1人に手紙を。」


「タイム本当にありがとう。もう戻って大丈夫だありがとう。」


タイムが不思議そうに部屋から出ていく。


「ケイト様とお爺様との約束。」


それがもしかしたらケイト様と何か関係が。私も調べなければケイト様について。




「ケイト行こうか。」


ホランドには伝えていなかったのに当たり前のように出発の朝家に現れた。


「ええ。」


正直、疑った感情を抱えたままだが最終的に幼馴染みを信じたいという気持ちが勝った。それでも旅の事を伝えなかったのはホランドは近衛にいる方がいいのではないかと思っていたからだ。


「ホランド何度も言うけど…。」


「もういい!」


ホランドが私の言葉を遮り怒鳴った。私はびっくりしてホランドを見る。


「そうやって俺を遠ざけるつもりなんだろう。昔からそうだった幼い頃からいつも俺に私の他にも友達を作れとか近衛に入ると同僚と仲良くしろとか。お前はいつも俺を遠ざけたがった!」


どういう誤解をすればこんな考えに陥るのだろう。やけに冷静にホランドの話を聞いていた。私の態度が余計に油を注いだのかますます声を張り上げて怒り始める。


「何とか言ってくれよ!俺を遠ざけて次はウィンター王子か?あいつを選べと言われたのか?ゴードン様に?それとも王か?結局俺じゃなくてあいつを選ぶのか!」


「落ち着いて。」


「落ち着いてるよさっきからずっと落ち着いている!お前が俺を遠ざけようとするから!」


「分かった!もう言わない!一緒にタリアに行こう!」


「最初からそう言ってくれ。」


そうするとホランドは少し落ち着き歩き始めた。どうしたのだろうホランドは誰に対しても怒るタイプではなかったのに。やはりあの海でホランドは怒っていたんだ。怒りの矛先はきっと私だ。



「さっきの怒鳴り声は?」


父上が窓から外を覗くが姉さんとホランドがいる場所は死角になっているので見えない。


「ホランドです。姉さんに怒鳴っています。」


「なんだと?」


父上は人様には見せられない表情で怒りを堪えている。その時もう一度怒鳴る声が聞こえた。父上が今にも魔法を唱えようとしているのを抑える。


「待って!待ってください!ホランドは何があっても姉さんを傷付けません。だから落ち着いて。」


「落ち着いていられるか!娘が一方的に怒鳴られているなんて!しかもうちの敷地で!そんな事許さない。」


「分かります怒りはもっともですがここは抑えて。最近姉さんはずっとぼんやりしていたんです。あの村で傷付き落ち込んでいるのかと思っていましたがやっと謎がとけましたホランドです。多分2人の間に何かがあったようです。ホランドが姉さんに怒るなんてありえないですから。」


「ありえないだと?」


「はい父上が王に土下座をするくらいありえないです。」


「それは……ありえないな。」


「はいですので少し探ってみます。」


「ああ誰にも知られぬようにな。」


「はい。後ウィンターが母方のお爺様がどうとか急に。」


「母方のお爺様?」


「ええこのタイミングです。きっと姉さんに関係があります。何かご存じですか?」


とは言え父上はお爺様を嫌っていた多分何も知らない…。いやその表情何か知っているな。


「なんですか父上。何を知っているんです?」


「いや。それは…。」


「父上、僕は姉さんを助けたいんです父上も一緒ですよね。」


「……お爺様は手紙を遺しただろう。私宛の手紙に様々な事が書いてあったがケイトには一言だけだった。」


「なんですか?」


「旅に出る事を許してやれと。あの人はケイトがいつか旅に出ると分かっていたようだ。それだけだ。」


「不思議ですね。分かりました。では失礼します。」


「ああ。」


僕は王都を出るまで姉さんの後をつける事にした。



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