31、契約
「タイムお前は何を言っているんだ?」
「僕も全てを分かっているわけじゃないけど1番近くで見てきたから断言出来る。僕らと同じような作りの人間じゃないと思う。」
タイムが真面目な顔で意味不明な話を続ける。
「姉さんは不思議な事が多い。魔法が1つも使えないしとんでもない量の毒を被っても飲んでも少し休めば何ともなくなって今はどんな毒でも影響を受けない。そしてあの強さ、強さだけなら王都で1番のホランドさえも凌ぐなんて。あいつは強くなるために全てを捨てて他とは群れず上を目指さず両親の家業も手伝わず強さだけを求めてきた。姉さんは違うお前も分かっているだろう数年は戦う事から離れていたのにせいぜい刺客を数人倒した程度だぞ。あの力はありえないんだよ。」
「それは。」
「ホランドが言ったんだいつか遠く離れてしまう気がするって僕もそう思う。だから頼むお前がちゃんと見ていてくれ。僕とホランドは近過ぎてきっと何かを見落としてる。」
「タイム!ウィンター王子!」
魔物を殲滅し終えたケイト様がこちらに走ってきた。確かにタイムの言う通りだ。ケイト様の剣は一振りで何体魔物を倒している?剣に魔法をのせているわけでもないのに。結局、近衛兵の隊員が手も足も出なかった魔物の群れを1人で殲滅した。確かに何か大きな力がケイト様を守っているのかもしれない。目には見えない何かが。
「聞いてください。魔物の目当ては村人です。もう既に村は魔物の手に落ち村人はあの方と呼ばれる魔物に食べられるのを待つ身だそうです。だから急がないと!」
ケイト様がこちらへきて必死に訴える。後からホランドものろのろと歩いてきた。
「分かりました。じゃあ姉さんは僕と王子と行きましょう。ホランドはさすがに休んだ方がいい。」
「ああ。」
ホランドさんは疲れた様子で座り込んでいる。それに比べてケイト様はまた俺達を置いて村へ走っていく。慌ててタイムと後を追った。
残った近衛兵が忙しそうに遠くで後処理をしている。風が強まり俺の声をかき消して誰の耳にも届かない。
「俺はいつもこうだ本当に情けない。いつも大切な場面の時に限ってあいつの傍に居てやれない。」
本当は怖かったあのままケイトと一緒に村へ行ってあいつが俺を見たらきっと面白がって全てをバラしてしまう。ケイトがあの事を知ればきっと俺の事なんてもう…そんな事耐えられない。
でも俺のせいだそうなる事も自業自得だと理解しているのに守る為に契約を結んだのに魔物との事が明るみになる事を恐れて足がすくみケイトの事をただの一度も助けられていない。
恐怖で震える身体を何とか立ち上がらせる。足もまだ震えているが何とか歩けそうだ。はやくケイトの元へせめてもう少しそばへ。
「ギャーっ!」
突然、隊員達の叫び声が聞こえてきた。全ての魔物はケイトが倒したのに。ハッとして顔をあげると残っていた隊員達が全員地面に倒れている。よかった死んではいない気絶させられているようだ。
「どうしたんだ?」
辺りは静かで誰もいない。立ち上がり叫ぶ。
「誰だ!誰か居るんだろう出てこい!」
「ああいるよ。」
そこに現れたのはあのヤギの角を生やした魔物だった。
「ぐっやはりお前か!」
「ああ最近名前を作ったんだ。ライムだそう呼べ。」
「うるさい忌々しい魔物め!消え失せろ!」
「まあまあ。そうだここには後何人だ?」
「お前に話す義理はない!」
「ふっ。全員起こしてお前が魔物から力を得ていると言ってもいいのだぞ。」
「な…なにを…やめろ。」
「初めてお前に力を与えたのは10年前だったなぁ。それから何度もお前に。」
「黙れ!」
「お前の強さが努力ではなく魔物との契約だと知ったら他の者はどう思うだろうなぁ。」
「黙れ!黙れ…やめてくれ。」
「ふふふっ疲れているようだな。ほら力を授けてやる。」
俺に近付き肩に手を当てる。触れた場所から暖かくなっていき身体に力がみなぎっていく。また俺はこいつを頼って。その一瞬記憶がよぎった。何度も何度も思い出す脳裏に焼き付く後悔の記憶。
10年前ケイトを狙った刺客を1人で倒せなかった。2人で遊んでいる時急に刺客が現れてケイトは毒を被ってしまい数分気を失った。だから俺が守らなくちゃいけなかったのに守りきれなくて死にかけている時現れたこいつに促されるまま契約を。
「ああ、ああああ。」
「どうだ俺の力はお前はこれでまた強くなった。さあ言え後何人だ?」
「…3人だ。だが手を出さないでくれ頼む!」
「ふむ珍しいな。分かった村人は手に入ったしこれで消えてやるとしよう。貸しだからな。」
そう言うと魔物は消えてしまった。腹の底から自嘲気味た笑いが込み上げた。
「あはははは、まただ。こんな俺がケイトに愛されるはずがない!あはははは、あはははは。」
10年前にあいつに差し出した最低の対価。ケイトが人に恋する心。あいつがそれをケイトに返さない限り俺が愛される事など未来永劫ありえない。
「自分の手でケイトを遠ざけているなんて。」




