27、解禁
私は久しぶりに自分の部屋のベッドに寝転んだ。
「という事は恋愛解禁?って事?」
恋愛、私には遠い場所にあったものがいきなり空から降ってきた。
「なん、ど、ど、どうしましょう。」
なんだか心臓が早く鼓動し顔も熱くなってくる。まさか今更になって。
「で、でも、ちゃ、ちゃんと考えなきゃ。まずはあの3人の事。」
タイムはない。絶対にない。愛しい弟でどんな事があっても守ってあげたいと思っているけど弟以上の感情はないかなぁ。ごめんね。
ホランドは常に私を気にかけてくれて本当にいつも傍に居てくれた。小さい頃からどんな時でもどんな状況でもずっと守ってくれようとしてくれてそれをいつも伝えてくれた。誰よりも大切な存在だと何があっても守るといつも言葉にしてくれた。少し過保護だけどなるべく私が傷付く事が無いようにと先を読んで行動してくれて苦手な魔法も私を癒す為にって治療の魔法を寝る間も惜しんで勉強してくれて。毒に侵されてうなされていた時もいつも手を握って傍に居てくれた。
今思えばウィンター王子は王が言ったようにいつも気にかけてくれていた。サマー王子の代わりにエスコートしてくれる事も度々あってなるべく舞踏会で1人にならないように王子ではなく近衛兵として傍に居てくれたし毎回、毒の犯人を絶対に捕まえてくれた。サマー王子はお見舞いには一度も来なかったけどウィンター王子は毎回、果物や甘い物を持って来てくれた。
そういえば一度2人だけで庭を見た事があった。あの時城の廊下でサマー王子と知らない令嬢がキスしている場面を見て私はもう慣れっこだったのにそれを見たウィンター王子が急いで私の元へ来て後ろから手で目を塞いで、見てはいけませんケイト様。って震える手で私の手を取ってその場から走り出して庭に連れてきてくれた。無言が気まずいのか庭の花の説明をしてくれてタイムが迎えに来るまで2人で噴水の傍に座って話をした。婚約者になって日が浅かったからウィンター王子と話したのは初めてだったのに色んな話をしてくれた。自分の事や騎士学校での事先輩として尊敬してると言ってくれて可愛かったなぁ。
「だから今日、庭に誘ってくれたのか。どうして忘れていたんだろう?」
すぐに理由は分かった。見ないふりをしてたからだ。今までサマー王子以外考えないようにしていた。無理にでもサマー王子を愛そうとしていたから。
「本当に馬鹿なのは私だったって事ね。」
でも恋愛より先にシーナは探さないとお爺様との約束だから美しい湖を見る事ともう一つ。
ケイトとゴードン様が帰った後、2人は王の執務室から出てかれこれ1時間は言い争っている。
「おいチビ!本当に姉さんを愛してるのか!ああん!」
「そうだな。愛している。それにチビでは無い少し伸びたからなギリギリ170センチある!毎日牛乳を飲んだおかげだ!」
「うるさいチビ!許さないぞ!こうなったらもうお前の言うことは聞かないからな!もうお前は敵だ!そもそも今回、姉さんを危ない目に遭わせたのはお前だからな!」
「はっお前の許しなどいるものか!後はゴードン様だけ説得できれば外堀は全て埋めた事になる。言わせてもらうが俺が一緒に行ってたらケイト様は絶対に拐われなかった。お前が弱いのが悪いんだやっぱり俺が行けば良かった。それにケイト様は昔から強いんだ!守られるだけの女性ではない!結局、憲兵はケイト様が全員倒したんだろ知ってるぞ!全員殺さず気絶させてあった本当にいつもかっこいいんだ。そういうところも好きだ。」
「う、うるさい!僕は許さないからな!僕は姉さんと一生一緒にいるんだ!」
「なんとでも言えガキが。」
やはり18歳の2人は若いな。子供の喧嘩のように言い合いをする姿は少し微笑ましくふっと笑ってしまう。守られるだけの女性ではないか。確かにケイトは強い、強いけど俺は無理だ。失う事を考えただけで恐怖で足が竦む。
「なんだホランド笑える程余裕があるのか!」
タイムがいち早く噛み付いてくる。弟のような存在なのでぷりぷりと怒る姿も可愛らしい。
「僕達を子供だと思って侮っているだろう!分かるぞその目線!今に見てろ絶対に姉さんを振り向かせてみせる。」
「ホランドさん私も本気で行きますから。笑っていられるのも今の内ですよ。」
と珍しくいつものニコニコ笑顔ではなく鋭い目で俺を睨んで行ってしまった。
タイムも同じ方向に歩いて行く。2人は近衛兵の宿舎に戻るようだ。俺も2人の背中を見送った後、家に戻る事にした。
「俺には無理だ。ケイトが少しでも傷付く事に俺は耐えられない。失う可能性が1%でもあるなら俺は恐怖で目の前が真っ暗になって。」
きっと誰にも見つからない安全な場所に閉じ込める。
「ケイト様、美しいですね。髪が短いのも似合っています。」
私はウィンター王子に贈られたドレスと靴、アクセサリー一式をまとって舞踏会に出ている。何故?どうしてこうなったの?
元はと言えば1週間は家に居るように父上に言われて暇だから王都のギルドに行った事が発端だった。職員さんに名前を言ったらゼロさん指名で依頼が来てるって言われてなんだか嬉しくて依頼を受けて職員さんに言われた通りの時間にメモに書かれた場所に行ったら転移して城内に居た。そしてあれよあれよと着替えさせられ化粧をされウィンター王子が現れて今だ。何故?
「あのう王子、私の事騙しました?」
さっきから私の腰に手を回し自分の身体に引き寄せて私の肩に頭を置いて耳元で囁く王子に話しかける。
「やだなぁケイト様騙すだなんて依頼ですよ。依頼。後で報酬は振り込みますから。今はただ恋人役を演じてくださいね。」
そう言って首に軽く口付けられる。ぶわっと熱くなっていくのが分かった。
「あのう王子さすがに怒りますよ。」
「ふふ怒れるかな?俺知ってるんですよ。」
そう言って捨てられた子犬のようにしょんぼりとした表情で瞳をうるうるとさせてこちらを見て言う。
「ケイト様怒らないでごめんなさい。」
「う、許します。」
ほらねとでも言いたげにウィンター王子が薄く笑う。何故、私がこの表情に弱いと知っているのだろう。……もしかして本当に母上とコリンと仲がいいのか!
「ウィンター王子、本当に外堀を埋めてるんですね。」
「ええ、そうですよ。今も埋めている最中です。宰相殿には仕事で見せています。」
「あは、あははは。」
私はもう笑うしかなかった。ウィンター王子も同じように笑っている。
「楽しいですねケイト様!」
「あははは。」
「あははは。」
「ゴードン、またケイトが来てるよ。」
「なっなんだって!」
「わぁうるさっ。あそこウィンターのとこ。なんというか凄く目立ってる。ああ…えっとケイトは本当に綺麗になったね。」
「お前の息子は面倒しか起こさないのか?」
「うん、ごめんね。」
「それにしてもあのドレスとても似合っているな。ウィンターはケイトの事よく見ている。好きな色もドレスの形も知っているらしい。」
「うん、そうだね。ケイトも笑顔だ。良かった。」
「良かねえよ。あんな姿ほぼ婚約者だと言い触らしているのと一緒じゃないか。それにくっ付いているのが気に入らない。ここから魔法をうってもいいか?」
「あの、一応この後、王の後継者のお披露目だからやめてもらえるかな?」
「ああそうだったな悪い。それにしても暑いな水をふらせていいか?王子の上だけ。」
「うんやめてねお願い。はーいもう集まってくださーい。お話がありまーす!」
無事にウィンター王子が王の後継者だと貴族や家臣に知れ渡り反対するものは1人も居なかった。




