24、憲兵の姿をした
「そうですねぇ。もう使っていない工場かぁうーん?ごめんなさい分かりませんねぇ。」
「そうですかありがとうございます。」
タイムが礼儀正しく憲兵に挨拶をして戻ってきた。ここの憲兵は口を開けば、マフィアがいかに街の害悪になってるかしか話さず工場の事や山賊の事を聞くと皆、口を揃えて知らない分からないの一点張りでてんで話にならない。憲兵も仮面をしているのには首を傾げたこいつらは後暗いところなどないだろうに。
「タイム街の人にも話を聞いてみるか?」
「ええ、でもその前に拠点がいる。宿で部屋をとりましょう。その後二手に分かれて聞き込みへ。」
早く行動したいのにと叫びそうになるが抑える。確かに荷物をおろし情報を整理する場所は早めに確保した方がいい。宿へ行きその宿で1番大きな部屋を1部屋おさえた。タイムは第二隊の次期隊長だし金があるのか話を聞く時も、宿屋の主人に自分達の部屋の階を人払いさせる時も、金を握らせていた。
そうか、これが第二隊のやり方なのかもしれない第二隊は諜報活動も兼任しているらしいからな。そして1時間後にまた部屋に戻って来る事を約束して部屋を後にした。
「どうでしたか?」
「街の連中はマフィアを信頼しているようだ。魔物を街に入れないように戦い、火災があれば1番に水魔法を使えるものが駆け付けて水を降らせると言っていた。何故あの集団がマフィアと呼ばれるのか分からないらしい。サンダロンファミリーというようだ。」
「そうですかこちらも同じようなもの。殆どがマフィアを賞賛していました。それにマフィアと言い出したのは憲兵だそうです。それに最近、憲兵の羽振りがとてもいいとバーのマスターが言ってました。」
「これはひょっとしたら。」
「ええ、そうですね。」
赤い炎のような光が私を包んだ。熱くはなく、私の中の怒りが具現化したように思えた。赤い炎が大きくなっていった時、後ろの女性が叫んだ。
「ここはどこ!えっ何炎!誰?」
狼狽えている女性の近くに行き耳元で囁いた。
「今は眠って。」
そうするとすうっと安らかな寝息をたてだした。この炎の中は薬が消え、薬で混濁した意識も取り戻す事ができる。炎はどんどん大きくなり女性全員が目を覚ました。私は1人ずつ眠るように促した。炎が当たり鉄格子がぐにゃりと変形したのでそこを通り鉄格子の外に出た。横にも鉄格子の部屋が3つありそれぞれ中に女性達が捕まっていた。
炎が燃え広がり鉄格子を変形させ部屋に入る。女性達を包んだ後、私の意思をくんだようにまた眠らせていく。部屋中が炎に包まれても怒りが収まらない。別の部屋には少女達も眠っていてまた別の部屋には少年達も居た。
その時先程のガスマスクの男達が入ってきた。
「なんだこれは!火事か!女!お前は何故外にでて、ああぁぁああぁぁ。」
男達を炎が包んだ。焼かれている訳ではないガスマスクだけを焼いたようで慌ててガスマスクを外した2人は思いっきり薬を吸い込んだようだ。ペタリと座り込み笑みを浮かべている。
男達が炎に包まれても意識は戻らなかった。この炎は完全に私の意思で動いているのだろう。炎をまとったまま歩く、炎が扉をいくつか壊しまた廊下を歩くと潜水艦のドアのように丸いハンドルがついたドアが現れ、炎が当たり穴があくと大きな部屋が現れた。
そこに既視感を覚えた。昨日見た近衛兵の屯所と似ている。皆が昼食をとっていた場所、勿論ここは違う場所だが。そこで分かった。
転移を使える魔法使いが居て、人を捕まえておく牢屋があって、叫ぶ声が聞こえても誰にも届かず気にしない場所。ここは工場ではない憲兵の屯所だ。
「民を守る者達が、騎士学校出身として同じ兵として情けない。」
また怒りが込み上げてきた。炎の勢いがまし机と椅子が飛んでいく。異変に気が付いたのか仮面を着け憲兵の制服を着た者達がぞろぞろと20名程入ってきた。
「なんだ!火事か!女?まさか逃げた?薬は?」
「まずい薬が上がってきてるかもしれない!あまり深く息を吸うな!」
「相手は1人だ。かまわずやっちまえ!」
私は腰を落とし息を深く吸い込み、腰の左側にある剣のグリップを右手で掴んだ。5人が一斉に斬りかかってきたのを薙ぎ払った。ドサドサドサと男達が倒れていく。
「なっみ、見えたか?」
「いや見えなかった。あいつ。」
「う、狼狽えるな!負けるぞ!」
「数でかかれ!」
剣を振り払いもう一度握り直す。
「大丈夫だ。皆同じ所に連れて行ってやるから。」
そう言って憲兵達の中に入り込んだ。
「すみません!誰かいませんか?」
憲兵達の屯所に来たけど何度呼んでも返事がない。
「タイムこっちに来い。中から声がする。」
おいおいそこまで入ったら不法侵入だぞ。ホランドは姉さんが絡むと僕より周りが見えなくなるから本当に大変だ。よくこの男があの馬鹿と結婚するのを許したな。
ホランドの近くへ行くと確かに声が、というより叫び声が聞こえてくる。
「えっ何事?」
「タイム中に入るぞ。」
ホランドは言い終える前に入ってしまった。本当にもう。第一隊は突入部隊だからこんな事は慣れっこなのかもな。終わり良ければなんとやらって感じなのだろう。だから始末書の量も多いし。
中に入ると受付には誰もおらず、数時間前に話を聞いた談話室にも、ちょっとした食べ物が売っている購買にも誰もいない。事務室も覗いたがもぬけの殻だ。
「なんだ?何かあったのか?」
その時、奥の方からホランドの叫び声が聞こえてきた。
「ケイト!ケイトもう大丈夫だ!」
僕も急いで声の方へ走った。そこに居たのは赤い炎に包まれた姉さんと床に倒れている憲兵達の姿。僕は思わず叫んだ。
「姉さん!ああ、姉さん。その姿、力が戻ったんだね。美しいその姿をまた見られる日が来るなんて!ああ、姉さん愛してるよ!」
姉さんが小さい時に1度だけ見せたあの姿、それから僕は姉さんの忠実な下僕になった。
愛してる、美しい姉さん。炎をまとったその姿。知っているよ姉さんは今物凄く怒っているんだよね。ああ、美しいその姿はまるで怒りの化身のよう。
「ケイト!しっかりしろ!」
「ホランド私はしっかりしてるわ。憲兵はこれで終わりかしら?全員倒すまで怒りが収まらない。」
姉さんが驚く程冷たい声で言い放つ。ホランドが憲兵の1人に話を聞いている。
「おい、これで全員か?憲兵は?答えろ!」
「はひ!下に2人居ます!それで全員です!」
「そう、下の2人は薬を吸ってるわ。ならこれで終わりね。」
姉さんが言い終えるとすうっと炎は消え姉さんはドサリと倒れてしまった。
ホランドが慌てて姉さんを抱きかかえ声をかける。
「ケイト!ケイト!」
「大丈夫ですよ。眠っているだけです。一先ず僕は王都に戻って応援を呼びすぐに転移で戻ってきます。ホランドは怪我人の確認をお願いします。ああ、ここの表の扉は閉めて行くので姉さんはそのままで大丈夫ですよ。人もいなかったですし。」
「分かった。」
ホランドがそっと姉さんを壁にもたれさせている間、僕が魔法で一気に縛り上げた。1人1人しっかりと縄で縛られた状態になっている。その後、地下に向かったようだ。僕も王都に戻り王子に全てを話した。姉さんの事以外全てを話した。




