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20、ライム


森を抜け村へ戻り1度休み朝になったら屋敷に集まって話をする事になった。レディとグレンは長を連れて屋敷へ私とホランドは宿へ戻りベッドで眠りについた。



「はあ、またここか。」


私は深くため息を吐いた。またあの夢、闇の中で黒い男に会った場所にいる。目が暗さに慣れておらず殆ど何も見えないが辺りを見渡す。暗いが前回よりは周りが見えてきた。なんというか城のボールルームのような場所だ。明かりがついていないシャンデリアがぶら下がっていて暗いが、前みたいに闇に足をとられていない。だけどそんな事はどうでもよくて私が1番気になるのは服装と髪だ。何故か黒いマーメイド型のドレスで黒いハイヒールを履いておまけに黒いベールに髪は元の長さに戻っている。全てが白になればウェディングドレスのようだ。ベールのせいで余計に暗かったのかとベールをあげると前が見えるようになり少し心に余裕がでてきた。


「まずいな。この格好では戦えない。」


「大丈夫だ戦う必要などない。」


現れたな黒い男、今回ははっきりと姿を見せた。目の前に現れたのは魔物ではなく人間に近い姿の男だった。黒いタキシードに黒いYシャツを着て黒い革の手袋をしている私と同じ全身真っ黒のタキシード姿でネクタイをしていないのが気になる。ネクタイなしのタキシードなんて舞踏会じゃありえない。ホランドは短髪だがこの男はもう少し長く前髪を分けている。私と同じ黒い髪に黒い瞳。


「気に入ったかドレスは?」


質問には答えられなかった。頭の上のヤギの角も異質だが何より瞳が横に長くどちらも人間ではない事を物語っている。どうしても角と瞳から目が離せない。


「ああ、怖いのか。」


男が呟き角が無くなった。そういう事ではないがまあいいか。不思議そうに屈んで私に近付く。


「口がきけるのなら何か話してくれ。」


男は私の肩を掴みわざわざ目線が合うように膝を曲げて話している。仕方なくこの得体の知れない奴に質問を投げかけてみることにした。男装ではないので自然と言葉も戻ってしまう。


「あなたは誰なの?」


「そうだな、誰なら良いんだ?」


「答えたくないという事?」


「いやそうでも無いが。誰でも良いじゃないか。」


「じゃあ何者なの?」


「何者がいい?なんでもなれるぞ。」


「は?」


「ああ、でも名前はいるか。では俺はライムだ。それにしても綺麗だとても似合っている。」


うっとりとした表情で言う。さっきより近付いてきて腰を掴まれた。


「私はゼロ。離してくれません?」


「それより少し踊らないか?そういう気分なんだ。」


そう言って男が無理やり手を握り踊り始めた。身体に染み込んだステップが勝手に男にあわせる。マーメイドドレスは少し動きにくいはずなのにリードが上手だからか転けずに済みそうだ。


「勝手な人。」


「いいじゃないか好きだろうそういう男も。それにしても流石王妃候補だな軽やかなステップだ。」


男がにこやかに笑い話す。目が大きく垂れ目で鼻筋が通って少し薄い唇、優しそうな雰囲気で正直好みの顔をしている幻想としては申し分ないのにこの男の前にいるとひどく落ち着かない。王妃候補だった事を知っているなんて。

いやいや落ち着いてよく考えれば夢なのだから知っていてもおかしくない。この男は私が作り上げた男なのだから。でも一応礼儀として聞いておこう。


「どうしてそれを?」


「震えなくていい、お前と一緒で諜報活動が得意なだけだ。ケイト大変な人生だったな親に無理やり王子と結婚させられて夢を諦めて結局王子に裏切られた。そして今は幼馴染と2人でギルドに入って依頼をこなしている。」


名前まで知られているらしいこれ以上嘘をついても意味は無いかもしれない。やはりライムは私の脳が作り出した幻想。


「ええその通りよ。私は王妃候補をやめてここにきた。」


「それを知ったから聞きたかったんだ幾らお前が強いとはいえ今回の魔物達は数も多く訓練を受けた魔物達だった一歩間違えば死んでいたかもしれない。王妃候補だった身分の高い人間の女がそこまでして命を危険にさらしてまで助ける価値があの村人達にあったか?」


「私は王妃とか宰相の娘とかどうでもいい。今までこんな事は言えなかったけど私はただのゼロになって誰も知らない土地で自分の力で生きたかった。肩書きなしで私を見てくれる人と一緒にいたいそれだけなの。人助けをするのもあなたの言う傲慢な人間だからよ。王妃じゃない私を必要としてくれるのが嬉しいから助ける傲慢な人間なの褒められた考えではない、だけど私を信じて頼ってくれるなら絶対に助ける。」


って私は夢相手に何を言っているのだろう。この男もほぼ自分自身かもしれないのに。


「そこまでして肩書きなしの自分にこだわるのは何故だ?まだ何かを隠しているな。普通全てを利用して断ったっていいはずだ。お前は優秀らしいから能力を仕事として売っても良かったはずだ。何故今更逃げたんだ。」


「それは自由が欲しかったから。」


「自由なんてお前程賢いならどうとでもなったろうに、まだ何かを隠しているななんだ?」


男は私の顔をじっと見て考えている。あの事をこの男は知らないらしい。


「肩書きから逃げたいと言いながら親の言いつけ通りにその肩書きを守り抜く、自由が欲しいなら逆に守らないはず。親に何か後ろめたい事が?仄暗い秘密が?」


「もういいでしょやめて。」


「反応したな。やはり親か。という事はもしかしてお前。」


「やめて!!」


声を荒らげてしまってハッとしたこんな振る舞い肯定したようなものだから。


「養女なのか。あれはお前の本当の両親ではない。ああ、それと私は実在の人物だよ。何度も会っている。」


と言い終えニヤリと笑うと消えてしまった。私はまた1人この暗い闇に取り残された。


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