19、オーガ
4人で森へ。屋敷を出る時先程のことなど棚に上げてグレンを救世主と呼び村人が足に縋っている。グレンは優しい青年なのだろう。村人達の手を握り優しい瞳で微笑んでいる。そんなグレンを見てレディもまた同じ瞳で見つめている。彼等は本当にお似合いの2人だ。
「無事に森に入れましたね。」
レディは森の中に入り辺りを見渡し呟く。やはり夜に来たのは間違いだったかもしれないが長の状態を考えると早く見つけておきたい。
「グレン夜だしここは特に暗いわ。見えにくくない?大丈夫?」
「ああ、夜は特に。」
「じゃあ腕に掴まってて。」
「ありがとう。」
腕を交差させて手を繋いでいる。密着して歩き出した。というかグレンはレディにとにかくくっついて歩いている。レディは頬を染めキョロキョロとしている。かろうじて長を探してはいるがとにかく狼狽えている。こいつら。いやグレンか。
「ホランドあの2人森に置いて帰る?いっそ。」
「ああ、そうだな。それか俺達も手を繋ごう。」
と言って同じように手を握ってくる。
「いや何故?離せよホランド。」
「あっあそこ!お父様!」
レディが手を繋いだまま指をさす。長がまた魔物の穴を開けている。ホランドはとにかく手を離せ。馬鹿者が。長がゆっくりと振り返る。
「どうしたレディ。」
「お父様!コルドと和平を結びました。もう争いは終わりです!」
「終わりなど来ない。コルドを潰しきるまでな!」
レディはペタリと地面に座り込む。グレンも隣に座りレディの頬に手を添えた。
「ああ、思い出した。お前はコルドの…。お前達愛し合ってるんだろう。だが残念だったなお前達が一緒になる未来など永遠に来ないぞ!あははははは。」
レディは何かを諦めたようにグレンを見つめ手を離す。グレンは長を見てレディを見て悲しく微笑みレディにそっと触れる。
ああ、この2人は全てを諦めるつもりだぞ。死ぬつもりかもしれない。どうにかしないと。
私は必死に背負っている袋の中に使える物がないか探した。すると手に缶が当たった。コリンが持たせてくれた茶葉だ。小さい時から魔除けの茶葉だと飲ませてくれて離れて暮らしていた時も定期的に送ってくれていた。もしかしたら……私は茶葉を取り出し袋に入れその中でとにかく細かくなるように粉になるようにすり潰す。そして長の顔にふりかけた。鼻や目、口とにかく体内に入るようにふりかける。長は目をこすりくしゃみをして咳き込み怒りだした。3人はこいつはいきなり何をしでかしたんだという風な目で私を見てくる。何ともいたたまれない。何か言い訳をしようとした時、長がゴポゴポと音を立てて黒い煙のようなものを吐き始めた。あれが魔?
「お父様!お父様!」
レディが長に駆け寄り背をさする。
「レディ様、長を闇から遠ざけてください。グレン様は治癒の魔法をかけてあげてください。」
「はい。」
レディとグレンは長を抱え移動しグレンが魔法をかけ始めた。魔に気力を取られているだろうしなかなか長の意識が戻らない。
「ゼロ、見ろ!」
ホランドが叫ぶ。みるみるうちに闇が形を持ち始め姿を現した。
あれは!あれは?あ、れは?何?人?ホランドを見るとホランドも何かは分かっていなさそうだ。
「おい人間共恐ろしいだろう我が姿!」
「う、うん。こわーい。」
「舐めてるのか?我はオーガだぞ!」
オーガ?オーガ?オーガさん。
「オーガさん。」
「なんだその山の名前みたいな発音は舐めてるのか?」
「オーガさん。とにかく帰っていただけますか?」
「我は村を滅ぼせと命をうけている。それに手下を387体殺されれば流石に黙ってはいられぬな。」
ああ、彼は怒っているのか。深く怒っている。落ち着いていて穏やかな声なのに怒りが伝わってくる。
「こちらとしても襲われたら身を守るしかなかったから。」
「ならお前が。」
「ああ、そうだ。」
「そうか。お前は?」
「ゼロだ。」
「我はオーガのサダだ。また会おう。」
そして消えてしまった。
「消えたな。」
「ああ。」
そして森に静けさが戻った。




