17、黒い穴
「昨日はえらい目に遭った。ホランドがそんな風に思ってくれてるなんて。」
路地裏で1人呟く。今日はホランドとは別行動で私は徹底的に情報を集めてホランドは引き続き長の屋敷を訪ねて滝についての資料を探してくれている。もうあんまり考えないようにしよう。
それにしても情報操作でもしているのかと思う程、口を揃えてサンラは平和で魔物も居ないし幸せです、としか言わない。コルド争っているのだから平和では無いだろうに、老若男女問わず聞いても同じ事しか言わない。なので仕方なく表通りではなく裏通りの路地に来たというわけなのだが全く犯罪に遭遇しない。
「何故なんだ。人も居ないし気配もない。こういう場所が1番情報を得られるのに。」
情報を得られないまま帰ろうとした時だった。消え入りそうな小さな声で、助けてと聞こえた気がした。
「誰?」
周りには崩れかけた土壁の家が並んでいる。壁が崩れているので家の中が見えるがやはり誰もいない。やっぱり気のせいだったかなと首を傾げまた歩き出した時また同じ声で助けてと聞こえた。
「やっぱり誰かいる?」
外から覗くのでは無くしっかりと家に入り探索を始めるがやはり誰もいない。諦めかけた時4軒目の廃墟の家に地下の扉を見つけた。音をたてないように扉を開ける。とても暗いが松明の灯りが見え中からカタリと物音が聞こえた。
「助けて…お願い…お父さん、お母さん。」
階段を降りるとそこには縛られた10歳位の少女がいるだけで他には誰もいない。
「た、助けてお兄ちゃん…魔物が。」
「魔物?居ない筈じゃ?とにかくここを出よう。」
少女は靴を履いていないので抱いて階段を上がる。今はまだ昼前だし外の方が安全だ。外は先程と同じ静かな路地裏で魔物の気配もない。とにかく少女が怯えているので表通りを目指して歩き始めた。
見た感じ顔色も良く元気そうだ。白いワンピースは茶色く汚れてはいるが血が出ている様子はない。足の裏も土がついているだけで切れたりはしていないが一応確認する。
「怪我はない?」
「うん大丈夫。お腹が空いてるだけ。」
「そっか良かった。ごめん何も食べる物持ってないや。お嬢さんお名前は?」
「ふふ、いいよ。私はローア。」
「ありがとうローア。えっと何があったの?」
少し俯き黙り込んだ後、小さな声で話し始めた。
「……も、森の近くに夜になったら綺麗な蝶々が出る場所があって。私どうしても蝶々が欲しくて。ねえお父さんとお母さんには言わない?」
「うん分かった言わない。それで?」
「夜に行ったの、そしたら長が居て魔法で黒い穴を開けてそしたら中から魔物がたくさん出てきた。怖かったから立っちゃった、で長と目が合って。」
長が魔物を呼び出している。黒い男から力を魔を貰ったらそんな事ができるようになるなんて。これは厄介な事になったぞ。それにこの子を家に素直に帰しても両親だってこの子と同じ目に遭っているかもしれないが。
「そっか怖かったね。可哀想に。」
「うん、あっ!あそこがお家だよ!」
少女が嬉しそうに指をさしたのは赤い屋根の土壁の家だった。少女が走って家に入る。
割とすぐそこ。
「お父さん!お母さん!」
「ああ、ローア!」
玄関先で抱き合う家族だ。両親は少しやつれている。子供が行方不明になれば当然か。
「あのねあのお兄ちゃんが助けてくれたの!」
少女は満面の笑みでこちらに手を振り駆け寄ってくる。手を引かれて両親の元へ案内された。
「ありがとうございます。ローアを助けてくださって。もう3日帰って来なくて。私達は不安でいっぱいでした。」
母親が泣きながら私に言う。だがこれで終わりではない、ローアが逃げたと分かればここにもきっと魔物が来る。
私は長の話と魔物について話しできれば宿に一緒に来て隠れていてほしいと頼んだ。何故ローアが森に行ったのかはちゃんと言わなかったが、ローアは問い詰められてこってり絞られている。
両親はローアを抱き締め分かりましたと頷いた。一緒に宿に戻るとホランドが先に戻っていたので情報を共有した。ホランドがすぐに新しい部屋をとり魔法石で結界を張ってくれたので何とか魔物に居場所をバレずに済みそうだ。
「それにしてもあの長がそこまでしているとは。これからどうするんだ?」
「どうするって、とりあえずレディ様に言ってみるしか…。」
その時窓の外から叫ぶ声が聞こえた。
「捕まったぞー!グレンだ!コルドのグレンだ!」
周りから怒号が聞こえる。グレン、コルドのグレン。と村中の人々が叫んでいる。窓から覗くと手首を縄でくくられて服は汚れ、口の端に血が滲み引っ張られている男が目に入った。あれがレディの想い人。そこにレディが現れた。騒ぎを聞きつけてここまで来たようだ。
人を掻き分けて群衆の1番前に出てグレンを見た。何かに気付きすっと顔を上げグレンも見つめ返す。その瞬間グレンは口元に優しい笑顔を浮かべた。そしてまた俯き微かに口元を動かした。レディは無表情のまま群衆を掻き分けて屋敷の方へ戻って行く。グレンは確かに唇を動かした。最期に会えたと言い微笑んだ。
「ホランド行こうか。」
「ああ。」
「屋敷へ。」




