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16、長の屋敷


「おい!ゼロ!起きろ!」


「あっああ。ホランドおはよう。」


「おはようじゃない、ってお前泣いているのか?」


「えっ?」


ホランドが優しく頬に触れ親指で涙を拭ってくれる。指摘されるまで気が付かなかった。何故黒い男は私にあの場面を見せたのか、何故愛し合う2人が結ばれないのか様々な感情が押し寄せて泣く事を止められなかった。


「という事はお前、前から魔物に目を付けられているという事か!」


「そこ?」


ホランドの着眼点は少しずれている気がするが。とにかく全てを洗いざらい話した。


「そこだろう。何故早く言わない?それなら王都を出なかったのに。」


「えっ言わなくて良かったぁ。」


「馬鹿が、魔物が言葉を操り人を惑わすなんてとても上位の魔物にしか無理だろうが。魔王クラスの。そんな奴に目をつけられたって事がどういう事か分かっているのか!」


「気を付けます。」


怒られてさすがにシュンとする。それでもホランドは怒り続けている。私は私でそんなホランドを後目に長をどうするか考えていた。


「とりあえず娘を探す。話を聞きに行こう。」


「ああ、分かった。だがこれ迄以上に気を配れ。」


厳しい瞳でホランドが呟いた。朝食を取ろうと部屋を後にするとちょうどそこにいた宿の旦那さんが話しかけてくる。恰幅がよく威勢がいい。


「なんでえ、なんでえ。あんた夢見が悪かったかい?顔色が悪いなぁ。うちの宿屋でゆっくり休むといいや!」


「ええ、ありがとうございます。ゆっくりさせていただきますね。」


旦那さんは伝説やこの村の事を色々話してくれた。やはり伝説の舞台になっている場所が多く今サンラは観光メインの村になっているらしい。それなのに長がいきなり争いを始めるなんておかしいなとも言っていた。

宿屋で朝食をとった後、夢で見た屋敷をホランドと相談しながら探し始める。多分、森に面している場所、且つ村の奥だろう。村の裏手は山だから敵に攻め込まれにくいきっとその近くだ。

そして20分程で屋敷を見つけた。晴れているのになんだか暗く禍々しい空気が流れている。


「ここだな。」


ホランドが呟く。魔法が使える分、私以上に何かが見えているのかもしれない。


「ごめんください、誰か居ませんか?」


少ししてはーいという声と共に若い女性が出てきた。あの空色の瞳の女性。胸元に瞳と同じ色の石がついたネックレスをつけている。


「こんにちは、旅のお方ですね。こんな屋敷まで何か御用ですか?」


長の娘なのだろう、疲れか不眠からなのかくまが酷い。


「私達は妖精に纏わる伝説を集めておりまして、こちらに伝説が纏められた本があると聞いて訪ねたのですが。」


そんな本は知らないが権力者は大体、文献を集めているという当てずっぽうな考えからで正直、一か八かだ。


「ああ、そうでしたか。長は代々、様々な書物を守る役目も果たしております。貴重な書類は見る事が出来ませんが。」


やったー!かけに勝った。


「一部でも見せていただけるのならありがたい!」


「ええ、では中へどうぞ。」


「お邪魔します。」


娘が屋敷を案内してくれる。廊下、扉、また廊下。中へと進むが下女や付き人もおらずそもそもこの娘以外に人がいない。


「さあどうぞ、この部屋です。」


明るい笑顔で話しているが、やはりくまが酷いそれに少しやつれているようにも見える。


「ありがとうございます。そうだ名乗りもせずにすみません。私はゼロ、彼はホランド、私達はギルドに所属していて人助けのカテゴリーを主に依頼を受けています。」


「ご丁寧にどうも私はレディ、長の娘です。人助けですか。」


レディは少し考えている様子だ。ホランドは優秀な助手としてこの間に文献を漁ってくれている。ありがとう。


「何かお悩みでもレディ様?」


ニコリと微笑む、実は少しだけ1人で情報を集めていた。ここ最近、長が乱心している事、長の娘は優しくそんな父親を心配している事、他にも色々聞いたが重要なのはこの2点だろう。


「実は、父の事なのですが。」


それから父親が急に争いを始めると言い出した事、以前よりも頭に血が上りやすくなり誰彼構わず怒鳴るようになった事、時折、父親以外に誰もいないはずの部屋で誰かと話しているといったような出来事が起こっていて父親が心配だという話をしてくれた。


「そうですか、それは心配ですね。分かりました、もう少しサンラに留まるように致します。そしてレディ様の憂いをはらえるように策を練りましょう。」


「ありがとうございます。お代は?」


「成功報酬で構いません。その時にまた話し合いましょう。」


「そうですか、分かりました。ではごゆっくりどうぞ。」


「はい、帰る際にお声を掛けさせていただきますね。」


レディはニコリと微笑みお辞儀をして部屋から出て行った。


「それにしても不用心だな。俺達が本を盗むとは思わないのか?」


「ホランド、彼女はいい子なんだよ。邪な気持ちを抱かない良いお嬢さんなんだ。」


「それに、俺達は表向き男2人だぞ。襲われたり誘拐されたらどうする。」


「まあまあとにかく文献を。私は長の私室に忍び込む。」


「気をつけろよ。」


「ああ。」


本とにらめっこを続けるホランドをおいて部屋を出る。夢で見た長の部屋は裏の山に面した大きな窓のある部屋だったからとにかく屋敷の奥を目指す。奥に進むと扉が開いていて中に誰もいないのでそっと忍び込む。

あの夢に出てきた部屋だ。間取りも夢のままなのであれは単なる夢ではなく現実にあった事なのかと考えると恐ろしくなった。もしあれが本当の事なら長の身体には魔が宿っている。


「何か情報を掴まないと。」


引き出しを開けて物の場所を記憶する。魔法が使えない分こういう事は得意になった。あまり褒められた事ではないけど。机に付いている3段の引き出しを下から開けて探る。コルドへの攻め入り方と人の配置図だけを記憶して戻す。机から離れてキャビネットへ、観音開きの棚が1つと縦に5つ引き出しが付いているタイプの2つ。観音開きの方は鍵がかかっていて開かないので5つの引き出しを先程と同じように探る。


「これは?」


1番上の引き出しに黒い石が入っていた。私の拳程の石。輝く事無く吸い込まれそうな程深い黒。これが魔?いや今は長の身体に宿っているはず、だが禍々しい何かを感じる。触れないようにしよう。そっと引き出しを元に戻し、他に何も無いのでホランドのいる部屋に戻った。


「ただいま戻りました。ありがとう。」


「何か収穫はあったか?」


「ごめん、ない。」


「そうか、こっちはあったぞ。宿で話す一先ず戻ろう。」


「ああ、そうだな。レディ様!」


大きな声を出して呼ぶ。とたとたと走る音が聞こえる。


「お帰りですか?」


「はい、すみません不躾にお呼びだてして。」


「いえいえ。玄関まで見送りますね。」


そしてまた前を歩いて案内してくれる。


「それでは失礼致します。例の件考えますね。」


「はい、よろしくお願いいたします。」


レディは深く頭を下げていた。




「まず次の行き先候補はタリアだ。」


宿の部屋に戻るとホランドがいきなり言い出した。


「タリアだって?フランの近くじゃないか戻るって事?」


「さっきの本にタリアの近くの滝から妖精が湧き出すのだ。妖精は滝をゲートにしていると書かれていた。」


「えっ!凄い!じゃあ次はそこだ!やったー!ありがとうホランド!」


「子供みたいだな。じゃあ行くか?」


「いやそれはできない。レディ様と話をしたし。」


「お前は本当に。お人好しだ。」


「ごめんホランド。」


「まあ俺はお前のそういうところ好きだぞ。」


「ああ、ありがとう。」


ホランドがしまったという顔をしたので余計に照れてしまう。なんだか恥ずかしい沈黙は眠る迄続いた。


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