15、サンラ
村に戻るとすぐにお父様の私室に駆け込んだ。
「お父様、争いなんてやめませんか?コルド、いえ月の民にはもう戦力は残っていないじゃありませんか!古来から争い続けてきましたがここ数十年何もなかったではありませんか!どうして争いなんて起こすのですか?」
「おかしな事を聞くなそんなの決まっている。私がそうしたいからだ。コルドは目障りなんだよ消えて欲しい。」
そう言ってお父様は眠ってしまった。お父様は変わってしまった以前はあんな風ではなかったのに。私は自分の無力さを恨んだ。
「お願い、誰か助けて。」
「これはこれは夜深くまでお疲れ様です。サンラへようこそ。ここは伝説が残る村、村のあちこちに歴史を感じられます。」
サンラは確かに美しい場所だった。あまり人の手が入っていない自然に昔ながらの土壁の家屋、村人が着ている服装も色が入っている衣服はなく皆、真っ白の服で統一されている。
「こんにちは、私はゼロこっちはホランドです。随分とのんびりなさっているんですね。戦争を始めると聞いたのですが。」
「ああ旅人さん心配ありません。相手はあのコルドですから。寒い地域に住んでいて今日食べるものにも困っている病人だらけの村なんて相手にもなりませんよ。」
「はあ。では何故争いなんて?」
「うーん。昔から争っていたのですが村長がそろそろ終止符を打つと言い出して。」
なんともまあ理不尽な。怒りで拳を握る。
「とにかく旅人さんはゆっくり休んでくだされ。こちらへどうぞ。」
「はあどうも。」
宿に通されてひとまず休む。病人だらけの相手に。
「ホランドここに妖精はいない。馬鹿馬鹿しい争いを続ける村に妖精なんているはずがない。」
「ゼロが言うならそうかもな。」
ホランドはコーヒーを飲みながら言う。争いなんて、争いなんてクソ喰らえだ。
「ゼロ駄目だぞ。首を突っ込むなよ。」
「分からない突っ込むかも。」
「おいおい。」
「嘘だよそんなに子供じゃない。大丈夫誰にも見つからずにあの長だけを後ろから…。」
「おいやめろ。とにかく俺達が巻き込まれないならここで情報を集めよう。」
「わかったよ。」
「お前本当に湖を見る気があるのか?」
「うるさいな。今日はもう遅い寝よう。」
目を閉じると歩き続けた疲れからかすぐに眠りに落ちていった。
ここはサンラのようだ、あの恵みの森の近く。大きな屋敷で空色の瞳の女性と同じ瞳の筋肉隆々の中年男性が話をしていた。
これは夢だと気付いた。私は宙に浮いているしまだ表が明るいサンラを見た事がないからだ。
「お父様では森へ行って参ります。」
「ああ、気を付けてな。」
話している間ムスッとしていたのに娘が背を向けた途端、優しい瞳で娘を見送っている。
「大きくなったなぁ。レディも18、いやそろそろ19か。キャラがあいつを産んだ年齢と一緒だ。」
「ふむ、そんな大事な娘がコルドの息子に誑かされた、なんて辛いなぁ。」
いつの間にか全身真っ黒でヤギの角が生えた男が父親の後ろに立っていた。ローブを被っているので顔は見えない。あの男だ夢に出てきた。
「貴様!何者だ!魔物か?」
父親は素早く距離をとって対峙する。
「いかにも魔物だ。それより良いのか娘を傷付けられても。」
黒い男は皮袋から鱗粉のような物を掴み手の平に乗せ息を吹きかけた。すると粉が広がり先程の娘と若い男が川べりで肩を預け合って並んで座る姿が映し出された。父親の顔がみるみる赤くなっていく。
「こ、こいつはグレン。よりにもよって!」
父親は拳を強く握りしめているようで血が流れ始めた。
「人間よ。力を授けてやろう。そうすればお前に魔が宿る。身体に心に言葉にお前の全てに。」
「ああ、ああああああ!」
深い闇が黒い男の足元から現れそのまま2人を包み叫び声の後ふっと闇は消え父親だけが現れた。
そして大声で叫んだ。
「戦だ!皆の者、戦の準備をしろ!コルドを皆殺しにするぞ!」
村の者達が慌て取り乱しながら村中の者を集めだした。
「やあ女見ただろう。あいつは魔に魅入られた。もう戻ってはこられまい。あいつを救う事などできぬ。」
どこからともなく声がして高らかに笑った後消えて、目の前の景色も全て消えて私はまた闇に取り残された。




