14、晴れ間の雨
「ホランド、ここが噂の恵みの森だ。」
「ああ。」
「旅人が言うには森の中は石で舗装された今歩いている道以外の場所は由緒正しい村の長の家族しか入る事ができないらしい。結界が張られているのかその結界に許された者しか入れないとか言ってたけど。触らぬ神に祟りなしと言うし私達も余計な事をせずにこのまま道を進もう。」
「ああ、そうしよう。それにあの話も厄介だ。疑われるのも巻き込まれるのも御免だ。面倒は避けたい。」
「ああ。とにかくサンラの村を目指そう。そこには違う場所へと転移させてくれる魔法使いが居るらしいから。」
「だが誤算だったな。情報をもっと仕入れておくべきだった。」
「ああ知ってたら来なかったな。」
「ああ、本当だ。戦争なんて。」
「今日はすぐに会えたね。」
雨宿りをした木の近くで彼に出会った。私はまだ森に入ったばかりで籠には何も入っていない。毎日毎日彼に会いたいという気持ちだけで森に入っていたのに今日は浮ついている。それでも会いたい気持ちに嘘はない。
「あの山菜を一緒に採りに行きませんか?」
「ありがとう、良いね。」
彼は私が渡した籠を背負い歩き始めた。ゆっくりと周りを見渡しているが何も見つからないようだ。たまらず手を引いて場所を教える。
「君は目がいいんだね。僕は少し目が悪くてごめんね。足でまといになってしまうね。」
申し訳なさそうに呟く彼の手を優しく握る。
「大丈夫。ゆっくり行きましょう。私が見つけますあなたの代わりに。だから一緒に。」
私は本当に狡い、こんな言葉をかけておきながらただ彼と一緒にいたいだけなのだから。
彼は微笑みながら頷きまた山菜を採り始めた。なるべく彼にピッタリとくっついていた。でもどうしても集中出来ず、私は彼に話し始めた。
「これからは中々会えないかもしれませんね。」
「そうだね。」
「そうだねって、争いが始まるんですよ!分かってるんですか!今度会う時はきっと私達……。だから、だから今日はなるべく一緒にいたいって。」
「ああ、そうだね。」
彼の顔から笑みが消えた時、雨が降り始めた。晴れているのに大粒の雨が彼の頬を涙のように流れた。仕方なく洞窟へ入った。あまり奥には行かず光が入る場所へ。彼が抱きしめてキスをしてくれたので、そのまま私は彼を受け入れた。
「これは夢なんだろう。あなたとこうなれるなんてきっと夢だ。甘く悲しい夢。」
彼は腕枕をしていない方の手で私の髪を触る。私は彼の胸に顔を押し付け肌の温もりを覚えようとした。夢だとしても忘れたくなかった。
「次に会う時はきっと全く違う形で対面する事になります。その時どんな顔をすれば良いのか。」
「ふふ、サンラの長の娘ともあろう人が弱気になってちゃ駄目だよ。それにこちら側に勝ち目なんてない。きっとあなたの所まで行けるはずもない。だから会えないよ。」
そっとキスをした。触れるだけの優しいキス。彼は出会った時から今までずっと優しい人だった。今はその優しさが痛い。どうせなら本当に騙してくれれば良かったのに。私を騙して情報を得てくれたら心から憎んだのに。
「あなたとこんな形で終わりたくなかった。ねえグレン私はもっとあなたと一緒に。」
名前を初めて呼んでも否定しない、やっぱりそうなんだ、コルドの村の長の息子グレンだ。違うと願っていたのに。
「レディ僕達にはこの終わりしか無いよ。未来なんて無い。でもそれでいいんだよコルドの村は寒くて寒くて病だけがそこにある。あそこに未来はないコルドはやっと終わる事ができる。最期にあなたと出会えて優しさに触れて幸せだった。」
そして私の名前も知っていた。知っていたのに騙さなかった。そんな悲しい言葉聞きたくない。
「グレン。嫌よこんな。」
「幸せだったんだよ。寒さと病と争いしかなかった僕の心に短い期間で色んな物を入れてくれて色を付けてくれた。ありがとう。」
「嫌よ!こんな…。」
「さあ夢から覚めて現実に戻ろう。今度もし会う時があれば僕達は敵同士だ。」
優しく冷静にグレンは言い洞窟から出て行った。雨がまだ降り続いている中を出て行った。




