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12、転移先は


サンラ 恵みの森


私はあれから森に入る時彼に会えないかなと考えながら入るようになっていた。毎日水汲みやキノコや木の実を採りに入る、そんな時また会えたらなんて。子供のように運命の人ならばきっと会えると信じている。馬鹿馬鹿しい程信じている。


「さすがに軽装過ぎかな。」


サンラはそもそも温暖で過ごしやすく通年20度前後で、恵みの森は魔物や毒虫等出ないし切り立った崖もないので割と軽装でサクッと来ることができるとはいえこれはないかとワンピースをつまむ。もし彼に会えたらできるだけ可愛い格好で会いたいという邪な考えで森に白いワンピースで来てしまった。


「今日も駄目か。」


少し肩を落とす。キノコと木の実、果物は採り終えた。何なら会いたくていつもより長く森にいたからたくさん籠にいれた。


「帰ろうかな。」


空を見上げてぼそっと呟いた時、雨が頬にあたり流れた。まただ晴れているのに雨が降り始めた。あの時と同じそしてまた雨宿りをする為にあの時と同じ木の下へ。


「おや、また会ったね。」


優しく柔らかい声。見上げると彼だった。優しい笑顔に胸がぎゅっと締め付けられる。今日は黒い革の手袋に黒い厚手のローブを脇に抱えている。それ以外は前回と変わらない白い長袖のシャツに黒いズボンにショートブーツをはいている。


「こ、こんにちは。」


「はい、こんにちは。前はありがとう。良かったいつか会えないかと思って籠を持ってきていて。返すねありがとう。」


彼も私に会おうとしてくれた?って籠を返す為ね。喜んだり落ち込んだり忙しい。だったら狡いけど。


「そのまま持っててください。」


彼は素直に籠を持ってくれている。その中にキノコや果物、山菜をこれでもかと入れる。


「えっ。どうしたの?」


「私、昔から山の中でこういう物を探すのが村で1番得意なんです。だからあなたにお裾分けです。ご兄弟が多いんでしょうだから。」


彼は籠の中を覗き込む、前髪に隠れて表情が分かりにくく、迷惑だったかなと不安になってきた時、口元からふっと吐息が漏れ笑いだした。


「ふふ、ははは。あなたは。僕が悪い奴だったらどうするの?騙しているかも。」


そんなに優しい瞳で騙すなんてと思ったけど、


「ただ……ただ私がこうしたかったんです。だから騙すとかそんな事は関係ありません。」


「そ、うか。ありがとう。ねえまた会えるかな?今度は僕が君に何か贈りたい。」


「そんな、いいです!大した物ではないし。」


そう言って俯くと、黒い革の手袋をしている手で顔を持ち上げられて、


「僕があなたに贈りたいんだ。僕がそうしたいんだよ。」


と囁かれる。


「わ、わた、私は毎日、森に来ます。大体同じ時間に。」


「ああ、じゃあまた会おう。ちょうど雨も止んだしね。先に行くよ。食べ物を本当にありがとう。」


「ええ、さようなら。お気を付けて。」


神の御加護を。前回、神の名前を出すと悲しい顔をしたので声には出さずに彼の無事を祈った。


「また名前を聞きそびれた……。」



王都 王宮魔法使いの私室


「ほう、ではサンラへ?」


「はい、お願いします。」


結局、転移門は王族しか使えなかったので断念したらウィンター様がわざわざ以前サンラへ行った事のある魔法使いを探し出してくれていた。私とホランドは装備を整え王宮を訪れた。


「ええ、私は1度訪ねた事がありますので転移させる事ができますよ。あそこはいい所です。美しい大自然が広がり木々や草花もいきいきとしています。古来からの伝説や逸話が語り継がれ民は生活様式を変化させる事なく助け合い生活している。ただ、前回訪れたのは10年以上前の事なので内政は少し変化しているやもしれませんが。」


「そうですかありがとうございます。とにかく行ってみます。」


話終えると不憫そうに私とホランドを何度も見てはため息をついた。


「それにしてもケイト様とホランド様がギルドなんて勿体ないです。お二人共とても優秀なお方なのに。」


歳を召した男性の魔法使いは転移の魔法陣をノロノロと描きながら呟く。まあ王宮にいる間は言われ続けると思っていたので言わせておくことにする。


「さあ出来ましたぞ。では行きますぞ!えい!」


ぱあっと光に包まれ不思議な感覚に一瞬陥るともうそこは王宮ではなく森の中だった。地図とコンパスを出して確認する。


「こっちに行けばサンラだ。それにしても、えいって。」


私は堪えきれずにふき出した。詠唱をせずに転移させたのだから権威ある魔法使いなのだろうが、えいって。


「さあ行こうかゼロ。」


「ああ、ホランド。」


どうやら村は移動したようで転移先にサンラの村はなく地図を見て進んでいくしかないようだ。サンラは暖かく私もホランドもローブを脱ぎ丸めて背負い歩き始めた。


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