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11、肩書き


サンラ 恵みの森


太陽が出ているのに雨が降り始めた。ポツリと頬に雨の雫が落ちて涙のように流れる。大粒の雨が地面を濡らし水溜まりを作る。少し風も出てきたので青々とした木々の葉が揺れている。


「珍しい天気、こんなに晴れているのに。通り雨だといいけど。」


私は仕方なく大きな木の下に入ってもたれかかった。背中に背負っているキノコの籠を忘れていて慌てて下ろすとキノコが転がり籠から出てしまった。


「ああ、もう。」


と転がっていったキノコを誰かが持ちあげた。ふと見上げると目の前に若い男が立っていた。


「これあなたの?」


「あっそうです。」


「ふふ、はい。」


若い男は優しい声で笑い、キノコを手渡す。少しくせっ毛の亜麻色の髪がキラキラと陽に透けている。瞳も亜麻色の垂れ目まとっている空気が穏やかそのもので、気性の荒い父や兄、祖父とは全く違う。


「あなたも雨宿り?ごめんね若い女性と2人きりなんて雨が止んだらすぐに行くから。それまで我慢してて。」


「あ、いえ。あの大丈夫です。」


何故か真っ直ぐに顔を見ることができなくて俯きながら答える。顔が熱い。


「ありがとう。僕は木の実と薬草を採りにきたんだけど、あなたはキノコを?」


「ええ、キノコのスープを村で作るので。」


「そう。それならこれも入れてみるといいよ。サカの実って言うんだけど少しピリッとするんだ。美味しいよって見ず知らずの奴の物なんて嫌かな。ごめんね。」


「いえ、貰います。私はそれがサカの実だと知っていますから大丈夫です。」


「そっかそれなら良かった。どうぞ。」


男が手の平に数粒、実を乗せてくれる。これはサカの実だ毒性もなければ幻覚症状等も出たりしない。崖等、人が立ち入ることが難しい場所に生えているせいでほとんど見た事がなかったが、この人は山歩きが得意なのだろうか。その割にはあまり収穫はなさそうだけど。だったら。


「貴重な物をありがとうございます。お礼と言ってはなんですが籠が2つあるのでキノコを半分受け取ってください。」


2つ一緒に背負っていた籠の1つに半分より多めにキノコを丁寧に移した。村にもキノコがあるし何よりサカの実は貴重な物だ。キノコ2籠でも交換できない代物だ。


「えっそんなの悪いよ。そんなつもりで渡した訳じゃないし。でも…そうだなお言葉に甘えて頂こうかな。うちは兄弟が多くてね毎日毎日食べ物探しで必死だよ。」


「優しいお兄さんなんですね。」


「そんな事ないよ。ふふ。さあ雨もあがったし僕は行くよキノコ本当にありがとう。」


「いいえ。私も村に戻らないと。」


「じゃあね気を付けて。」


「ええあなたも、神の御加護を。」


「神ね。ありがとう。」


最後に見せた顔は悲しい笑みだった。



王都


「ケイトちょっといいか?」


結局、王都にいる間ホランドの実家で寝泊まりしている。舞踏会から帰ってきて着替えを済ませホランドが軽く夜食を作ってくれ、食べ始めた時だった。


「俺は今、お前がどう思っているか分からないが。俺は好きでここにいるんだよ。お前が王妃だからとか宰相の娘だからとか優秀だからとかどうでもいい。俺はお前を……ケイトというお前自身を大事に思っているからここにいる。ただそれだけなんだ。だから私のせいで俺の夢がとか考えずに真っ直ぐに前だけ見てろ。」


「ホランド。急にどうしたの?」


真面目に気持ちを伝えてくれたのに少し茶化してしまう。そうしないと泣いてしまいそうだったから。1番欲しい言葉だった。肩書きじゃなくて私自身を見てくれるというその言葉が欲しかった。


「茶化すなケイト。大事な話だ。」


「ふふ、うん分かったありがと。」


「ああ。明日、転移してもらうんだろう早く寝よう。」


「うんおやすみ。」


「ああ、いい夢を。」


ホランドはおでこにキスを落として自室に入った。


「もう。」


私も部屋に戻りベッドに入った。


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