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1、婚約破棄


第一王子私室



「サマー第一王子、私の心に恋の矢が刺さったみたい。貴方から離れられそうにありません。」


ぽっと頬を染め可愛らしく微笑む。ふわふわ茶髪のボブの髪に王子が優しく触れる。


「アリア、僕の可愛いアリア。そうだ一緒になろう。君の傍にずっといつまでもいると誓うよ。」


「まあ、嬉しい。」


王子の部屋で若い2人が愛を交わす。王子の長い金髪が風に揺れる。王子に肩を抱かれてアリアは小動物のようにビクリと体を震わせた。そしてそっとキスを交わす。


パシャリ。


無機質な機械の音が部屋に響いた。部屋の中の2人は恐る恐るドアの方を見る。


「そこに誰かいるのか!」


王子は剣を慌てて掴み叫んだ。私もドレスを正しゆっくりと挨拶をする。


「御機嫌ようサマー王子、貴方の婚約者のケイトですわ。」


王子は顔を引き攣らせ慌てた様子で挨拶を返す。


「ああ、お前か、どうしたんだい?今日は予定がなかった筈。君はお茶会に出席すると聞いていたが?」


「えぇ、ですが噂を耳にして急いで帰って来ましたの。」


「噂?」


「ええ、私の婚約者がメイドと愛し合っていると。……ふぅ。そのご様子だと噂は本当だったのですね。」


少し俯き悲しんでみせる。


「あっケイト、こっこれは!」


「はしたないとは思いましたが、盗み聞きさせていただきました。本当に、残念ですわ。」


扇子で口元を隠し悲しい顔をしてみせる。公爵令嬢として表情を自由自在に変えることなど容易いわ、はっはっはっ。


「す、すまない。」


「ですが、愛し合う事は仕方の無い事。そこで私から1つ提案があるのです。」


「なっなんだ!申してみろ。」


「はい、私との婚約を破棄しましょう。その代わりこの魔法の契約書にサインをしていただけますか?」


「契約の内容は?」


「貴族の中で当家であるノワール家を1番懇意にしていただきノワール家が今後も宰相職を継ぎ続ける。というものです。今の状況とさほど変わりはありませんし、いかがでしょうか?」


「ああ、そんなことなら書いてやろう。」


「有り難き幸せ。」


王子はサラサラと署名し判まで押してくれた。多分早く私を追い返したいのであろうな。まあ良いでしょう邪魔者は消えますよ。


やっと、やっと解放される。この瞬間をずっと待っていたのだから!王子の婚約者として教育を受けて、血が滲むような努力をしてそれがもう終わる!



「馬鹿者!!!」


父上に怒鳴られる。まあこうなるとは思っていたが。長身でガタイもよく黒いスーツを着こなし髪もきちっとあげている。目もいつも以上につり上がっていて恐ろしい。


「お前は何を考えておるんだ!恥ずかしい!婚約破棄など!王子も王子だが、お前もお前だ!」


「はい。」


「今すぐに婚約破棄は嘘だと謝りに行きなさい!!」


「それは……できません。」


「なんだと?」


父上がここまで怒り狂っているのは初めてかもしれない。政略結婚だし、魔法の契約書でちゃんと約束は取り付けたし良いじゃないか!


「私は!私は虹の麓を探して妖精の国シーナを見つけます!それが夢なんです!」


「何を馬鹿な事を!お爺様の戯言を!だからあいつの父親は嫌いなんだ。」


父上は母上の父を嫌っているけど私は大好きだった。そしてお爺様が話してくれるあの妖精の国のお話が大好きだった。この世界で1番美しい湖があるとそれを死ぬ迄に絶対に見ると決めていた。


「おい!聞いているのか!」


もういい、もうケイトは死ぬしかない。父上の仕事机に置いてあるペーパーナイフを握る。もうこれしかないのだ。腹はくくった。


「おい何をするんだ?」


私は自分の黒い髪を掴みナイフでバサリと切り落とした。30センチは切っただろう。父上が言葉にならない叫び声をあげている時、きっと今は弟よりも髪が短いなと考えていた。父上の叫び声に母上と弟のタイムが部屋に入ってきた。床に落ちている髪と私を交互に見比べ、タイムは


「まあ、姉さん似合っていますね。美しいです。」


といい。母上は


「素敵ね。好青年に見えるわ。」


と言った。この2人は本当に好きだ。やっぱり。


「ノワール家の皆様、ご存知の通りケイトは婚約破棄をして次の結婚相手が決まりづらい身となりました。そこで私は消える事にします。新しく…そうだなゼロという男としてギルドに入りお金を稼ぎ生きていきます。もうノワール家とは関わりません。父上それで手を打ってください。」


と言い切った所で誰よりも先に口を開いたのはタイムだった。


「嫌です!!……じゃなくて駄目です!別にうちにいれば良いではありませんか!僕も結婚せずにずっと一緒に家にいますから!大丈夫!叔父上のところのご子息も優秀です。姉さんの契約はノワール家です叔父上も勿論ノワール家ですから!ねっ!姉さん一緒にいましょう!」


タイムが私の足に縋り付き泣きながら早口で話す。うわぁ。いつにも増してシスコンが酷い。180センチ越えの体を鍛えている近衛兵の男が私にタックルしてくるとは、まあ私も鍛えているから大丈夫だけどね。それにしてもさすが王子に向かって姉さんとは釣り合わない軟弱野郎と言い切った男だな。可愛い弟。


「タイム、愛しい弟。これからノワール家を頼む。」


「ねえケイト、そんな寂しい事を言わないで。別に結婚が全てではないわ。タイムの言う通りうちで過ごせばいいじゃない。貴方を愛しているの家族じゃなくなるなんて辛すぎるわ。」


母上が優しい笑顔で言う。母上は王都から少し離れた田舎の出身なのでそちらに行ってもいいと考えているんだろう。


「母上ありがとうございます。でも小さな頃からの夢を追いかけます。それから考えさせてください。」


父上はじっと黙っている。母上は悲しく微笑んで何も言わなかった。タイムを何とか引き剥がして私は前々から準備していた服や食べ物を袋に入れ背負い家を出た。



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